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第六七話 ふたりはへんたい?

「うわー! 助けてくれー!!」


 とある親子連れが森の中を駆けている。恐ろしいものに追いかけられているようだ。男の子と女の子はそれぞれ父親と母親に抱えられていた。


 ここはサマドゾ王国に隣接するワヤキク公爵が治める土地だ。ゴマウン帝国の国土は広い。だがすべてを支配しているわけではないのだ。各地に貴族が治めており、帝国に税金を納めている。それ故に領地は独立性が高い。有事にならない限り自分の領地に兵士を入れるなどありえないのだ。


 ワヤキク領はそれなりに平和な領地だ。帝都と比べれば田舎だが、ゴミゴミした悪臭のする豚小屋みたいな場所よりはましである。

 さらに花売りが圧倒的に多い。そのため病気持ちも多く、路地裏には死んだ花売りの死骸が捨ててあるのも珍しくない。


 親子は帝都で子供を作ったが、あまりの息苦しさにワヤキク領へ逃げてきたのだ。おかげで腹の中に溜まった毒が日々の農作業で吐き出すことができた。


 今彼らは逃げている。大魔獣アレクルという名前だ。元はアルラウネで下半身はラフレシアという悪臭のする花びらだった。根を生やしてうねうねと動いてくる。

 上半身は屈強な体つきで、女性らしさがない。緑色の肌で、茨の様な髪の毛であった。


 すでにアレクルは男たちを食べている。キノコや亀の魔獣たちは大魔獣の足元にたかり、残りかすをいただいていた。

 ワヤキク領は領地の防衛に手を抜いているわけではない。それなりに兵力を割いている。

 大魔獣があまりにも強すぎるのだ。それも彼らの村はアレクルが一度に五体も襲撃してきたのだ。さすがの領軍もあっさり殺されてしまったが、仕方のないことである。


「もっ、もうだめ……」


 母親は倒れてしまった。脚を挫いてしまい、もう動けそうにない。


「こっ、この子を連れて、逃げて……」


 母親は娘を差し出す。だが父親は首を振る。母親の肩を持ち、彼女も連れて行こうとした。


「見捨てないぞ。帝都の連中みたいな人でなしにはなりたくない。俺はあいつらとは違うんだ!!」


 父親は帝都の生活を思い出す。あそこでの暮らしは忘れたくてたまらなかった。退屈で刺激のない田舎暮らしを憎み、都会へ出てきたのはいいが、そこで待っていたのは生き馬の目をくりぬく生活は合わなかった。同じく田舎を捨て、都会にあこがれを抱いた今の妻と結婚した後、ワヤキク領へ逃げてきたのである。


「無理よ! せめて子供たちだけでも連れて逃げて!!」


「だめだ!! お前を見捨てたら俺は外道に堕ちてしまう!! 俺は最後まで人間として死ぬんだ!!」


 父親は妻と子供二人を抱えて、懸命に走っている。だがあまりの重荷に足取りは牛歩のようだ。

 地鳴りを上げアレクルたちが迫ってきている。もうだめだと、親子は生を諦めた。

 特に魔獣は女を優先して食べるだろう。キノコは膨張し、亀は頭を伸ばしていた。


「そんなことはさせないぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 西の方からキラキラと輝く光の輪が飛んできた。

 アレクルは親子を右手で鷲掴みにしようとしたが、光の輪が右手を切り落とした。落とされた右手はどしんと地面を揺らす。

 

 一体何が起きたんだと、親子は光の輪を見た。輪はくるくると回り、親子の前に降り立つ。

 すると光が止み、両手を繋ぐ男二人が現れた。

 片方は十代後半の少年で、もう一人は頑丈そうな大男であった。二人ともブーメランパンツ一丁である。


「おとうさん! へんたいだよ、へんたいがいるよ!!」


「バカ!! 彼らは恩人だぞ! 変態でも命を助けてくれたことには、変わりないんだ!!」


 息子が暴言を吐いたので、父親は慌てて補った。母親は娘の目を手で塞いでいる。

 もちろん二人はゲディスとガムチチだ。変態呼ばわりされても平然としている。

 

