転生の場1
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「ここが、転生の場、か………。」
両開きの大扉を潜り抜け、二人は転生の場と呼ばれた場所に手を繋いだまま並んで立った。
それは例えればビルの非常階段に似ていた。
二人が立つのは大人5〜6人は立てる広さの踊り場。背後にはさっき通った扉が聳え立ち、前方数歩先の左側には昇りの階段、右側には降りの階段があった。普通の非常階段と違うのは壁や柱、手摺がなく、踊り場や階段は宙に浮いていた。辺りを見回せば、そこは広大な屋外の空間が広がっていた。上を見上げるに連れて明るくなり青い空となった。逆に下を見れば視線を落とすに連れて暗闇に変わっていった。遠くに目を凝らすと、二人のいる踊り場のような建築物があちこちにあった。
「そうです。ここが"次なる世界"への唯一無二の通路、転生の場です。」
「俺、もう少し違うのを想像してました。お話の世界とかだと、真っ白い部屋で『転生の間』とか呼ばれていて。部屋の中央にでっかい宝の岩があったりして。それに触れると異世界に行けるみたいな………。」
「そういう部屋もありますわ。通常の転生で使われるのでしょう。"次なる世界"への移行ではこちらが使われます。」
「それは、何故で…す…か?」
男は質問するために隣のアイリスに顔を向けると、彼女の様子はガラリと変わっており、言葉に詰まってしまった。
彼女は先程のキャリアウーマン風の服装から、白いドレスに変わっていた。煉獄の時と似ているが、装飾が違った。
布地に余裕のある白いドレスの上からは赤地に金縁紋様をあしらったサッシュ(肩掛け)が肩から腰に掛けられている。首周りには金の頸飾が輝いている。肩にかけた領巾は昔話の天女の装いのようにフワフワと浮いていた。両手には白のオペラグローブを着け、片手には背丈を超える金の杖を携えていた。
アップにしていた髪を下ろして左右に流した頭部には、天使の輪が浮いていた。見ると宝石が埋め込まれた宝冠に見え、ゆっくりと回転していた。そして、眼鏡を外したアイリスの表情には、自信と慈愛が溢れていた。
男は再度の衣装替えに驚いた。上述した衣装のことは知らなかったが、アイリスは天使の神々しさを放っていた。
「あぁ、綺麗だ………。」
男は思っていることがつい言葉に出てしまった。
「あー、オホン。"次なる世界"はこの階段を昇った先にあります。見えますか?」
アイリスは少し照れを隠すために空咳を一つしてから、杖を差し上げて男の目線を上方に向けた。男もぼんやりした頭をシャキッとさせて天を仰いだ。
昇りの階段は緩やかな螺旋を描いており、頭上の光源へと続いているようだった。目を凝らすと、どうにか両開きの扉を小さく見て取れた。
「見えましたか?あれが"次なる世界"への入口になります。貴方があの扉を潜った後に前世の記憶は洗い落とされ、産まれたての魂として転生することになります。さぁ、ワタクシが先を行きますので、先ずは昇りましょう!疑問には道中にてお答えしましょう。」
アイリスは繋いでいた手を離して、先導するように左側の昇り階段に向けて歩を進めた。そしてスタスタと階段を昇りだした。
男は置いていかれないように慌てて歩き、階段に足をかけた。
すると何処からか、
【…………。】
か細い何かの音が聞こえた気がしたが、男はすぐに気にもせずに階段を昇り始めた。
二人はアイリスが先に立って階段を昇った。アイリスは一段一段と歩を進めて、男も後を着いていく。
しばらく二人は黙々と昇って行った。
(何か会話がないかなぁ………。)
無言でいる事に少し気まずく思い、男は女性とのコミュニケーションの基本、着ている衣装について話しかけた。
「アイリスさんの今の衣装はとても豪華でお似合いですね?」
「そうですか?!褒めてくださりありがとうございます。天使には、その場その場には相応しい衣装を着るのを求められています。この衣装はですね、転生の場で魂を導く為の由緒正しきものなのです。初めてこれの袖を通すので楽しみだったんですよ。」
アイリスは振り返りながら嬉しそうに答えた。
(そっかぁ、天使にもTPOに合わせて服が決められているんだなー。スーツ姿とか、やけに決まってたもんな。コスプレ好きかと思ったよ………。うん?初めて袖を通した?ということは………。)
「アイリスさん、もしかして転生の場で魂を案内するのって初めてですか?」
男はふと軽く思ったことを尋ねた。
その瞬間、アイリスは歩みを止めて固まったが、振り返ると矢継ぎ早に喋り出した。
「えっ、ええ、そうですとも!はっ初めてですが何か?貴方の魂の導き方については試行実験及び予行演習を500回以上も重ねてきましたわ。ここまでの受け答えは問題無いのでは?べ、別に初めてだからって恥ずかしいことですか?そうじゃないですよね?そうじゃないですよね??理解して頂けましたか?!」
「え、えーと。はい、仰る通りです。アイリスさんが担当で、助かりましたです。ハイ。」
男はアイリスの勢いに呑まれて全肯定の返事しかできなかった。
「それなら、良かったですわ。さぁ、先を進みましょう!」
少し顔を赤くしながらアイリスはサッサと先に進んでいった。
(あんまり触れちゃいけないことに触れたようだな………。)
実は、天使にとって魂を上位世界へ導くことは当たり前にこなす仕事だった。それがアイリスにはなかなか回ってこなかったので、本当は未経験が恥ずかしかったのだ。
天使の事情を知らない男はアイリスの豹変に驚いたが、出会った頃よりも人間臭い感覚が増えてきた彼女には好感が持ててきた。
【………ス………ネ……】
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