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第51話 バガニルの昔話

 私バガニルは今年で十六歳になりました。ゴマウン帝国の第一皇女として勉強の毎日でございます。

 

 今、私はお母様のまぶしい輝きのある部屋にいます。ゴマウン帝国の皇妃で、私の他に十四歳のラボンクと、六歳のゲディスという弟を産みました。


 私には秘密がございます。それは魔女の記憶を持っていることです。魔女と言ってもおとぎ話に出てくる魔女ではございません。この世界を作った闇の女神ヤルミ様から使命をいただいたものです。


 魔女は代々記憶を受け継ぎます。魔女は必ず女の子を産み、十六歳ほどになれば、徐々に先代の魔女の記憶を思い出すのです。それは世界各国で起きた惨事を目にし、それらを人々に教え広めるのが魔女の使命なのです。


 私のお母さまはもちろんのこと、ゴマウン帝国初代皇帝ゴロスリ様もそうでした。でも魔女が人々に歓迎されたわけではないのです。不吉なことを言う魔女は忌み嫌われ、石を投げつけられて追われてきました。


 光の神ヒルカ様の場合は男に記憶を受け継がせます。それが初代スキスノ聖国の法皇ヤコンマンであり、今も続いております。スキスノ聖国は魔王によって滅んだ国を宗教で復旧させることを目的にしています。そして人々に宗教として魔王対策を生活習慣に根付かせるのです。


 さて私はお母様から邪気収集の儀を勉強しています。大抵はモンスター娘や魔族が使いますが、人間は魔女であるお母様しか使えません。私も使えるはずですが、使い方をお母様から習っているのです。


「よいですかバガニル。この世界は邪気に満ちています。邪気は人間が自然に生み出すもので、これらを消し去ることはできません。なのでヤルミ様は邪気を動物や植物などに憑依させるのです。そうすることで人間の手で邪気を払うのです」


 お母様は色々教えてくれます。なんでもお母様は他国から嫁ぎましたが、ゴロスリ様のひ孫だそうです。まずゴロスリ様は長女を他国へ嫁がせました。そして帝国の法で皇帝以外の皇族は追い出されます。そして本人と子供は城に入れないようにしました。

 

 なぜかと問うと、魔王とはお城の関係者から生まれるそうです。それも女性のみ。魔王となる女は勇者となる男と恋仲になります。そして二人と一緒になって悪行の限りを尽くすそうです。

 悪行の影響は家族に及びます。それ故にゴロスリ様は法律を作り、家族が魔王の影響を受けないようにすると言います。


 ゴロスリ様の場合、自分の腹違いの姉が婚約者の貴族と一緒になって、好き放題に遊んでいたそうです。ゴロスリ様の母親は宮廷魔術師なので身分は低かったようです。

 

「邪気収集の儀は命を生み出す儀でもあります。アラクネの場合は糸を出し、ハーピーは卵を出します。もちろん魔法を使うときにも使えますね。ですが邪気は人にとっては毒なのです。なのでスキスノ聖国では人間と魔族は暮らせないようにしました。子供が邪気収集の儀を目撃する可能性が高いからです。もちろん聖国の司祭が認めれば可能です」


 お母様は私の正面で儀式を行いました。一見お尻をフリフリしているように見えて、実際は腹部で五方陣を描きます。

 

「ファイフォン、フェイフォイン。ウォペッツ、ヴォリヴァーリ!」


 お母様は呪文を唱えます。私ははっきりと聴こえますが、普通の人は「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ」と聴こえるそうです。

 古代語で「我願う。命産み落とさん」という意味だとか。お尻を振るように見えるため、下品な尻振りに見えるのが難点ですね。


 お母様の腹部に青白い光が現れる。それが線となり五方星を描いていく。

 自分でもわかります。とてつもなく濃い邪気が集まってくることを。とんでもない魔力です。


「お母様! 僕は……」


 突如扉が開いた。相手はゲディスだ。ここは立ち入り禁止と命じたのに勝手に入ってきたのだ。木刀を持っているので剣の稽古をしていたのだろう。


「え……」


 ゲディスの目が白くなった。口から涎が流れる。いったい何が起きたのかと声をかけようとした。


「ウガァァァァ!!」


 ゲディスは持っていた木刀を手にお母さまのお尻を叩き始めたのだ。お母様はゲディスにお尻を突き出した形なので、木刀の餌食になった。


「おやめくださいゲディス様!!」「ゲディス様がご乱心なされた!!」


 事情を知らない侍女たちが止めに入る。ゲディスは六歳だが腕力があり、女性の力ではどうにもならない。騎士たちが呼ばれ、ゲディスは取り押さえられた。


 お母様は泣いている。ゲディスにお尻を叩かれたからじゃない。ゲディスを邪気中毒にしてしまったからだ。


「ああ、私はなんということを……」


 ☆


 その日の事はすぐお父様の耳に届きました。夕食を終えた後、私とお母様はお父様の部屋に呼ばれました。ラボンクも一緒に行きたがりましたが許可しません。ゲディスは自室で軟禁状態です。


