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第五十四話 大魔獣トリガー

「よし、姉上に会いに行こう。僕も一緒に聞きますから」


 ゲディスは姉バガニルの子供であるワイトとパルホの双子を連れて行った。

 姪の悩みを聞くために、ゲディスはバガニルの元へ行く。ゲディスは姉が苦手だ。昔から自分の事を見透かすので怖いと思っていた。皇妃バヤカロが嫌がらせのために待ち伏せして、泥水をかけようとしたら先代皇帝に先に行かせ、泥水をかぶされた。もちろん先代皇帝は激怒しバヤカロは父親のアヅホラ・ヨバクリ侯爵と共に土下座した。それ故にバヤカロはバガニルに対して逆恨みを抱いているのである。


 だがその秘密がパルホによって明かされた。魔女には未来予知ができるという。ああ、なるほどなとゲディスは納得した。騙されたというより、姉が魔女であることを秘密にしていたと思うと、彼女が長年抱えた物の重さに、ゲディスはため息をついた。


 さてゲディスはまず屋敷にたどり着いた。だが門のあたりが騒がしい。一体何が起きたのだろうか。使用人の一人に尋ねてみる。若い女性でバガニルが連れてきたメイドだ。


「大変です!! 大魔獣トリガーがタコイメに向かっているそうです!! バガニル殿下が今迎撃の指揮を執っているのです!!」


 メイドが焦っている。大魔獣トリガー。ハーピーが男を食えずに変化したものだ。こいつの特徴はいつも甲高い声で笑い、人間の男を食い殺すのが習慣である。

 しかも常に空を飛ぶため、なかなか攻撃が当たらない。弓矢はもちろんのこと、攻撃魔法も当たりずらいと来ている。

 

「あと殿下からの伝言です。パルホの悩みは大魔獣を討伐してからゆっくり聞くので、早く町の入り口に来てくれとのことです!!」


 メイドが叫ぶ。どうやらパルホの事は知っているようだ。


「お母様……」「パルホ、母上はぼくらの悩みはお見通しなんだよ。ここはおとなしく叔父上たちの仕事が終わるのを待つべきだよ」


 ワイトがパルホの左肩を叩く。気の弱い彼だがいざというときは頼りになるようだ。

 ゲディスは二人を置いて急いで町の入口へ急いだ。


 ☆


 町の入り口ではバガニルが仁王立ちで待っていた。周囲には弓矢を構えるミノタウロスたちが待機している。ゲディスはガムチチとイターリ、クロケットを連れてやってきた。


「遅い! すでにミノタウロスは戦闘態勢を取っているわよ!! あなたの罠魔法が勝利のカギを握るのに!!」


 バガニルに叱られた。相変わらず幼少時から厳しい女性である。理不尽なことは言わず、注意すべきところだけ注意する。ラボンクは注意されても不貞腐れるだけで、姉に恨みを抱いていた。


「申し訳ありません姉上。今から森の木を利用して糸を張り巡らせます」


 ゲディスは懐から糸を取り出した。糸に魔力を注ぎ込み、それを宙に投げる。

 すると糸は光の速さで森の木に張り巡らされていく。まるで蜘蛛の巣の様だ。


「ここだけでいいのか? トリガーって魔物は知らないが、こいつがわざわざ罠にかかりに来るとは思えないぜ」


 ガムチチが意見した。彼はアマゾオで狩猟をしていた。槍を片手に追うだけでなく、小動物や魚に対しては罠を仕掛けていた。


「問題ないわ。トリガーに関わらず大魔獣は若い男を狙う習性があるの。ゲディスやあなたがいれば確実にそちらへ向かってくるわ。これは二千年の時を経ても変わらない性質よ」


 バガニルが淡々と答える。事務的であった。本人はまだ二十八歳だが二千年近い記憶がある。なんでも知っていることが幸せとは限らないが。


「ボクも同じ意見だよ。トリガーの被害はスキスノ聖国でも報告されている。長年の習性は変わらないよ」


 イターリが口を挟んだ。彼もまた魔女と同格である。


「ですが油断は禁物です。どんな生き物も定規通りに動くわけではありません。罠魔法だけに頼らず私たちも起こりうる最悪な事態を予測し、対処すべきです」


 クロケットが言った。彼女は人間の常識は疎いが、戦いに関しては別である。


「あなたたちがいれば怖いものなしだと思っているわ。私はあなたたちの情報を逐一入れていた。でも確実に勝つためにはゲディスとガムチチさん、あなたたちの黄金魂おうごんこんを使ってもらうわよ」


 バガニルが言うと、空から何かが見えてくる。それは巨大な黒い影に見えた。

 近づいてくると巨大な黒い羽を持つ大魔獣だ。顔はしわくちゃの老婆だが口を大きく開けて笑っている。髪の毛はまるでヒドラのようにぼさぼさだ。胸の部分は羽根で覆われている。


