第四十五話 二人の黄金魂
「じゃあ、ボクが説明するね」
邪気中毒。それは幼少時に起きやすいものだという。モンスター娘の邪気吸収の儀を十歳以下が目撃すると機能障害が生じるのだ。
邪気は本来人間が生み出すものである。それは人間が生きていれば当たり前のように出すもので、少々吸ったところで問題はない。人間が死ぬ歳に蓄積された邪気が一気に解放されるが煙のように霧散するため、子供が死に際に立ち会っても問題はない。
問題があるのはモンスター娘の方だ。人間は生まれながらにして邪気を吸収するが、それは雪だるまを作るように少しずつ蓄積するものである。モンスター娘の邪気吸収の儀は普通ならあり得ない邪気を一気に吸収するため、濃度の高い邪気が生まれるのだ。
もっともモンスター娘の場合、集めた邪気はすぐに解放される。アラクネなら糸を、マッドゴーレムなら泥水、ハーピーなら卵と、邪気を物質に変える能力を持つのだ。
それを何の抵抗のない幼児が目撃すればどうなるか。答えは簡単、邪気に対して異常なまでに攻撃的になるのである。
特にお尻が狙われやすい。実際は腹部で五方星を描くように腰を振るのだが、腹部の反対であるお尻に対して苛立つようになる。もし幼少時に中毒になれば慢性となり成人になってもなかなか治らない。
もちろん成人男性でも邪気中毒になる可能性はある。ただし大抵はモンスター娘と戦う最中であり、余程集中して見なければ仔細ない。長時間眺めることが問題なのだ。
それ故に人間と魔族の共存を認めない。子供が目撃する可能性がある身体。魔族となっても邪気吸収の儀は行える。月に一度は溜まった邪気を開放するためだ。女の月の日と同じである。
自分の子供でも邪気中毒になる確率は高い。魔族の子供ならまだ耐えられるが。
魔族が人間の町に住める例外はある。聖騎士などが魔族の腹部に封印紋を描くことで、邪気の発散を和らげるのだ。もちろん、人目につかない家で行うことが条件である。クロケットもその説明をイターリから受けていた。
「ゲディスの場合、六歳くらいで邪気中毒になったんだよ。そのせいでモンスター娘のお尻がイラついて仕方がないのさ」
「なるほどな。でもなんで聖水を飲ませなかったんだ? ゲディスが苦しんでいるのに」
ガムチチが疑義をただした。ゲディスは先代皇帝の次男だ。聖水くらい簡単に手に入れて飲ませることくらい簡単なはずではないか。
「それは無理だよ。黄金魂は力が湧く魔法の薬じゃない。鍛えた体に応えるものなのさ。下手に六歳児に飲ませたら黄金力に振り回されて、頭がおかしくなっちゃうんだよ。過去にそういった症例があってね。十八歳未満には飲ませないよう厳しく規制されているのさ」
イターリが説明する。確かに危険だと分かれば飲ませはしないだろう。
「ゲディスの場合、カホンワ男爵夫妻に預けることで邪気中毒を和らげる意味があったんだろうね。魔法は人間の体内にある邪気を魔力に変換する物さ。ゲディスの罠魔法に切れがあるのはそのためなんだよ。あと剣の腕も同じさ。邪気中毒ゆえに普通では見えない邪気の流れを読めるようになったんだね。もちろんカホンワ夫妻は甘い人でないことは知っているよ。邪気中毒になっても二人の修行に耐えられる保証はない。あくまでゲディスだからこそ耐えきれたんだよ」
それを聞いてゲディスはほっと息を吐いた。今までモンスター娘にイラついていた理由が判明したのだ。
しかしガムチチはさらに問い質した。
「妙だな。ゲディスの場合、おふくろさんの尻を見て邪気中毒になったというじゃないか。だが以前ギルドの受付嬢であるオコボの尻を見てもゲディスは何も反応はしていなかった。こいつはどういうことだ?」
ガムチチの言うとおりである。ゲディスが先代皇妃である母親の尻を見て、邪気中毒になったのだ。だがゲディスは女性の尻にそれほど嫌悪感は表していない。クロケットの尻はなぜか何も感じないが、自分のいのちの精を与えたからかもしれないが。
「……これには理由がある。でもこれはボクが口にしていいことじゃない。ゲディスのお姉さんであるバガニル王妃の役目だよ」
なぜここでゲディスの姉の名前が出るのか。イターリは答えない。代わりに黄金魂の説明をする。
「君たちがやるべきことは黄金魂に目覚めることだよ。これができないともうじき始まる惨劇で大切な人を護ることができない。ボクはまだまだ隠し事はしているけど、二人が不幸になることは一切しないと光の神ヒルカ様に誓うよ」
イターリの表情は真剣そのものであった。いつものおちゃらけた雰囲気はない。ガムチチはそれに押され、おとなしくイターリの教えを受けることにした。
☆
イターリは服を脱いだ。代わりに紺色で身体がぴったりとくっついている服を着ている。胸と腹部、腰を包んでいた。
男なので胸はない。股間の部分はふっくらと膨らんでいた。
