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第58話 ハボラテの都

「ひどい道ですね、姉上」


 ゲディスがうんざりとした口調で言った。それもそのはずハボラテに続く道は苦難の道であった。

 うねうねとくねる樹木の森に、ごつごつした岩が埋まる道。魔獣の数はタコイメ以上なのは言うまでもないが、厄介なのが合成獣や憑依獣だ。


 合成獣は二種類以上の魔獣が合成したものだ。犬の魔獣の死骸に、鳥の魔獣が背中にくっつき、空を飛ぶのである。もっとも鳥のように華麗に飛ぶのではなく、でたらめにふらふらと突進してくるのだ。

 その狙いは女性の尻である。交尾しようと腰を振りながら飛んでくるのは恐怖だ。

 バガニルは合成獣が後ろから迫ってきても、慌てず騒がず、ぼんと魔法で吹き飛ばす。まるで豪快な放屁にしか見えないが、バガニルは堂々としたものだ。王妃だが女王の貫録がある。


 さらに憑依獣も厄介である。猪や犬の魔獣が二本足で歩き、さらに武器を持って襲ってくるのだ。

 以前はロウスノ将軍の憑依獣に襲われたが、こちらは生前、女に未練があったらしくバガニルを執拗に追いかけた。イターリも同じである。股間を見せてもまったく性欲が衰えなかった。

 イターリは憑依獣の股間に矢を放つ。次々と股間を押さえ倒れていった。ゲディスとガムチチも思わず股間を押さえてしまう。


「襲ってくる魔物も今まで見たことのない奴らばかりだ。さすがは神が最初に降り立った場所だ。まともな人間なら頭がおかしくなるところだぜ」


 ガムチチが同調する。体力が有り余る彼でも音を上げるほどであった。とはいえゲディスとガムチチの黄金力は高まる一方である。手ごわい敵を相手にするたびに、二人は強くなっていった。


