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第九十三話 ベータスの師匠

「どうやっていけばいいんだ?」


 ガムチチは首を傾げた。白い霧に浮かぶ島へ行く道がないのだ。空を飛ばなくては島には行けそうにない。

 するとドスケベデスが説明した。


「大丈夫です。私が橋を作りますので」


 パチンと指をはじくと、霧が集まり白い橋が生まれた。霧はドスケベデスの身体であり、自在に物を生み出せるようだ。


「どうだいすごいだろう。この霧すべてがドスケベデスさんなんだ」


「さすがですね。大魔王エロガスキーとは別の力があるようです」


 ベータスが自慢げに語り、ギメチカは感心していた。

 ガムチチたちは橋を渡ると、島にたどり着いた。家はどこにでもありそうなつくりである。

 ベータスと師匠の二人暮らしらしいが、十分生活できていそうだ。


「師匠!! ただいま帰ったぞ!!」


 ベータスは扉を開けた。部屋の真ん中には茶色い大きな壺が置かれてある。木の蓋がしてあった。

 部屋にはテーブルや椅子、食器棚に本棚など生活に必要な家具が置かれてあった。しかし師匠らしい人は見えない。どこにいるのだろうか。


 すると壺がカタカタと揺れる。すると木の蓋が浮かび上がった。そこからピンク色のスライムが出てくる。 スライムはツインテールの美少女へ姿を変えた。


「……おかえり、ベータス。思ったより、早かった、ね」


 スライムはたどたどしく答える。ガムチチは意外な姿に驚いた。ベータスから話に聞いていたが実際に見るとでは違う。

 だがギメチカは目を見開いている。何やらスライムの姿に見覚えがあるようだ。


「あなたの姿、初代ゴマウン帝国皇帝、ゴロスリ様そっくりですね」


「そうなのか? 俺はゴロスリなんて話しか聞いたことがないが」


「ゴマウン帝国の城には若き日のゴロスリ様の肖像画がありました。今は城が崩壊して、無くなりましたがね」


 ギメチカの説明にガムチチは納得した。なら目の前のスライムはなぜゴロスリの姿をしているのだろうか。


「私の、名前。ゴロスリ」


「? なぜあなたはゴロスリ様の名前と姿を騙るのですか?」


 ギメチカの目が鋭くなる。ゲグリソの村でゴロスリの名前を聞いているが、彼は皇帝ラボンクに対して含むものがあるが、ゴロスリに敬意を抱いている。そんな彼がゴロスリの姿をしたスライムに敵意を抱いても不思議ではない。


「そもそも、私は、ゴロスリ、本人」


 意外な一言にギメチカは目を丸くした。


「ベータス、私は、きちんと、説明、した。なぜ、彼等は、知らない?」


「そうだっけ? 俺はそんな話聞いてないけど」


「たぶん、ベータスさんは耳に入ってないのでしょう。自分の双子の兄と出会えると聞いて興奮していましたからね」


 ベータスはあっけらかんとしているが、ドスケベデスが補佐した。


「あの、申し訳ありません。一から説明してもらえませんか?」


「うん、する……」


 ゴロスリはジト目でベータスを見てから、ギメチカに説明した。


 ゴロスリは公式では六八歳で死去したことになっている。しかし彼女は死に間際にスライムに魂を憑依させた。憑依魔法と言って、魔女が後継者に不安があるために、自身の魂を物などに憑依させるためだ。

 ゴロスリがスライムに憑依させたのは、ゴマウン帝国の最後を見届けるためだ。彼女は神の声を聴いて今度の魔王が最後であることを知っていた。しかし誰が魔王になるかはわからない。あくまで次が最後だと説明されただけだ。


 ゴロスリはこの地に隠れ住んだ。だが歴代魔女は彼女の事を知っていた。もちろん最後の魔女であるバガニルも知っている。

 一九年前にゴロスリはハァクイから連絡を受けた。これから生まれる子供がラボンクの手先になり、悪行の数々を繰り広げる予知が見えたらしい。

 だが腹の大きさから双子が生まれることがわかっていた。だがもう片方の未来が視えない。


 なので後で生まれた子供は死産ということにして、ゴロスリが保護することになったのだ。

 当時の産婆はゴロスリであった。彼女が自身のスライムの身体で死産として誤魔化した。

 ハァクイはベータスと名付けたので、ゴロスリはそうした。


 その後、ゴロスリはベータスの面倒を見た。自身は子育ての経験がないため、ドスケベデスが手伝ってくれた。魔法の修行を繰り返し、時折ゲグリソの村などに遊びに行かせたりした。


 だがギメチカは予測していた。ベータスは同性同士の性交を忌み嫌っている。それはゴロスリが信仰しているケッホル教の教えであった。

 ケッホル教はゴスミテ王国の主流だが、元はゴマウン王国の国教だ。カホンワ王国はタイナイモ教を信仰している。ゴロスリはゴマウン帝国の皇帝になったが、ケッホル教からタイナイモ教へ変えたのだ。

