第65話 エロガスキーとの仕合
「はあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ゲディスはブーメランパンツ一丁で身体を黄金色に光らせている。身体だけではなく、髪の色も金色に染まった。
その隣には屈強な大男も同じく、黄金色に光っていた。相棒であり恋人のガムチチだ。
二人は黄金魂に目覚めている。ハボラテに来てから一週間の時が過ぎた。
目の前には巨大な幼女が立っている。大魔王エロガスキーだ。
彼女は仁王立ちで構えている。二人は黄金力を解放して突進していった。
エロガスキーは鼻息を吹きかける。ゲディスとガムチチの身体が埃のように舞い上がった。
彼女の鼻息は台風並みの威力を発揮する。
二人は地面に叩き付けられようとしたが、すれすれに身体を立て直した。
びゅんと音を立てて風を切る。矢のように彼女へ飛んでいった。
エロガスキーはぽっこりお腹をぴくぴく振動させた。すると周囲に陽炎が起きる。
二人は景色が歪み、あらぬ方向へ飛んで行ってしまった。
「あっはっは! 石像のように動かぬ妾に指一本触れられぬとはな!! バガニルの方がもっとうまくやっていたぞ!!」
エロガスキーは腕を組みながら可可大笑いした。腹立たしいが事実である。
彼女の部下たちとは戦って勝つことができた。
アラクネにマッドゴーレム、ラミアにハーピー、蜂娘にドライアド。多種多様な魔族たちと苦戦したが勝利をもぎ取った。
だが大魔王は別格である。ゲディスたちはまったく彼女に触れられなかった。
それは赤ん坊が父親に立ち向かうようなものである。
ゲディスたちはエロガスキーの強さに興奮してわくわくしていた。
今まで感じたことのない新鮮な気持ちに満たされている。
その様子を後方でバガニルとイターリが見守っていた。
「二人の黄金魂は素晴らしいね。二つの黄金魂が共鳴して、さらに光を増しているよ。二人の相性はばっちりだね」
「確かにそうですね。ヤコンマン台下の黄金魂は長年の修行で磨き抜かれたものですが、美しさの点ではゲディスたちに劣っていると言わざるを得ません」
「そもそも黄金魂は二人いた方がいいんだよね。ボクの場合は気の合う相棒がいなくてね。ゲディスたちの間には入れそうにないよ」
イターリはおどけた声を出すが、内心は無常を見抜いた隠者の心持であった。
彼もバガニルと同じく、二千年近い記憶を持っている。今でこそスキスノ聖国は世界に認められた宗教団体がだ、立ち上げた時は邪教扱いされていた。他の宗教に石を投げられ、火を放たれた。
信者たちも毒を盛られたり、騙し討ちに遭って殺されたりしたのだ。
その長い年月の際に、黄金魂を見つけたのである。それを多くの信者に伝えるのも一苦労であった。何せ知らないものを一から教えるのは、赤ん坊に善悪を教え込むより難関だからだ。
それでも今の世界は平和だ。ゴマウン帝国は武力を行使しているが、初代皇帝ゴロスリのおかげでいたずらに領土を広げていない。だがそれもいつかは終わる。魔王誕生は帝国の命日となるからだ。
「でも、なんというか閉まらない話だよね。だって魔王が誕生してもすぐ勇者を吸収しておしまいだからね。倒すべき親玉がいない。物語としては退屈な話になるね」
「仕方ありません。ですが魔王誕生の際に生まれる大魔獣が一番問題なのです。正直なところゲディスがいなくても連携強化した軍隊がいれば事足ります。ですがゲディスを活躍させ目立たせればカホンワ王国復興のいい宣伝になります」
「ついでにガムチチさんもね。あの人は貴族ではないけれど、手柄を立てれば騎士の称号くらいは授与できる。そうなれば役職を与えて愛人の立場を得られるだろうね」
バガニルの頭の中はゴマウン帝国が滅亡した後に、カホンワ王国を復興させることで忙しい。
サマドゾ、ヨバクリ、オサジン、ゴスミテではこの日のために非常食や毛皮に毛布、掘っ立て小屋の難民住宅を用意していた。そして彼らに職を与え、復興させるのである。
自分はもうマヨゾリ・サマドゾの妻だ。カホンワ王家はゲディスがふさわしい。実のところカホンワ男爵夫妻にはもう一人子供がいる。
ユフルワといい、トニターニ・ゴスミテの元へ嫁いだ娘だ。年齢は三十歳でゲディスがカホンワ家に養子になった日に、ゴスミテ家に嫁いだのである。
子供は三人おり、男二人、女一人だ。もっともトニターニは子供たちを領地へ出したことはない。ラボンクが不機嫌になるからだ。自分は子供がいないのに、下っ端のトニターニが子宝に恵まれるのは気に喰わない。とはいえマヨゾリ卿より優先順位は低かった。トニターニは格下扱いされていたからだ。
