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第三七話 二粒の黒真珠

「ぼっ、僕の子供が宿っているって!!」


 ゲディスは驚愕した。当然だ、女性が自分の子供を宿していると言われたら、誰だってたまげる。そして自分の仕出かしたことに一生懸命思い起こすだろう。


「……もしかしてドライアドの時のアレなの?」


 ゲディスが思い出す。ウッドエルフのクロケットはドライアドだった。一度ゲディスは彼女に襲われた。文字通り、男を食べた状態である。ゲディスの命の泉が爆発し、栗の花の香りを周囲に漂わせる結果となった。


「はい。今もお腹の中であなたの精気が渦を巻いております。なるべく放出したいのですが、今のままではだめなのです」


 クロケットが言った。いったいどういうことなのか。それを代わりにイターリが説明する。


「男を食べたモンスター娘は、食べた男の精気をその身に宿すんだよ。そのまま子供を産むことがある。でもクロケットさんの場合事情が違うみたいだ。普通ならすぐ出産してもおかしくないんだけどね」

「そうなのです。どうもゲディスの精気が強すぎて、そのまま出産してしまうと私の身体が爆発する危険性があります。なのでもう一人、他の男性のいのちの精が欲しいのです。その精気を混ぜることで、ゲディスの精気を相殺させたいのですよ」


 クロケットが補足した。人間の常識は疎いが、本能的に体が危険を感じているようだ。

 ゲディスも自分のせいで身体が爆発することは避けたい。しかし他の男性の精気が必要になるとは……。それは彼女が男を抱くことに他ならない。

 

 クロケットの身体は魅力的だ。豊満な胸にくびれた腰、張りのある黒い尻。男がむしゃぶりつきたくなる身体だ。そんな彼女を自分のために抱かせるなど認めたくないのだ。


「ああ、ゲディスは勘違いしているね。別に彼女は抱かれる必要はないよ。クロケットさんが右手で男の股間を手に掛ければ自然に精気を吸い取ることができるのさ。あとは自分の腹部に精気を入れれば完成だよ」


 イターリが説明してくれた。なんだか自分が早合点してしまい、赤面する思いだ。


「ふふふ、ゲディスありがとう。でも安心して、こんなおばあちゃんを抱きたい人間なんているはずないでしょう?」


 クロケットが満面の笑みを浮かべた。それを見てゲディスは苦笑いを浮かべる。彼女の精神年齢は百歳近いが、見た目は二十代の美女だ。しかも森の神秘であるエルフが相手なら抱き着きたくなる男はいるだろう。彼女は人間社会の常識が欠けていることに危惧を感じた。


「で、肝心の男はどうする? この隠れ里の人間を選ぶのか?」


 ガムチチが尋ねた。ここは人間と魔族が共存する隠れ里だ。男は主に人間が多いが、男の魔族も多い。人間とのは混合がほとんどだ。

 そこに今まで置物状態だった行商人が答える。


「それは無理だ。ここの男たちというか、モンスター娘を好む男は浮気をしたがらない。自分に惚れてくれる女性を無下にする気がないからだ。もし浮気をしたり見捨てたりすれば殺される可能性が高い。なので精気を提供するなど、この里の男たちではありえないと思ってくれ」


 周囲の男たちも頷いていた。彼等はゲディスたちに恩はあるが、それはそれ、これはこれなのだろう。

 そこにイターリは何のこともなく答えた。


「いや、ガムチチさんがいるでしょ? ゲディスとガムチチさんの精気が混じりあった子供、代理出産だけど二人の立派な子供だよ」

「それに私は最初からあなたを指名してましたよ。あなたがゲディスといい仲であることはお見通しです」


 クロケットも補足した。


 なんでもスキスノ聖国では当たり前に行われているという。フラワーエルフかウッドエルフに依頼して精気を提供する。子供が生まれない夫婦や同性同士の夫婦が活用していた。

 ただし生まれた子供は成長速度が速い。一年で四歳分の歳を取る。四年もたてば二〇歳ほどになるが、後の四〇年は固定されたままだそうな。これはスキスノ聖国は冬が厳しく、赤ん坊の死亡率が高いという。エルフの代理出産で生まれた子供はすぐに成長するから死亡率が低い。

 なので他国の貴族や王族は後継ぎのためにエルフの代理出産を依頼することがあるという。もちろんスキスノ聖国が認めなければいけないが。


「……僕とガムチチさんの子供。男同士だけど、子供が生まれる……」


 ゲディスは考え込んでいた。これは最初から直面していた問題だ。男同士では子供は生まれない。孤児院などで身寄りのない子供を引き取るしかない。それでも血の繋がりは理屈ではないのだ。それがエルフがいれば解決する。


