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第76話 新生カホンワ王国の冒険者ギルド

「冒険者ギルドへようこそ!!」


 ここはカホンワ王国の首都にある冒険者ギルドだ。木造の二階建てだがなかなか立派である。

 室内も質素だがかなり広い。人の数はまばらであった。

 作られて三か月ほどしかたっていない。それ故に新築特有のつんとした匂いが鼻に付く。


 今ベータスとガムチチ、ギメチカが入ってきた。迎えたのは受付嬢だ。

 赤毛でそばかすの目立つ十代後半の女性である。名前はオコボ。かつてはサマドゾ領のタコイメの町で受付嬢をしていた。ゴマウン帝国が滅び、新生カホンワ王国で受付嬢をすることになったのだ。


 今回彼らが来たのは理由がある。ベータスとギメチカの冒険者登録に来たのだ。

 冒険者ギルドは世界各国に支店がある。母体はスキスノ聖国だがすでに独立していた。

 ギルドはどの国に肩入れしない。すべて公平だ。だが公平故にどちらにも加担してはならないことになっている。例えばある王国が戦争に巻き込まれてもギルドは加担しない。精々協力を要請する依頼書を発行するだけだ。


「ひさしぶりだな。オコボ嬢。タコイメ以来だな」


「オボコです!! ……あ」


 オコボは真っ赤になった。タコイメにいた時はガムチチに名前をからかわれたため、思わず名前に反応してしまったのだ。ガムチチはすまないと頭を下げる。パンツ一枚で棍棒を振り回していた時と、かなり成長していた。


 ガムチチはオコボの失態を攻めず、ただほほ笑むだけだ。以前なら彼女をからかっていたが、今は違う。


「ここに来て、何をするんだよ?」


「まずは登録だ。冒険者ギルドは登録すれば世界各国のギルドで情報が共有される。身元引受人にもなってくれるのさ。もちろん犯罪行為をすれば容赦なく罰せられるけどな」


 ベータスの疑問をガムチチが答えた。わずか一年の間に教育を受けており、この手の情報に詳しくなったのだ。


「ええ、ギルドには賢者の水晶というものがあります。それに額を当てると、その人物の情報を習得されるのです。その数は数十万人を超えておりますよ」


 ギメチカが説明した。一度賢者の水晶に登録されればその人間の情報が蓄積されるのだ。

 さらに倒した魔獣の種類や討伐した数なども記録される。それに応じてランクが決められるのである。

 階級は登録したてだとシードだ。次にスプラウトバドフラワー、花びら《ペトル》である。この表現は最初は種から始まり、やがて花びらのように散って独立するというわけだ。

 花びら級は基本的に自由である。義務は毎月多額の金を支払うだけだ。もちろん犯罪行為はご法度である。

 この数値は重要だ。登録した冒険者の実力を測ることができる。そのデータによって魔獣の危険度が決められるし、冒険者も無駄死にせずにすむ。

 ちなみにガムチチはタコイメに来た時点で蕾級であった。ゲディスの場合はカホンワ領にいたときは、登録していなかったが、タコイメに行く前にサマドゾ領の領都で登録していた。


「へえ、そんなのがあるんだな。初めて知ったぜ」


「俺はトナコツ王国で登録したよ。向こうは知り合いが多いから逃げてきたのさ。ゴマウン帝国に行ったが、あそこは外国人を忌み嫌っていたから居心地が悪かった。ギルドからタコイメの話を聞いて、そこへいったわけだな。おかげでゲディスと出会えたよ」


 ガムチチは遠い目になった。人の縁はわからない。本来ならゲディスとは出会うことはなかったのに、出会った。これは運命である。さらに自分が騎士とはいえ貴族の一員になったのだ。これを運命と言わずなんとしよう。


 オコボはベータスを案内した。ギルドの奥には賢者の水晶が設置されている。二メートルほどの薄緑色の水晶である。表面はつやつやしており、鏡のように磨かれていた。

 覗き込むと自分の顔がくっきりと写る。


 オコボはベータスとギメチカに水晶の表面に額をつけるよう指示する。ベータスは怪訝な顔になるが、言われるままに額を押し付けた。すると水晶が光りだす。水晶の表面には文字が浮かびだした。


 ベータスの名前から年齢までいろいろ書かれていた。最後に蕾級と出た。

 

「こいつはなんだ?」


「階級ですよ。恐らく賢者の水晶があなたに相応しい階級を選んだのですよ」


 登録すれば必ず種級になるわけではない。ある程度の実力があれば飛び級することがある。

 ゲディスの場合は種級だったが、義母のイラバキの手により、実力を押さえつけていた。そのため、種級に見合わぬ実力を隠し持てたのである。


「そういえばオコボ嬢はベータスを見ても、盛り上がらないのだな」


 オコボは男同士の友情が大好きなのだ。タコイメの時ではガムチチとゲディスの仲を見て、大変盛り上がっていた。それなのにゲディスとそっくりなベータスを見ても、彼女はちっとも反応しない。