「こいつはスクミズという水着なんだ。南方にあるトナコツ王国の民族衣装なのさ。とっても動きやすくて最適なんだよ」
「ああ、僕も幼少時に見たことがあるな。確か姉上が着ていたけど、胸がきついと文句を言っていたのを覚えているね。でもそれは女性が着るものでは?」
「あはは。そんなの関係ないさ。ボクは可愛いものが好きなんだよ、こいつも可愛いから着ているだけさ」
ゲディスの問いにイターリは笑って返した。可愛いものが好きだからと言って女物を身に着けるのはどうかと思うが、イターリには関係ないらしい。
イターリは股間に力を籠める。すると股間が黄金色に光り始めた。その光は玉となり、どんどん大きくなる。
一瞬、強い光が発せられ、ゲディスたちは目をつむった。次の瞬間、イターリの身体は黄金色に染まっていたのである。
「こいつは男だけが持つ力だよ。鍛えれば鍛えるだけその力を発揮することができる。女は確かに子供を産む唯一無二の存在だけど、男がいなければ意味がない。クロケットさんだってゲディスとガムチチさんがいなければブッラとクーパルを産むことなどできなかったんだから」
イターリが説明した。黄金魂。なんと神聖で清らかなものであろうか。ゲディスはイターリの姿に見惚れてしまった。
「おいゲディス。お前の視線がイターリの股間に向いているが、そんなにあいつのアレが気になるのか?」
ガムチチが悪戯っぽく尋ねた。にやにや笑っている。明らかにゲディスをからかっているが、本人はあたふたし始めた。
「ちっ、違います! 僕はそんなんじゃありません! 僕が欲しいのはガムチチさんの黒光りして太くて硬い……」
「黒光りして太くて硬い……、何が欲しいのかな?」
「こっ、こっ、棍棒です!」
ゲディスの顔はゆでだこのように真っ赤になった。ガムチチは腹を抱えて笑い出す。クロケットもその様子を見て呆れかえった。
「だめですよガムチチさん。あまりゲディスをからかっては」
「はっはっは、悪い悪い。だが緊張はほぐれたろう」
ガムチチは笑いながらゲディスの右肩に手を回す。そして強引に彼を抱きしめた。
「俺たちは一緒だ。二人で黄金魂に目覚めて強くなろうぜ。俺たちには娘がいる。ブッラとクーパルがな。もちろんクロケットも守るぜ。俺たちは家族なんだからな」
ガムチチの言葉にゲディスは首を縦に振った。クロケットに微笑んでいる。
「ふふん、いちゃいちゃモードは終わりかな? じゃあボクの力を見せてあげるよ。実際に見ないと理解できないからね」
そう言ってイターリは全身に力を籠めた。イターリの身体が宙に浮かぶ。その瞬間、イターリの姿が消えた。いや消えたのではない。ガムチチに突進したのだ。
ガムチチが気付いたのは、イターリに衝突されてからだ。彼の身体は軽いが、ガムチチは大きな岩に叩きつけられた衝撃を味わった。
ガムチチは信じられないくらいに体を吹き飛ばされた。普通なら死んでもおかしくないが、辛うじて生きている。事前にイターリが飲ませてくれた聖水のおかげだろうか。身体が厚くなるのを感じた。
「今の衝突で、ガムチチさんの身体は黄金力を覚えたよ。後は数回の組み手を重ねれば力の使い方を理解できると思う。次はゲディスだよ!!」
イターリは天高く飛んだ。まるで矢のようである。太陽に重なるように飛ぶと、今度はゲディスに向かって一直線に落ちてきた。イターリは尻を向けている。自分に対して尻で攻撃するつもりなのだ。
ガムチチの尻に顔をうずめるならともかく、イターリの尻は受け付けられない。これは維持だ。ゲディスは武器を持っていないが、体術には自信がある。
イターリの尻に指浣腸を決めてやろうと思った。ゲディスは両手を組み、人差し指を合わせた。
そしてイターリの尻に指浣腸を決めようとした。
ぐしゃりと二本の人差し指が砕けた。次にゲディスの顔にはイターリの小振りで引き締まったお尻が当たる。ゲディスの顔は地面にめり込んだ。
「指浣腸するくらいお見通しだよ。それすら受け付けないのが黄金力なのさ」
イターリが得意そうに言った。彼はゲディスに顔面騎乗位状態になっている。
「あはは。ゲディスの鼻息が股間に当たってくすぐったいよ。ボクのお尻に興奮してくれるんだ、嬉しいなぁ」
イターリはけたけた笑っている。その横でクロケットは鬼の様な表情を浮かべていた。
「さっさとどけなさい。どかないと私があなたを殺しますよ?」
どすの利いた声に対し、イターリは慌てて飛び跳ねるのであった。ちなみにゲディスの指はすぐに治療されました。
ある意味、黄金の魂は男が持つ二つの宝玉に近いと思う。
この作品を書いた段階では黄金魂の設定は考えていなかった。段々下ネタの数が少なくなったので、基本的な下ネタを入れようと思ったのです。
あと邪気中毒は物語の基準になる設定なので、今回ようやく明かされました。ただしゲディスの母親に関してはまだ明かせません。