「でもそれだとクロケットさんを利用しているみたいだ。そもそも彼女は僕を守るために義母さんが頼んだんだ。子供を産めなんて言われていない。でも子供は欲しい。でも、でも……」


 ゲディスはぶつぶつと考え込んでいる。元は真面目だから道徳的な抵抗があるのだろう。

 イターリはため息をつくと、ガムチチの背中を押した。


「ゲディスとの間に子供は欲しくないの?」

「そりゃ子供は欲しいさ。だがゲディスが決断を下していないんだ」

「関係ないよ。そもそもゲディスはクロケットさんを自分の欲望のために利用しているんじゃないかって、勝手に自己嫌悪に陥っているのさ。当のクロケットさんはそんなことは気にしてない。自分の孫が増えるだけとしか思ってないよ」


 イターリはクロケットを見た。先ほどの話を聞いていたのか、にっこりとほほ笑む。

 彼女にとってゲディスの子供を産むことは何ら問題はないのだ。


「ゲディスは冒険の事なら一流だけど、家庭の件は三流だね。家庭環境のせいなんだ。強引に引っ張る方がいいんだよ。その場合ガムチチさんがぐいぐい掴むのがいいのさ」


 イターリの説得にガムチチの心が揺れる。ガムチチも子供は欲しい。

 それは自分の父親とは違う、自分なら理想の父親になる、なってみせるという意思があった。

 そしてゲディスだ。彼は冒険者としては有能だが、それ以外だとか弱い人間である。

 自分が彼を導かなくてはならない。暴力ではなく、親として子に正しい道筋を教える義務があると。


「クロケット。俺の精気を使ってくれ」

「わかりました」


 ガムチチの言葉にクロケットが反応する。彼女はガムチチの股間に手を当てた。すると手のひらに淡い光の玉が現れる。

 ガムチチは身体が少し崩れた。力が抜けたようである。精気を抜かれたためだ。

 次にクロケットは光の玉を自分の腹部に充てる。光の玉は腹部へ吸い込まれていった。

 腹部には何やら紋様が浮かぶ。Yの字にカッコを当てたような紋様だ。すると腹部が急激に膨らむ。クロケットが妊娠したからだ。


「って、なんで勝手にやるんですか!!」


 ゲディスが慌てて駆け付けた。ガムチチはケロッとしている。


「こういうのは勢いさ。せっかく子供を産んでくれるんだ。厚意に甘えようぜ」

「いや、気軽に言わないでください! 犬猫とは違うんですよ!!」

「それはそうと、クロケットが苦しそうだ。すぐにでも生まれそうだぜ。なんとかしないとな」


 クロケットは腹を押さえて苦しそうだ。地面に座り込んでいる。

 行商人が慌てて女たちを呼び出した。魔族の女たちはすぐに取り出す準備に入る。魔族でも子供を産むときの準備は変わらない。急いで湯を沸かし、清潔な布を用意する。

 一軒の家を借り、クロケットをそこで寝かせた。ゲディスは彼女に寄り添いたかったが、クラーケンの魔族に止められる。男は用なしだと。


「出産は女たちに任せろ。あんたらの仕事は後片付けだけだ」


 イヤカキが肩を叩く。里は襲撃者によって荒らされていた。出産も大事だが、復興も大切だ。

 ゲディスたちは言われるままに後片付けを始める。

 作業は半日かかった。終わった頃にはクロケットの出産も終えていた。

 

 初めて見たゲディスの子は、褐色褐色肌の双子の女の子だった。黒い真珠を連想した。

 この話はイギリスのミュージシャン、エルトン・ジョンがモデルです。

 彼は同性結婚しております。二〇一〇年に代理母が出産した男の子の親になりました。

 実際に結婚したのは二〇一四年です。


 同性婚でも子供は望めるケースですが、日本は代理母を認めておりません。

 エルフの代理出産を思いついたのは、神話か何かだと思う。

 木から子供が生まれるという話を聞いたことがあったからだ。この作品でフラワーエルフやウッドエルフを思いついたのは、エルフは自然を愛する設定を使ってみた。

 自然を愛するのではなく、樹木や花から進化した存在だからという設定である。


 だが思い付きでもきちんと設定を固めることが大事だと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲディスは複雑な気持ちのようですが、こういうことが普通の世界ならめでたいことであります。
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