"次なる世界"とは2
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男から質問を受けた時、アイリスは残念そうに軽く首を横に振った。
「異世界に送られた後の運命については、ワタクシからは何も申し上げられません。いえ、本当に知らないのです。話しの折に運命を予測した結果をお伝えしましたが、人生をある程度生きてからでないと困難なのです。生命が生誕した瞬間には、宇宙にある星と同じくらいの数の運命が待っているものですから。」
「そうですかぁ………。あっ、でも仮名:平田ジュリアスという名前は決まっているんですよね?どこか平田さんの家庭で生まれるんですか?」
男が指摘すると、アイリスは胸の前で軽く両手を合わせて、今それに気付いたという反応をとった。
「あぁッ、そうですね。"次なる世界"への転生先は決まってますよ。机をご覧くださいね。」
そう言って、例のごとくスナップを鳴らした。
パチン!
すると机の板面に映像が映し出された。アイリスは指や声の命令で机を操作して資料を探し始めた。
(まるでパソコンみたいだな。もっと便利そうだ。)
アイリスは資料を探しながら説明を始めた。
「貴方の転生先は地球によく似た惑星とお考えください。文明や社会水準が惑星まるごと発展していて、貧富の格差がほとんどありません。この星の知性体の生活水準は概ね豊かですね。貴方は星の東部地域にある病院で生まれます。」
"次なる世界"についての情報が続々と流れていく。
「へー、貧困問題が無いなんて。さすが"次なる世界"だ、スゴイですね。仮名:平田ジュリアス、ってことは俺は外国とのハーフってことですか?」
「いえ、歴とした血統の生まれになります。」
「スゴイ!生まれながらの貴族や王族みたいじゃないですか?」
「………貴族や王族?………」
アイリスは男の喜ぶ様子を見て操作を一旦中断した。怪訝な表情になったが、すぐに何かに気付いて元の明るい表情に戻って作業を再開した。
「あぁ、勘違いされていますわ。貴方が生活する平田家は、一般中流階級の5人家族です。貴方の立場は、その家で貰われる予定の金色の大型犬の仔犬です。前世の犬種にあやかれば血統書付きの『ゴールデンレトリバー』ですわ。」
「イヌー!?俺、次も人間かとズッと思っていた!」
男はアテが大きく外れたことにショックを受けた。
アイリスは男を諭すように丁寧に説明をした。
「転生はどの魂でも起こる奇跡であり、どの生物にもなり得る事象です。上位の世界"次なる世界"への初めての転生なので、これが一番無難なのです。飼いならされて家族と触れ合い、飼い主の家族の心を癒やすのです。仮に何も事績を上げられなくとも、『"次なる世界"での通常の転生』によって高い知能を持つ生命体に生まれ変わる可能性があります。」
冷静に解説されると、男はそれで納得しそうになった。
(まぁ、餌付き屋根付きの家に住めるなら、それでもいいか?彼女にもペットみたいだとか言われたし。案外ペットになる能力が高いかもしれないなぁ。)
「ありましたわ!平田さん一家です。どうぞご覧ください。」
そこには平和な一般家庭を映した各種の動画があった。真面目そうなお父さんにおおらかな笑顔のお母さん。小さくてやんちゃな長男と幼いがしっかり者の長女、ヨチヨチ歩きをする次女。どこにでもありそうな家族の風景。
不意に、この家族と共にありたいと思った。
決して男の前世の家族が疎遠とか険悪ということはなかった。だが、死別した彼女と笑顔がいっぱいの家庭を築くとかを妄想していたのであった。そんな家庭が目の前にあった。男は流れる映像から目を離せなくなった。
男の心の内を察したのだろう。アイリスは少し前屈みになって男の目を見ながら優しく問いかけた。
「いかがでしょうか?仮名:平田ジュリアスさん。今回の"次なる世界"への移行を了承していただけますか?」
(そうだな。こんな暖かそうなご家族の一員にしてもらうんだもんな。よし、決めた!)
そう決意すると、男もアイリスの目線と己の目を合わせながら席を立って答えた。
「分かりました。是非とも"次なる世界"への移行に進みたいと思います。手順や手続きを宜しくお願い致します。」
サラリーマンの癖が抜けなかったのだろう。最敬礼の所作でアイリスにお願いをした。
アイリスは奇麗な最敬礼を見て大きい目を数回瞬きした。その後、少し顔が赤くなった。
(ちょっとカワイイところがあるのね。)
まだ頭を上げない男をよそにアイリスは席を立って、照れを隠すために少し大きな声で応えた。
「お顔を上げてください!ご了承していただきありがとうございます。それでは、早速、移行のプロセスを進めていきます。まず仮名:平田ジュリアスさん、片手を前に出してもらえますか?」
男は姿勢を戻してから言われるがままに、おずおずと右手を差し伸べるとアイリスが握手をしてきた。途端に右手全体にビリビリッと痺れが走った。
慌てて手を引っ込めて握手した手を見ると、掌の真ん中に円と三角形を組み合わせた紋章が浮かび上がっていた。
「それは、今後のプロセスに納得して頂いたという証になります。良かったですね?!」
「イテテテ。ハイ………。」
男が痛みの残る手を摩りながら生返事をする中、アイリスは元気に歩き始めた。
「さァ!こちらにいらしてください。」
アイリスは男に付いてくるように誘い、背後の部屋の壁まで連れて行った。彼女はツカツカと壁に近寄って両手を上に掲げ、掌を壁にかざして何事かを囁いた。そして両手同時にスナップを大きく鳴らした。
バヂンッッッ!!
すると、壁が変形をして見上げるほど大きな両開きの扉が現れた。扉には複雑な紋章が幾つも刻まれてあった。アイリスは笑顔で男に振り向くと片手を繋いで力強く引き寄せた。
「さぁ!共に参りましょう転生の場へ!!」
「転生の………『場』?」
アイリスは片手で重厚な扉を押し開き、二人は手を繋いだまま扉の向こう側、『転生の場』へ足を踏み入れたのだった。
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