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第四一話 大魔王エロガスキーとは

「大魔王だって?」


 ガムチチが言った。もっとも大魔王がどんな存在かはわからない。自分が住んでいたアマゾオ族には魔王の話など聞いたことがないからだ。もちろん魔獣やモンスター娘はいたが、どのように生まれるのか誰も知らない。


「あくまで自称ですよ。この地は光の神ヒルカ様と闇の女神ヤルミ様が最初に降り立った場所なのです」


 黒いハーピーのヒアルが説明した。サマドゾ領は古くから誰も住まない土地だったという。なぜなら神の影響力が強すぎて人間も含めた生物が近寄れなかったのだ。

 しかし長い年月をかけて生物が集まってきた。ただし人間は百年前にサマドゾ辺境伯が来るまで誰も来なかったという。だがそれ以前に人間と結ばれた魔族の家族が隠れ住むことがある。

 五百年前に一人の魔族が現れた。元はサテュロスといい、邪気が山羊に集まってモンスター娘になったのだ。それが男を食べた後、魔族になった。その後、進化してデビルになったのである。その際にエロガスキーという名を名乗ったという。

 エロガスキーとは古代語で母親を意味するらしく、人間社会には溶け込めない人間と魔族の恋人たちを匿い、ハボラテという町を作ったそうだ。


「この件はサマドゾ辺境伯、いいえサマドゾ王国の方々も存じております。それどころかスキスノ聖国の法皇様も知っておりますね」

「それは意外でしたね。僕も初めて知りましたよ」


 ゲディスは驚いた。だが表向きは人間と魔族は一緒になれない。あまり堂々とされても魔族を嫌う人間の方が多い。どんな凶行に及ぶかわからないのだ。

 あとヒアルの夫はポンチ島の村長タケムの息子だ。彼女はハボラテ出身の魔族であった。人間は必ずモンスター娘と結ばれるとは限らないようだ。

 島では息子は田舎暮らしが嫌で逃げたしたことにしているが、実際のところ息子はハボラテで子供と一緒に暮らしているという。

 

「で大魔王は何をしたいんだ? 俺たち人間をどう思っているんだ?」


 ガムチチが尋ねた。さすがに物騒な存在だと思っている。ヒアルは何気なく答えた。


「別に何しませんよ。人間に対しては魔族と一緒になりたいものは受け入れます。逆に自分たちに攻撃する者は容赦しません。ですがもうじき帝国は荒れるため防衛の話を持ち掛けていますけどね」


 ヒアルの言葉は意外であった。そもそも大魔王と名乗る者が人間を守ること自体あり得ないと思った。そもそも世界では魔王のために滅ぼされた国は多い。魔王に対してよい感情を持つ者は少ないだろう。

 スキスノ聖国は世界で最初に魔王に滅ぼされた国だ。それなのに大魔王と繋がりがあるのは不可思議である。


「一体魔王とはなんなのか。ヒアルさんは何かご存じですか?」

「……あなたは確かゲディス様でしたね。バガニル夫人の弟であると」

「そうだけど、僕はあなたに自己紹介をしましたっけ?」


 ゲディスは首を傾げる。ヒアルが自分を見る目は何か含みがあった。それは何か大事な秘密を胸にしょい込んだもののように思える。


「その話はできません。バガニル夫人が説明してくれるでしょう。あの方はこの世でスキスノ聖国の法皇様と同じく、世界の秘密を背負っているお方です」

「姉上が、ですか……? なぜ姉上が世界の秘密を知っているのですか?」


 ゲディスが尋ねてもヒアルは口を閉ざしている。絶対にしゃべるつもりはないようだ。


「いいじゃないゲディス。あなたのお姉さんが教えてくれるのでしょう。ならお姉さんに聞きに行けばいいじゃない」


 そこにクロケットが口を挟んだ。彼女はゲディスとバガニルの関係は知らない。話を聞いて姉弟であることはわかっている。

 だがゲディスは悩んでいる。姉に会うことが怖いようだ。だからこそゲディスの背中を押すことにしたのだ。


「……僕は姉上と会うのが怖いのです。なぜなら僕は産みの母親の尻を殴打しました。その場にも姉がいたのです。僕は母親に危害を加えた愚か者なのです。そんな僕が姉上に会えるはずがないのです」

「ゲディスは母親の尻を叩くのが趣味なの?」


 クロケットが尋ねると、ゲディスは首を横に振った。


「ならいいじゃない。もしかしたら詳しい事情をお姉さんが知っているかもしれないでしょ。こういうことはきちんと知っている人に聞くのが一番よ。私はウッドエルフになってまだ数日しか経ってないから、知らないことが多いのよ。だからきちんと人の話を聞くことにしているわ。報告、連絡、相談は基本だとイターリさんから教わったから」


 クロケットの言葉にゲディスは首を縦に振る。彼女の言うとおりだ。自分は臆病になっていた。過去の所業を怯えていたのだ。

 そこにガムチチが後ろから抱き着く。ぎゅっと硬い筋肉の腕に抱かれると心が安らいだ。


「お前は一人じゃない。俺もいる。姉が怖いなら俺も一緒に戦うぜ」


 ガムチチが耳元でささやいた。それは甘く心がとろける響きであった。ゲディスは意を決する。


「うん、僕は姉上に会うよ。そして知っていることを教えてもらうんだ。例えどんなことを聞かされてもガムチチさんが一緒なら乗り越えられると信じている」


 ゲディスの力強い言葉にガムチチとクロケットは満足するのであった。


「ゲディスのお姉さんに挨拶したいわね。ブッラとクーパルの顔を見せてあげたいわ」


 クロケットの言葉にゲディスは真っ青になった。よく考えれば男が恋人でウッドエルフが代理出産して双子の子供がいるなど、姉にどう説明すればよいのだろうか。


「私がバガニル夫人に伝えましょう」


 ヒアルが言った。彼女はバガニルと面識があるという。詳しい面会は後日手紙を送ることにした。


 あとは大魔獣アバレルの解体を手伝った。アバレルの六つの目は高級品だという。さらに毛皮に骨も天井知らずの値段がつくそうだ。肉は食べられないが、漁で使う撒き餌になるという。

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