 

「まさか、ラボンクが、魔王になるとは、思わなかった。ハァクイ、とっても、悔しそう」


 ゴロスリがつぶやいた。信じられないといった感じだ。


「そうなのか? 俺はラボンクとは出会ったことがないが、最低の皇帝だったんだろう? 勇者になるのはその国の王様だとバガニルさんから聞いたが」


 ガムチチが言った。勇者とは太陽の光を蓄光させた存在だ。一見正義感の塊に見えるがそんなことはない。邪気を集めた魔王と融合し、浄化して消えるのだ。ラボンクとその妻バヤカロは勇者と魔王になり、融合して消えるはずだった。それがバヤカロの父親であるアヅホラも取り込んだためにラバアという三つ首の存在となり、未来永劫、邪気を収集し浄化することになったのだ。


 だがゴロスリは首を振る。


「そんなことは、ない。王様ではなく、宰相とか、将軍とか、王家の関係者が、魔王に、なる。本当なら、ラボンクの、奥さんの、父親が、勇者になる、はずだった」


 アヅホラは権力欲の強い男だったという。自分の娘を皇妃にして生まれた子供が皇帝になることを夢見ていた。それ故にアヅホラは娘をけしかけてラボンクに自分たちが有利になるよう働きかけたそうだ。


「アヅホラは、帝国を、自分好みに、変えようとした。今までの、帝国の、法律を、無視して」


 ゴロスリは不機嫌になった。帝国では外国人に対して無料の医療機関があった。金のない外国人は無料で医者の治療を受けられたのだ。アヅホラはそれを廃止すべきだと訴えた。

 最初ラボンクは反対した。なぜなら外国人の治療を無料にしたのには理由がある。

 

 若い医者の卵たちに経験を積ませるためだ。治癒魔法はあるが使い手は限られている。医学は魔法が使えなくても使えるのでそちらに力を注いだ。

 だが国民を人体実験にはできない。だから外国人を利用した。例え治療に失敗しても他国なら金がなければ死んでいたのを、帝国では無料で奉仕されるのだ。家族もあまり文句は言えないし、言うつもりはない。

 さらに新薬の実験もできる。何十万の外国人が命を落としたが、その治験のおかげで帝国の医学薬学は世界一となった。

 

 キャコタ王国も帝国の製薬は輸入している。ラボンクも金になる産業を潰すつもりはなかった。

 それなのに叔父であるアジャック枢機卿にも説得されて、無料をやめた。さらに医学を一切廃棄させる。

 ラボンクは歴代最高の皇帝なのに、過去の遺物に囚われるなど言語道断と言われたためだ。アヅホラとバヤカロもその後押しをした。


「当時のラボンク様は狂ったと言われていました。皇帝に即位した当初はバガニル様やゲディス様に対しても敵意が薄れていました。そもそも皇帝になったのだから姉弟を恐れる必要などありませんね。ですがバヤカロ夫人とアヅホラ卿が年がら年中口うるさく耳元でささやかれ、持ち上げられたためにおかしくなったのです」


 ギメチカは悔しそうに吐き捨てた。ラボンクは確かにゲディスや姉のバガニルに嫉妬していた。しかし守るべきところは守っていたようだ。それなのにアジャックのせいで暗愚な最後の皇帝として歴史に名を残してしまう。これはやり切れない。


「アジャックは、ハァクイを、嫌っていた、らしい、ね。彼女に、公衆の、面前で、経済の、話を、したら、逆に、言い返されたと、ハァクイが、言ってた」


 ゴロスリは身体をプルプルさせながら言った。なんでもアジャックはゴマウン帝国を愛していた。いや自分が強大な帝国の皇帝になりたいだけであった。他国を貶すのは偉大な自分だけに許された特権だと思い込んでいた。


 キャコタ王国から嫁ぎに来たハァクイに対して、アジャックは経済の話をしたそうだ。それは子供でも分かる話だが、ハァクイはあっさりと言い返したという。それで恥をかかされたアジャックはハァクイを憎み、キャコタまで嫌うようになったそうだ。


 あまりにも子供じみた所業に面識のないガムチチですら呆れていた。そんな奴がゴマウン帝国の皇帝になっていれば、さらに悲劇は広がっていたと思った。


「そうだ。忘れていた。あんたはベータスに魔法の鏡を渡したんだよな。それでゲディスはどこかへ消えてしまった。ゲディスはどこにいるんだ?」


 ガムチチは自分たちの旅の目的を思い出した。しかしゴロスリの口から出たのは意外な言葉だった。


「知らない。あれは、私が、作った、ものじゃ、ないから」


「は?」


「だけど、誰が、作ったかは、教えて、あげる。あれは、ブカッタ教の、大巫女、アブミラが、私に、よこした、もの」


 予想にしなかった名前にガムチチたちは固まっていた。なぜゴロスリとアブミラが知り合いなのか。

 謎が謎を呼んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物語は更に深くなった気がします。
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