「当然ですよ。ベータスさんはゲディスさんにそっくりですが、中身は別物です。ガムチチさんに対して愛情がまったくありません。私はゲディスさんとガムチチさんのカップリングは好きですが、本人同士でないと意味がありませんから」


 冷めた口調で言い切った。タコイメの時と比べて落ち着いていた。長い時の経験は本人を大人へ成長させたのだろう。これはガムチチも同じであった。


「ではギメチカさん。登録をお願いいたします」


「はい」


 ギメチカが額を押し付ける。すると水晶に文字が出てきた。オコボはそれを読むと、やがてぎょっとなった。


「おや、オコボ嬢。何が書いてあったのかな?」


「いえ、なんでもありません」


 ガムチチが質問したが、オコボは答えない。そもそも賢者の水晶に出た情報はギルド内の企業秘密である。それを一切口にしなかったから、オコボは大したものだ。

 

「オコボ嬢が驚くのは当然でしょう。それに私の秘密も旅をすればすぐわかります。お楽しみということで」


 ギメチカはほほ笑んだ。男だが奇妙な色気を持っている。貴族に仕える執事は平民と比べて偉そうに見える。その一方で武人の様な雰囲気があり、ケヤキの大木のように強風が吹いてもびくともしなさそうだ。


「登録が終わったらどうするんだ?」


「もちろんガモチホの森へ向かうよ。その前に装備を整えないとな」


 ガモチホの森は険しい森だ。ピクニック気分で入ればひどい目に遭う。敵は魔獣やモンスター娘だけではない、小石ほどの大きさの虫が大群になって襲ってくるのだ。虫よけの対策を怠れば人間など簡単に殺されてしまう。穴という穴に虫が入り込み、中を喰らうのである。

 さらに方向感覚も狂いやすい。素人はもちろんだが、歴戦の狩人ですら油断すれば森から出られず、そのまま死んでしまうのだ。

 ガモチホの森は別名人食いの森と呼ばれている。その一方で試練の森とも呼ばれており、アマゾオの部族が成人の儀式のために森に入ることがあった。

 

 一行はまず南下する。オサジン王国を抜け、トナコツ王国に入国。そしてアマゾオにあるガモチホの森へ向かうのだ。

 トナコツ王国に入り、ナサガキの港町に入るまでは平たんな道のりだ。旧ゴマウン王国はトナコツ王国と同盟を結んでおり、街道を作ったのだ。ラボンクが皇帝になってからトナコツ王国を攻めようとしたが、オサジン執政官に止められていた。

 ナサガキで装備品を購入してからガモチホの森に入るのである。


「途中で集落がある。そこを通り過ぎるには贈り物が必要だ。それも購入する必要がある」


 ガムチチが説明した。さすがにアマゾオが出身地だけあり、事情には詳しい。それ故に頼もしさを感じていた。


「それなら俺も知っているよ。時折里に下りて集落の連中と遊んでいたからな」


 ベータスが答えた。一見師匠だけで生活していると思ったが、割と交流が深いようである。

 登録を終えたガムチチたちはギルドを出た。後に残るのはオコボのみ。


「ふふ、うふふ……。確かにベータスさんはゲディスさんではないでしょう。ですが……」


 オコボの顔が歪んでいる。涎を垂れ流し、表情がとろけきっていた。あまり傍には近寄りたくない。


「最初はガムチチさんもベータスさんに冷たい態度を取るかもしれない!! でも段々二人の距離は縮まっていく!! さらに鬼畜眼鏡っぽいギメチカさんと三角関係!! これは燃えます!!」


 オコボの盛り上がりに、他の職員たちはドン引きしていた。彼女が男の冒険者を見て、妄想を働かせていることは周知の事実だった。さらに妄想を文章にして本にして売っているのも知っている。その手の業界ではオコボは日と財産を築いていた。彼女は受付嬢をやめない、まだ見ぬ男たちの恋愛を楽しみたいからだ。


「……でも、ギメチカさんはちょっと違うかも。あの方は亡きハァクイ皇妃さまに仕えてましたからね……」


 オコボは残念そうにつぶやいた。

 今回、冒険者ギルドの階級を記しましたが、鉱石ではなく、植物関係にしました。

 ネーミング事典を見て思いついたのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] オコボ。本質は変わってなかったのですね。 ある意味安心しました。
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