「キャーハハハハハハハハハッ!!」


 やたらと甲高く、人を不快にさせる笑い声をあげていた。

 あれが大魔獣トリガーである。トリガーはゲディスたちを見つけると、にやりと笑い、口を置きく開けた。

 

「ファイフォン、フェイフォイン! グェロギェロ、グェロギェロ、グェロヴァーグ!!」


 聞きようによってはゲロゲロゲロゲロ、ゲロハークと聴こえる。トリガーが吐いたのはゲロではなく、卵だ。

 マーブル柄の巨大な卵である。それはゲディスたちの横へ落ちた。するとどかんと大爆発を起こす。


 ゲディスたちは吹き飛ばされ、ミノタウロスたちも突風で前が見えなくなる。

 

「キャハッハハハハハハハハッ!!」


 トリガーはゲディスたちに近づかず、卵を吐き続ける。その度に大爆発が起きて、ゲディスたちはてんてこまいだ。


「厄介ね……。恐らく相手はこちらの罠を理解している。大魔獣は時間が経てば経つほど知恵が回るようになるから、早めに倒したいのよ」


「でも姉上はそれで終わらせませんよね?」


「当然です。あなたの罠魔法だけに頼る気はないわ。そもそもあなたが大魔獣の相手をしてもらわないと困るもの」


 バガニルはまったく動じていない。王妃である彼女は不利な状況でも不敵な笑みを浮かべている。

 ガムチチも出会って短いが、彼女の頼もしさは言葉にしなくてもわかった。


「いつまでも卵を吐き続けられるわけがない。相手が弱まったと思えばすぐ襲ってくるわ。ゲディスとガムチチさんは黄金魂の開放を、ヤコンマン台下はトリガーに注意を反らしてください。クロケットはできるならリスたちをトリガーに乗り移らせてほしいです」


 バガニルの指示に全員肯いた。トリガーはゲディスに向かってくる。今度は翼を広げ、羽根を飛ばしてきた。まるで颶風ぐふうである。ミノタウロスたちは吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられた。それでも身体が丈夫だから怪我はない。


「いくよガムチチさん!!」「おうよ!!」


 二人は服を脱いだ。実際はゲディスだけで、ガムチチは最初からパンツ一丁である。

 二人は横に並んで力を込める。すると全身が黄金色に染まった。

 イターリは矢を放つ。一本ずつだがトリガーの目に突き刺さる。だが視力不良にはならず、目も閉じない。

 それでもふらふらし始めた。次にクロケットがリスで作った玉を投げた。リスはバラバラになり、トリガーの身体を齧り始める。

 さすがの大魔獣も全身をくまなく齧られればイライラしてくる。

 トリガーは冷静さを失い、ゲディスに真っすぐ向かってきた。するとゲディスの仕掛けた罠にはまる。

 

 トリガーの巨体は地面に叩きつけられた。そこにゲディスとガムチチが黄金力を使って空を飛ぶ。


「ガムチチさん、目指すはトリガーの尻です!!」「まかせとけ!!」


 ゲディスは左拳を、ガムチチは右拳を上に突き出す。そして拳をそろえ、トリガーの尻目掛けて飛んでいった。

 ずしぃぃぃんと、大地が揺れる。トリガーの断末魔の叫びが聞こえると、大魔獣は息絶えた。


「なんだがゲディスとガムチチが止めを刺しただけのようですが」


「まあ、そうだよね。でも二人の力で大魔獣に止めを刺すのが大事なのさ。だって二人の共同作業だからね」


 クロケットが不安を口にしたが、イターリが訂正する。すぐ大魔獣を倒す必要はない。まずは黄金魂の戦い方を習うのが大事なのだ。いきなり本番で戦うなど無謀である。


 ミノタウロスたちはトリガーの解体作業に移った。さらに遠くからケンタウロスが現れた。バガニルが要請したようである。ケンタウロスは荷車を引っ張っており、最初から大魔獣を倒すことを前提としていたようだ。


「トリガーの肉はおいしくはないけど、魚の餌になるわ。羽根も高値で売れるし、後でゲディスたちにも報酬を支払うわね」


 バガニルはてきぱきと指示をする。ミノタウロスやケンタウロスたちもそれに慣れているのか、寡黙に作業をしていた。


「ところで姉上、パルホちゃんのことですが」


「それは後にして。今夜きちんとお話するから」


 バガニルはゲディスの話をきっぱりと断った。確かにそうだとゲディスは納得し、解体作業の手伝いをするのであった。

 トリガーの由来は、トリガーハッピーです。

 トリガーハッピーというのは軍隊で新兵などが銃器を扱う際に、射撃の身に集中してしまう現象の事です。

 ネットでは銃を撃つのが大好きみたいな解釈をされていますね。


 ハーピーとハッピーをかけた洒落です。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、やはり、ハーピーですか。
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