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第8話 果物島

「ポンチ島ですか?」


 ここはタコイメの町にある冒険者ギルドである。石造りの建物で、飾りっけのない作りだ。

 冒険者向けの木製のテーブルと椅子が十脚ほど並べられている。木製のカウンターには茶髪でおさげの受付嬢が座っていた。丸眼鏡をかけており、気弱そうに見えるが実際は気さくな性格である。


 その受付嬢の前に、二人の男が立っていた。

 十代後半の少年はゲディスといい、短い黒髪にさっぱりした顔立ちである。美男子と呼んでも差し支えないが、どこか愁いの帯びた表情を浮かべていた。

 装備品は使い古しの皮の鎧に、これまた年季の入ったロングソードを腰に佩いている。

 名前はゲディス。ここ一週間前にやってきた冒険者だ。


 もう一人はゲディスより頭が一つ高い男で、全身鍛えられた筋肉を見せつけるためか、黒いブーメランパンツとサンダルしか身に着けていない。肌は日に焼けて黒い。

 腰には黒光した棍棒をぶら下げている。

 名前はガムチチといい、ゲディスとコンビを組んでいた。


「はい。ポンチ島はここから南方にある小島です。別名果物島と呼ばれており、数十人の村人が住んでいます。バナナやマンゴーなどおいしい果物が採れるのですが、最近はモンスター娘が増えており、船を出せない状態なのです。なのでお二人には行商人の護衛をお願いしたいのですよ」


 受付嬢の名前はオコボといい、新人であった。というよりギルドの受付嬢は彼女しかいない。ギルドマスターに他の職人が数人いる程度だ。元々タコイメの町は年寄りしかおらず、ゆっくりと死にゆく運命であった。それ故に職員も少ない。ここに来る職人は新人か、組織内で嫌われたものくらいだ。


「その仕事は何日かかりますか?」

 

 ゲディスが質問した。


「漁船で二時間ほどで行けます。ですがモンスター娘が邪魔しなければの話です。基本的にワカメ娘と海ラミアが襲ってきます。それに果物島では蜂娘とハーピーが多いですね。それらを退治してもらえると助かります。もちろん報酬は弾みますよ」


 下手すれば二日ほどかかりそうである。その間ここの依頼はこなせないが、心配はない。

 昨日から新しい冒険者のパーティが来たからだ。まだ十代の少年少女が集まったものだ。

 帝都では働いても金にならず、かといってサマドゾの町では厳しい訓練に耐えきれずここに逃げてきたという。

 彼らは薬草の採取や、町人に代わって買い物や掃除、建物の修理などをしていた。大抵ギルドに張り出されるのは雑用が多い。ゲディスたちの実力では物足りないものだが、わずかばかりの金にもなるし、町の人に喜ばれるのが好きだ。


「まあ、いいんじゃないか。この町以外に色々見てみたいものだ。それに船に乗るのも楽しみだしな」


「そうですね。僕も楽しみです。仕事でなければもっとよかったかもしれない」


 ガムチチが言うと、ゲディスも相槌を打った。


「お二人とも船での戦いは平気だと聞きましたが」


「ああ、問題ない。俺は湖や川で船を出して、魔獣を相手にしていたぞ。さすがに海は初めてだがね」


「僕も父の方針で、船上での訓練をしていました。嵐に対する処置も大丈夫です」


 さすがに初心者相手に船での護衛を頼むわけがなかった。オコボがギルドに来た二人に対して、船上での戦闘経験はありますかと尋ねたら、二人ともあると返答したのだ。


「果物島の果物はとてもおいしいですよ。マンゴーで作ったマンゴープリンに、太くて口を大きく頬張らないと食べられないバナナなどがあるんです。さらに様々な果物で彩られたフルーツポンチも名物なんです。ここに来たときはギルドマスターと共に行ったことがあるのですが、わずか数日でモンスター娘が増えたのですよ」


 オコボはがっくりとしていた。ちなみにポンチ島の村は果物好きなタコイメの住人で作られたという。ここより気温が高く、開放的だそうな。数十年前は観光地として名を馳せていたが、最近はタコイメ以上に寂れているという。とはいえここの果物は有名でサマドゾ辺境伯には定期的に献上されるそうだ。それ故にポンチ島の航路を邪魔するモンスター娘は片づけたいのだろう。


「オボコちゃんはスケベだな。そんなにマンゴーや太いバナナが食べたいのか? それにフルーツポンチを逆さまにしたらどうなるかわかっているのか?」


 ガムチチがにやにや笑いながら訪ねた。するとオコボは胸を張って答える。


「答えはこぼれる、でしょう? 誰も逆さに言えと言ってませんから。それに私はオボコではなく、オコボです」

「あっはっは! オボコちゃんは可愛いなぁ!!」


 ガムチチはオコボをからかって楽しんでいた。その様子を見てゲディスは悲しげな眼を向けている。


「もう! ゲディスさんが嫉妬するでしょう!! 私より彼に構ってください!!」


 オコボは烈火の如く怒った。ガムチチはきょとんとしている。


「なんでゲディスが出てくるんだよ。あいつは俺の相棒だから、ずっと一緒なのは当然だろ? オボコちゃんはここでしか会えないから、からかっているんだよ」

「からかう必要はありません! 私よりゲディスさんを可愛がってください!!」


 そう言ってオコボは陰に隠れがちなゲディスの右手を引っ張る。かなり強引だ。

 そしてゲディスの背を押し、ガムチチにくっつける。

 ガムチチはゲディスと比べて頭一つ高い。まるで恋人同士に見えた。


「オコボさんたら……」


 ゲディスは眉を吊り上げたが、まんざらでもない様子であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ガムチチ、それセクハラや。 それと答えは「こぼれる」かあ。 確かに逆さまにいえとは言ってない。 しかし所々のネーミングセンスは 適当だけど、ふざけた感じが自分のツボにきます。
[一言] 分かってないのはガムチチだけですね。
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