二人はイターリから黄金魂の活用法を伝授してもらっている。一気に解放するのではなく、

ほんの少し放出することで体力と持久力を上げているのだ。


 そのおかげで二人はかなり快適に過ごせた。いつものならすぐに息を切らしていただろうが、少しだるい感覚しかない。それでも二人は自分の身体の調子のよさに感動していた。


「ハボラテに赴くだけでもちょっとした訓練になります。あなたたちも随分強くなりましたよ」


 バガニルが言った。彼女にとっては散歩気分なのだろう。まったく息も上がっていないし、疲れた様子も見せない。これは魔力を利用して身体を軽くしているおかげである。

 彼女の言葉にイターリも同意した。


「スキスノ聖国も同じことをやっているよ。司祭になるにはハボラテにあるスキスノ聖国の教会に赴き、大司教から認印をもらうことが試験なのさ」


「ハボラテにスキスノ聖国の教会があるのかよ」


「まあ、表立って宣伝はしてないけどね。司祭候補者だけに伝えているよ。それで死んだら信仰心が足りないというだけで終わるけどさ」


 イターリは軽い口調で言ったが、ガムチチはそう思わなかった。これだけの道をただの人間が踏破できるとは思えない。ここを通っただけで人間が成長した気分になる。

 バガニルは指を差して言った。


「さあ、前を見なさい。ハボラテが見えるわよ」


 その内、一行は目的地にたどり着いた。ゲディスとガムチチは驚いた。

 なぜなら目の前には高くそびえ立つ、石造りの建物が立ち並んでいたのだ。

 道も石畳で、奇麗なものである。帝都もそれなりに発達しているが、清潔さはこちらの方が上だ。向こうは建物の横にゴミが溜まっており、浮浪者も多く住んでいる。

 臭いものにふたをしても、あふれ出る瘴気は隠し通せない。


 道行く人も人間だけでなく、魔族が多くいた。ラミアにハーピー、ケンタウロスにミノタウロス、アラクネに様々な虫娘など種類は豊富だ。

 彼らは仲良く歩く者や、家族連れなのか、人間の男にミノタウロスの妻が、人間とミノタウロスの子供と遊んでいる。 


 どの種族も笑顔が眩しかった。露店が多く並び、様々な食べ物がそろっている。

 着ている服も上質なもので、混とんした種族の集まりでも、どこかきっちりしたものがあった。


「すごいや。こんな町見たことがない。隠れ里のタッコボ以上に文明が発達しているよ」


「確かにな。帝都より奇麗で清潔だが、ありゃなんだ?」


 ゲディスが町の様子を見て感動しているが、ガムチチは別な方向を指差した。

 それは建物に描かれた壁画だ。それは虹色の腰まで伸びる髪に、山羊の様な角が生えている女性だ。

 豊かな体は大事な布に隠している以外、晒されている。なんとも美しい女性の壁画だが、背中には蝙蝠の羽が生えており、背後には黒い尻尾が生えていた。


「あれはね、ぷぷっ、大魔王エロガスキーの肖像画だよ。町のいたるところに、彼女を称える、せっ石像や絵が、ぷぷっ見れるよ」


 イターリは吹き出しそうになりながらも、説明してくれた。なぜ笑うのかわからない。

 一方でバガニルは苦虫をかみつぶした顔になる。エロガスキーが苦手なのだろうか。

 魔女の記憶を持つとはいえ、彼女は人間だ。五百年以上生きている大魔王に畏怖しているのかもしれない。


「あれ? ポーパルバニー……、いや……」


 一人の男がゲディス一行を見つけた。髭を生やした労働者のようだが、バガニルの姿を確認すると、驚きの声を上げる。


「ばっ、バガニル様だッ!! バガニル様がいらっしゃったぞ!!」


 男は大声を上げて周りに触れ回った。かなり興奮している。


「本当だ! バガニル様だ!!」「相変わらずポーパルバニーにそっくりでわからなかったよ!!」「馬鹿だなぁ、あれはバニーガールという魔物の姿だよ!!」「それでも来てくれて嬉しいよ!!」

「今日はお祝いだ!!」


 人間だけでなく、魔族たちも興奮していた。大した慕われようである。だが大魔王が支配するこの町でなぜ彼女がここまで慕われるのか、ゲディスとガムチチは理解できなかった。


「あっ、イターリ様も一緒だぞ!!」「本当だ! 今日は何かの記念日だったっけ?」「こんなにめでたい日はないね!!」「騒げや歌え!! 祭りだ祭りだ!!」


 イターリを見て、住民たちは大喜びだ。彼も慕われているようである。


「スキスノ聖国は人間と魔族の共存を薦めているのさ。もちろん表立ってはやらないけどね。異種族同士のカップルをこの地に送るのも司祭の仕事だよ。オケツ牧場のスヨテ元司祭はハボラテにカップルを送れるように教育していたんだ」


 イターリが説明する。世間ではモンスター娘は討伐の対象だが、裏ではこのようなことが行われていたのだ。

 ゲディスは軽く衝撃を受けているが、ガムチチはなるほどなと納得する。


「今日はエロガスキーに会いに来ました。あのすっとこどっこいは城におりますか?」


 バガニルが尋ねた。ハボラテの支配者に対して暴言を吐いたが、住民は気にしない。むしろ気重そうに答えた。


「……大魔王様はお城にいらっしゃいます。ここ最近は自分の自画像を大量に描かせております」


 最初にバガニルを見つけた男が答えた。なんとも言えない表情を浮かべている。


「……なるほど、あのバ、馬鹿にはきつくお灸をすえることを約束しましょう」


 バガニルが宣言すると、住民たちは一気に沸き上がった。大魔王に灸をすえると言って盛り上がるとはどういうことか。

 ゲディスは何が何だかわからず、バガニルの後ろについていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一癖ありそうな大魔王ですね。
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