「皆さん、もうじき救助が来ます。ここは僕らに任せてください」


 ゲディスが言った。再び体中に光を発した。そして花やキノコの魔獣たちに向かって大爆発する。

 空からは鳥や虫の魔獣が迫ってきていた。ガムチチは両手を広げ、光を発する。

 すると光の壁が出てきた。魔獣たちは空中で見えない壁にぶつかり、潰れていく。

 

 その内救助隊がやってきた。親子は馬車に乗せられる。救助隊はサマドゾ王国から来た兵士たちだった。


「もう大丈夫ですよ。これから領都へ向かいます。そこで保護しましょう」


「ありがとうございます。ですが、あの変態は……」


 父親は慌てて口を閉じる。だが兵士は笑って答えた。


「あの二人はゴマウン帝国を新しく治めるお方ですよ」


 ☆


 ゲディスとガムチチは空を飛んでいた。大魔獣だけでなく、魔獣たちも片づけていく。

 大魔獣も手ごわいが、魔獣たちも厄介だ。ゲディスたちの敵ではないが、数が多すぎる。

 いくら相手が弱くてもこちらの体力には限界があるのだ。調子に乗って戦えば力尽きて、魔獣たちの餌になりかねない。


 ゲディスたちの仕事は目立つ大魔獣の始末だ。大勢の見ている前で大魔獣を倒す。

 その力を民衆に見せつけることで、ゲディスが王になる下ごしらえをするのだ。

 

「おかしいなぁ」


 ゲディスがつぶやいた。下界を見るとまるで森や村がおもちゃのように見える。その一方で大魔獣の死骸が目立っていた。

 大魔獣トリガーが森の中でぐったりとしている。もしくは村の真ん中で墜落していた。

 どうも攻撃されたわけではなく、自然死したようである。


「クロケットさんの言葉を疑っているわけじゃないけど、大魔獣の死骸が目立つな」


「それは悪いことなのか?」


「いいや、悪くない。でも魔獣の方は元気だ。大魔獣の死骸を放置すれば、魔獣の餌になる。その影響で村人に迷惑がかかるんだ。でもそれは領主の仕事だよ。僕らは大魔獣たちを倒すんだ」


 ゲディスがそういうと、上空で大魔獣トリガーが迫ってきた。全部で三体。老婆の様な顔で乱れ髪を振り回している。

 

「キャーハハッハハハハ!!」


 トリガーたちは卵を吐き出す。大岩の様なもので、地上へ落ちるとその衝撃で音が響いた。

 ゲディスは卵をかわしつつ、トリガーたちに向かっていく。

 

「ハイホー、ヘイヘーイ。ゲロゲロゲロゲロ、ゲロハーク!!」


 トリガーは景気よく卵を吐き出した。以前遭遇したトリガーたちと比べると、卵を吐き出す速度が速い。その上、卵がさく裂した。

 ゲディスとガムチチは二手に分かれ、トリガーたちを混乱させた。

 だがゲディスは下からトリガーの腹に風穴を開けた。ゲディスは上からトリガーの頭を潰す。

 

 もう一体は突如苦しみだした。口から泡を吹き出し、身体を痙攣させると、地上へ墜落した。


「どうなっているんだ?」


「おそらく体内に溜まった邪気を使い果たしたんだ。大魔獣は邪気が命の元、それを使い切ると生きていられないんだよ」


 ゲディスが説明した。これは姉のバガニルから教わったことだ。


 二人は新たに大魔獣を探しては倒していく。その様子を平民たちは眺めていた。


「あれがゲディス……。名君サマドゾ王様の奥様バガニル様の弟だっけ」


「領軍でさえ手こずる大魔獣をいとも簡単に……」


「さすが、生まれつき血筋のいい人は強さも違うね」


 人々はゲディスに対して賞賛や恐れを抱いていた。その一方で子供たちは別な視点で疑問を口に出す。


「どうしてあのお兄ちゃんたちはパンツ一丁なの?」


「ああいうのをへんたいていうんでしょ? おかあさんからおしえてくれたよ」


「しかも男ふたりだし、恋人同士なのかな?」


 大人たちは子供たちの暴言に真っ青になった。

 よく考えるとガムチチは常にパンツ一丁だった。

 第三者が二人を変態呼ばわりするのは初めてだと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王となれば、贈り名は「変態王」ですね。
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