「……もうじき、終わりが来る。ゲディスたちの仕上がりを見る限り、悪くないわ。エロガスキーを相手に戦意を挫かないだけでも及第点よ」
バガニルが言った。エロガスキーとゲディスたちの仕合は続いていた。ガムチチは地面を叩く。
その衝撃で砂煙が起こった。大地が波のように揺れる。
エロガスキーは視界を奪われたが、二人の位置は正確に把握していた。彼女の実力なら目を瞑っても相手の所在地がわかる。
前方にガムチチがいるが、ゲディスはエロガスキーの背後にいた。恐らく不意打ちをするつもりだろうがそうはいかない。
「ふんはッ!!」
エロガスキーの尻から竜巻が起きる。これは邪気収集の儀ではない。完全なる自然現象だ。
それ故に周囲に悪臭が漂う。耐え難い悪臭に包まれて、ほとんど窒息しそうな思いになる。
バガニルは鼻を押さえて殺気を垂れ流していた。イターリは鼻で笑っている。
だがゲディスは構わずエロガスキーの尻に飛んでいく。攻撃に対して守りではなく、突進こそが重要だと思ったのだ。
その甲斐があってゲディスはエロガスキーの放屁を耐え抜いた。そこにゲディスは右拳をこぶしを突き上げ、彼女の尻に突き刺した。
「ほがぁ!!」
エロガスキーはあまりの衝撃に驚いた。どこか遠い所へ塵薄れていく自分の魂を感じた。
ゲディスの拳がエロガスキーの尻に決まったのである。腕浣腸だ。
ゲディスはぽんと離れると、地面へ芋虫のように転がった。
「ちょっ、おまっ!! 人の尻穴に腕を突き刺すでないわ! 痔になったらどうするんじゃ!!」
エロガスキーは尻を押さえて悶えていた。彼女くらいの大きさだと痔で済むらしい。
ゲディスはあまりに夢中になっていたため、エロガスキーに対して失礼なことをしたと悟った。
「もっ、申し訳ありません!! 女性に対してなんということを……」
「謝る必要はないわよ。こいつにはいい薬だわ。むしろ長槍を突き刺さなかったんだから、感謝してほしいわね」
バガニルがせせら笑いながら言った。どうも彼女に対して厳しいようだ。
「というか普通の女の尻に腕を刺せるのはこいつだけだろう」
ガムチチが呆れるように呟く。正直、彼女に対して一矢報いたのでいい気味だと思っていた。
だがゲディスは罪悪感でいっぱいになる。なんとか謝罪をしたい気持ちだ。
「なら、土下座しろ。妾の足を舐めて謝罪するがよい」
そう言ってエロガスキーは右足を差し出した。顔は意地悪く笑っている。
ゲディスは躊躇なく彼女の生足を舐めようと舌を出した。
「調子に乗るな!!」
バガニルがバッタのように空を飛んだ。そしてエロガスキーの頭上で制止すると、彼女の額にハイヒールの踵を踏みつける。
エロガスキーは大地に大の字になって倒れた。轟然たる大音響が大地をつんざく。
「ちょっ、バガニル! なんで妾がお仕置きされねばならんのだ!! 悪いのはお主の弟―――」
「あぁん? 何か抜かしやがりましたか、このでか幼女が」
ぐりぐりとハイヒールで踏みつける。バガニルの方がはるかに小さいのに、エロガスキーは起きることができない。
ゲディスは何も言えずおろおろしていた。イターリは放っておこうとゲディスをこの場から連れ出そうとしていた。
そこに一頭のハーピーが飛んできた。青い羽を持つハーピーだ。
「大魔王様に申し上げます!! 王都においてクロケット殿が帰還いたしました!! 魔王はすでに誕生しております!!」
ハーピー故に鳥類的な叫びをあげた。それを聞いてエロガスキーは真顔になる。バガニルも彼女から飛び降りた。
「ついに来たわね。ゲディス、ガムチチ。ヤコンマン台下はわたくしと共に王都へまいりましょう。そして国境へ向かいます。エロガスキーは後から来てください。いいですね」
「うむ、任せておくがよい」
先ほどの戯れとは一転して二人は真剣そのものとなった。
クロケットは無事に帰ってきて、ほっと胸をなでおろした。
だがこれが終わりではない。始まりなのだ。
大魔獣の群れがゴマウン帝国内で荒れ狂う。それを思うと気が重くなるが、愛する人が隣ならどんな困難にも乗り越えられると思った。
関係ないけど、ポケットモンスターシリーズにはきんのたまという換金アイテムがあります。
シリーズによってはきんのたまをくれる、きんのたまおじさんが登場するのです。
「それは おじさんの きんのたま! おじさんの きんのたまだからね!!」
というセリフを言うそうです。
任天堂は子供が多く遊んでいるから、健全かと思われがちですが、こういったネタも仕込むんですね。




