第6話 気さくなあの娘《こ》、目を閉じ閉じ
「ようオボコちゃん。元気にしとるかね」
冒険者ギルドにガムチチが開口一番にかけた言葉がこれだ。相手は不機嫌になっている。
「オボコじゃなくて、オコボです」
「ガムチチさん、からかうのはよしましょう。今日は依頼の報告に来たのです」
「もう仕事を済ませたのですか、すごいですね」
タコイメの冒険者ギルドの受付嬢、オコボが感心していた。
ゲディスとガムチチのコンビがマッドゴーレムを退治に行って、半日で終えてしまったのだ。
おかげでゲグリソ田園の農家の人々は大喜びであろう。年寄りの身ではモンスター娘を相手にはできないからだ。
短期間でクエストをクリアしていくのは気持ち良いものである。
彼女は帝都の冒険者ギルドで仕事をしたことがあるが、向こうはひどいものであった。
仕事はあって当たり前、自分の好みの仕事がなければ不満を漏らし、依頼人に暴行を振るう。そんな質の悪い冒険者たちを山ほど見てきたのだ。
もちろんそんな連中に対しギルドは制裁を加えている。花級や花びら級ならすぐに制裁しているだろう。
ゲディスたちのやり方はスマートであった。依頼を受けたらその日で終わらせる。もちろん護衛の仕事は別だが、二人がここに来てから依頼板の紙が消えていく。
依頼を持ち込むのはなけなしの金で依頼を望む平民だ。依頼が早く片付けば片付くほど喜ばれる。
金目当てで仕事をするのは当然だが、面倒くさがらずに真面目に仕事をする二人は珍しかった。
「仕事を受けたら早めに終わらせる。これは基本ですよ」
「そうだな。面倒なことはさっさと終わらせてうまい酒を飲みたいな」
二人はなんということもないように済ませた。オコボにとって彼らは英雄に見えた。
「花級の人たちの推薦状があれば、すぐに花級に昇進できますよ。お二人にはそんな知り合いはいないのですか?」
オコボが訊ねた。ガムチチはそんな奴は知らんと答えた。
「……僕にもいません。そんな人たちとは知り合いになったことなどありません」
ゲディスは暗い顔で答えた。ガムチチはそれを見て首を傾げたが、言いたくないものを無理やり聞き出すことはなかった。
「しかしモンスター娘の数が増えてきたな。この辺りでは普通なのかな?」
ゲディスが尋ねた。アラクネにしろ、マッドゴーレムにしろ普段ならこんな人里に近いところには来ない。そこに気さくな受付嬢が答えた。
「そうですね。サマドゾの町では魔獣が増えているとの報告があります。でもモンスター娘はここより少ないと聞きますね」
「普通は逆のはずだよ。モンスター娘は人の多い場所に集まる習性がある。この町は年寄りしかいない、わざわざ集まるとは考えにくいね」
「それはそうですが、モンスター娘の考えることなど人間には理解できるわけありません。気にしすぎではありませんか」
受付嬢に言われてゲディスは納得した。確かに自分も専門家ではない。モンスター娘の習性など人間の考えが及ぶわけがない。
「ははは、あんまり考えすぎるのもよくないぜ。ここは一つ稼いだ金で酒を飲もうじゃないか」
ガムチチは笑いながらゲディスの背中をバンバン叩いた。
ゲディスは痛みで表情は強張るが、すぐに柔らかい笑みを浮かべると、同意する。
なんだかんだ言って二人は息の合う相棒であった。
「あっ、今報酬を持ってきますのでおまちくださ---」
オコボが立ち上がると、彼女は前のめりに倒れた。すると彼女のスカートがめくれ、お尻丸出しになった。パンツはクマさんプリントがはっきりと見える。体は細いため、小ぶりのお尻であった。正直子供が遊んで転んだようにしか見えない。
「おお、これは眼福だぜ! 見ろよゲディス、お前も嬉しいだろ!?」
「嬉しくないですよ。そもそも女性が倒れているのに、放置するなんてありえません。大丈夫ですか?」
ゲディスはむすっとしながらオコボの手を取り、起こしてあげた。オコボは涙目になりながらも礼を言う。
「あはは、すみません……」
「慌てなくていいんですよ。もう少し落ち着いた方がいいですね」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってオコボは顔を真っ赤にして小走りで奥へ入っていった。金を納めている金庫室に向かったのだ。ゲディスは冷静なままである。
その様子を見て、ガムチチは小首を傾げた。
「あいつオコボの尻を見て逆上するかと思ったよ。でも割と冷静だったな。やっぱりモンスター娘限定なんだろうか?」
ガムチチはゲディスを見て、考えた。するとゲディスはガムチチの方に顔を向ける。何か不機嫌だ。
「……ガムチチさん。オコボさんのパンツをガン見してましたよね? もしかして彼女が好みなのでしょうか?」
ゲディスの目は鋭い。まるで親の仇を見るような眼だ。
ガムチチはそれを見てたじろいた。こんな相棒は初めて見たからだ。
「はあ? なんでそうなるんだよ。せっかくパンツが見えているのに、覗かないのは失礼だろ? 俺の部族では女は乳丸出しで腰巻をつけているけど、下着は付けてないんだよ。けど下着に包まれた尻はなんか可愛くて好きだな」
「じゃあオコボさんに頼んで見せてもらえばいいでしょう!! 僕はもう帰ります!!」
「おいおい……、なんなんだよ……」
なぜかゲディスは頬をタコのように膨らませて不貞腐れている。ガムチチはそんなゲディスを見て宥めていた。
それを見てオコボは隠れながら二人を見ている。笑みで口が緩んでいた。そして一言。
「……尊い」
おぼこは生娘を意味する言葉です。