「まさか、ゲディスが邪気中毒になるとはな……」


 お父様は嘆いていました。四十歳で立派な黒いひげを生やしています。目を合わせれば平民は見ただけで心臓発作を起こすくらいです。お父様は椅子に座り頬杖をしながら、話を聞いていました。

 お母様は自分の仕出かしたことを後悔しておりました。


「なってしまったものは仕方がない。ゲディスはすぐにカホンワ家の養子にしよう。前倒しになるがカホンワ男爵は快く引く受けてくれるだろうさ」


 カホンワ男爵。かつてこの国の正当な王族だった者たち。普通は侵略者を憎むものですが事情があります。実はカホンワ王家は魔王誕生で混乱したゴマウン王国を滅ぼそうとしたのです。国王と王太子たちが何万の兵士を連れ、ゴマウン王国の蹂躙をもくろみました。ところが大魔獣によって逆に食い殺されたのです。


 生き残ったのは末っ子のスエッコン王子だけ。ゴロスリ様は急遽カホンワ城に入りました。当時はゴマウン王国の国王や兄たちも生きていましたが、すぐに亡くなったそうです。


 世間ではゴロスリ様がカホンワ家を滅ぼし、さらに自分の親兄弟を皆殺しにしたと言われていますが、まったく違うのです。このことはカホンワ男爵も知っております。


「今回の件でゲディスは勇者の可能性が消えた。逆にラボンクが勇者になる確率が上がったというわけだな」


 お父様はため息をつきました。勇者。魔王を倒すための存在ですが、実際は違います。

 魔王は周囲の邪気を吸い取ります。そして勇者は太陽の光をたっぷりと浴びて魔王に集まった邪気を浄化するのです。

 物語のように勇者が魔王を退治する旅には出ません。なのに勇者と名付けたのはヒルカ様とヤルミ様の兄たちに影響があるそうです。神様にも姉弟はおります。ヒルカ様とヤルミ様は兄たちから世界創造の助言をもらってこの世界に来たのです。邪気収集の儀も神に頼らないための処置でした。


 魔女と法皇の存在は事情を知る人間はいたほうがいいだろうということです。なんとも神様の心遣いが身に沁みますね。


「ラボンクはますますゲディスをいじめて楽しんでいると、トニターニが教えてくれた。それにアヅホラ・ヨバクリ侯爵の長女であるバヤカロ嬢も城内で権力を広げ始めている。バガニルよ。お前も同じくマヨゾリ卿と結婚し、サマドゾ領へ嫁ぐのだ。ラボンクの背後にいるヨバクリ侯爵が暴走しないうちにな」


 私は頷きました。幼少時から私はマヨゾリ卿が好きでした。あの方は一見サドに見えますが、実際はマゾ寄りなのです。


「バガニル。あなたにこれを差し上げます」


 お母様は木の箱から衣装を取り出しました。これはバニースーツというものです。

 お母様が召喚魔法を行い、異世界からバニーガールという魔族を呼び出しました。彼女はバニースーツというものをくれました。これは特殊な技術で作られたものらしいです。

 黒くて長い耳、胸が開かれた体格がはっきりとわかるスーツ。そして足を包む網タイツに黒いハイヒール。それらは今まで見たことのないものでした。その一方で内蔵の魔力がけた外れに高いこともわかります。


「これはあなたが着るのです。魔女であるあなただからこそ、この衣装が必要になります。そう、あと十二年後に魔王が誕生し、ゴマウン帝国は滅びるでしょう。その影響は他国にも及びます。ですがゴロスリ様が願うように悲劇を拡大しないためにも、私たちは動かなくてはなりません」


 そう、ゴロスリ様の悲願。今まで魔王が誕生しても対処できなかった。魔女の言葉など声を高くしても無視され、迫害されてきた。

 でも今は違う。ゴロスリ様はゴスミテ侯爵、オサジン執政官、サマドゾ辺境伯、ヨバクリ侯爵に命じたのだ。魔王の影響を他国へ広げないと。そのために彼らに特別な魔法を与えたのだ。


 ヨバクリ侯爵の場合、彼は阿保面の欲張りゆえに長男のデルキコが記憶を受け継いでいる。

 デルキコは周囲には無能呼ばわりされているが、決起の日まで無能を装っているのだ。

 ちなみにバヤカロの弟なので、いつも姉にいじめられています。


「私は魔王誕生まで生きていられるかわからない。できれば子供たちが争う姿など見たくないな。こればかりは天に任せるしかない」


 お父様は天を仰ぎ嘆いていました。帝国の皇帝とはいえ、人の親です。我が子が可愛いのはどこも同じ。お母様も皇妃ですがラボンクを愛しています。ただ正確に難があるだけなのです。


 果たして私たちはどのような運命をたどるのか。それは私たちが努力するしかないのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] バニースーツがでてきた~~。 らしくなってきました。
[一言] なるほど、いろいろ深層が見えて来ました。
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