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第三十三話 隠れ里

「暗いから気を付けてね」


 ゲディスは松明を掲げながら、後ろにいるガムチチとイターリに注意を促した。洞窟は真っ暗で明かりなしでは歩けない。歩けるところは海水に浸されており、ぽちゃぽちゃと水音が洞窟の中に反響していた。

 

「薄気味悪い所だな。さすがの俺も気おくれしちまうぜ」


 ガムチチが愚痴をこぼす。彼は南方のアマゾオに住んでいたため、肌寒いのは苦手なようだ。ガムチチにも苦手なものがあるのだなとゲディスは不謹慎だと思ったがほっこりとした。


「薄気味悪いからこそだね。並の人ならすぐに引き返しちゃうよ。だからこそ人と魔族が共存する集落を作るのに最適なんだよ。オケツ牧場も普通の人が気楽に足を運べる場所じゃないしね」


 イターリは弓矢を構えながら警戒していた。軽口を叩いても警戒心は解かない。

 

「ぐるるるる……」


 岩陰から何やら出てきた。それは巨大なイソギンチャクであった。イソギンチャクの魔獣だ。

 うねうねと触手を蠢いている。にょろにょろと動いているが、その数は数十匹を超えていた。

 普段は海にいる生き物が巨大化して人間に危害を加える。恐怖以外の何物でもない。


「歩くイソギンチャクだね。この手の奴は触手に刺されたら毒を喰らうよ」

「ああ、気持ち悪い魔獣だな。見ていて吐き気がするぜ」


 ゲディスは剣を構え、ガムチチは棍棒を構える。

 ゲディスは髪の毛を抜き、魔力を注ぐ。それをぽいっと投げると、髪の毛は洞窟内を駆け巡り、蜘蛛の巣のように糸を張り巡らせた。

 

「髪の毛の結界だね。スキスノ聖国では法皇猊下を護る親衛隊くらいだよ」


 イターリは身動き取れないイソギンチャクたちを射抜いた。パチパチと火花が上がるとイソギンチャクはぐったりと倒れる。矢に魔力を込めたのだ。いかずちの力を込めたので、イソギンチャクは感電死したのである。

 イターリは確実に一匹ずつ射抜いていた。しかしイソギンチャクの数は減らない。髪の毛の結界も限界がある。


「仕方がない。ここは逃げよう」


 ゲディスが提案した。ガムチチとイターリも同意する。行商人はもちろん肯いた。


「それがいいな。これ以上こいつらを相手にしてられねぇぜ」

「ボクも賛成だね。もしかしたらこいつらは洞窟での護衛かもしれない。全滅させるのはまずいかもね」


 そう言ってゲディスは髪の毛の結界を強化させた。糸は魔力を込められ淡い光が出た。

 イソギンチャクは身動き取れず、ゲディスたちを追うことはできなかったのだ。


 それに安堵したためか岩陰に隠れたものに気づかなかった。そいつはヒトデの魔獣だ。

 ヒトデはガムチチの尻に張り付いた。ガムチチも思わず黄色い声を上げる。

 ゲディスは剥がそうとするが、なかなか剥がれない。


 そうこうしているうちにヒトデはガムチチの股間に張り付く。もぞもぞと動き出した。


「大丈夫ですか!!」

「だっ、大丈夫、だ。クッ、くすぐったいだけ、だ……」


 さすがのガムチチも股間をくすぐられるのはきついようだ。よろよろと内またになってしまう。

 そんな中イソギンチャクの魔獣が一匹襲ってきた。結界を抜け出したのだろう。

 イソギンチャクはガムチチに触手を絡めた。全身を縛り上げ、ガムチチは苦悶の声を上げる。

 両腕を上に縛られ、触手がガムチチの口に入り込む。ガムチチは声を出せずに悶えていた。


「きゃー! ガムチチさんの束縛シーンて素敵!」

「すっ、素敵じゃないですよ! 早く助けないと!!」

「助けたいの~。ゲディスとしてはガムチチさんのあられない姿を見て興奮しないのかな~」


 イターリは小悪魔的な表情を浮かべた。しかしゲディスは真顔のままだ。


「僕は愛する人が苦しむさまなど見たくないんです。人が困る姿を見て楽しむなんてありえません」


 ゲディスはきっぱりと言い切った。それを見てイターリは肩をすくめる。


「ふぅ、ゲディスの愛は純粋だね。あまりにもきれいすぎだよ。でもそれを守る甲斐があるというものさ!!」


 イターリは弓を構え、イソギンチャクを射抜いた。ぶるぶると体を震わせている。

 矢に氷の魔法を宿したのだ。雷ではガムチチが感電してしまうからである。動きが鈍くなったイソギンチャクからゲディスがガムチチを助け出した。

 ヒトデは強引にガムチチが引き剥がす。三人は一目散に逃げだすのであった。行商人はすでに一人で逃げ出していたが、問題ない。依頼人を危険にさらすなど冒険者失格だからだ。


 ☆


 数分も走ると、明かりが見えた。どうやら洞窟の出口らしい。ゲディスたちは安堵した。

 外を出るとそこには集落があった。木造建ての家に水路が張り巡らされている。

 周囲は岩山に囲まれており、普通ではたどり着くことができないだろう。

 集落には人間の男がいた。子供から年寄りまで幅広い。魔族は人魚にスキュラ、クラーケンに海ラミアなど千差万別であった。

 住民たちはゲディスたちを見て、家に引っ込んだ。余所者を警戒しているようだ。


「さすがに初対面の人が来たら警戒するよね」


 そんな中一人の青年が近寄ってきた。三〇代位で肌が黒い。海の男を連想する男だった。

 左手にはモリが握られている。


「初めてだな冒険者よ。俺はイヤカキ。案内人さ」


 イヤカキは右手を差し出した。握手の意向を示したのだ。ゲディスは代表して握った。


「おお、皆さん無事でしたか。心配してましたよ」


 イヤカキの背後からひょっこりと行商人の顔が出た。無事逃げ切ったようなので安心する。

 手にはホコが握られていた。


「ああ、行商人さんも無事でよかったです」

「はい。矛の出番がなくなったのは幸いですね」


 行商人は残念そうにつぶやいた。もしかしたらイヤカキも助けに行くつもりだったかもしれない。


「この方はタコイメに住んでいた漁師さんです。鯛釣り船には乗りませんが、奥さんの人魚とともに鯛釣りに行くのですよ。子供もおりまして、満月の夜には孫を抱かせに行ってます」


 行商人が説明すると、イヤカキは鼻を掻いた。彼は田舎町を捨てたわけではなく、愛するモンスター娘と一緒になったのだ。しかしいくら人間と同じ知性を持つ魔族に変化しても、普通の人間と暮らせない。なので隠れ里に住む羽目になったのだ。

 タコイメは帝都に一旗揚げに行った若者もいれば、モンスター娘と結ばれた者もいるそうだ。


「いつつ……」


 ガムチチは股間を押さえた。ヒトデの魔獣に噛まれた傷が悪化したかもしれない。イヤカキは、おーいと声を上げると、一人の人魚が腹ばいでやってきた。手にはツボが抱えられている。

 イヤカキはツボを開けると中にはつんとした薬が入っていた。これは人魚が作った特製の軟膏だという。ヒトデやイソギンチャクの魔獣には毒がある。命の危険はないが身体が疼くことがあるという。

 ガムチチたちにヒトデやイソギンチャクに噛まれた部分を聞き出し、薬を塗る。

 特にガムチチのパンツに手を入れ、股間に塗り薬をまんべんなく塗った。


「ちょっと! 股間に薬を塗るならゲディスにやらせてよ! まったく男の股間をなでなでして興奮するなんて最低!!」


 イターリが烈火の如く怒った。イヤカキは首を傾げている。


「いや、なんで怒るんだ? 俺だって男の股間なんか撫でたくないよ」


 イヤカキも怒っていた。

 女性が縛られるのはアウトだけど、男が縛られるのはセーフ、になるのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 微妙ですね。 縛ってるだけならOKかな?
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