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第三十話 よいな ひるまず 新婚だ

「よぉ、オボコちゃん。元気にしとったかね?」


 ひさしぶりにタコイメの冒険者ギルドに、ガムチチたちはやってきた。以前より人が多くなり賑やかになっている。サマドゾが王国となり、人が流れてきたようだ。もっとも家族連れなどはサマドゾの王都に流れており、独身男性はタコイメに来ることが多い。

 ギルドも大勢の冒険者に対応するため、大勢の応援がやってきた。見知らぬ受付嬢や職員が目に付く。


「オコボです。ガムチチさん、わざと間違えてますね。セクハラですよ」


 馴染みの受付嬢であるオコボは普段は気さくだがお冠だ。ガムチチに悪意がないのはわかるが、あんまりしつこいと腹が立ってくる。ぷんぷんと怒ってもタコのように口を膨らませた。どこか愛らしさがある。

 

「あっはっは。このやり取りもひさしぶりだ。やっぱり馴染みのある所に帰ってくるのはいいものだな」


 ガムチチはからからと笑っている。その後ろでゲディスとイターリが見ていた。ゲディスはそれを見てほっとしている。イターリはくすくす笑っていた。


「まあ、いいです。私もガムチチさんたちと出会えて嬉しいです。冒険者さんたちはある日ぷっつりと消えることは珍しくないですからね」


 冒険者は命がけの仕事だ。貴族の領地では軍を率いるが給料は安い。その代わりに衣食住は保証されており安定した職業だ。

 逆に冒険者は実入りはいいが、一攫千金である。その日暮らしでちょっとした些事から命を落とすことも珍しくない。死んでも遺体が放置されるなど日常茶飯事だ。

 だからこそ受付嬢が冒険者たちの繋がりを大事にしている。ある日親しかった冒険者と永遠に別れることもよくあることだ。


「それは言えますね。だからこそ冒険者は日頃の出会いを大切にしないといけません。明日は我が身ですからね」


 ゲディスが首を縦に振った。彼はカホンワ男爵の後継者として育てられたが、領地内で冒険者とよく同行することがあった。どういった冒険者がよいのか、新人を狙う悪質な人間の見分け方などを教え込まれたのだ。


「そうだ。せっかくならこちらの依頼を受けてみませんか?」


 オコボが一枚の紙を差し出す。それにはワメカザ海岸の掃除と大文字で書かれていた。依頼はタコイメの町の町長と記されている。

 ワメカザ海岸とはタコイメより西側にある海岸だ。砂浜が広がり、岩山が壁のように並んでいる。浅瀬なので軍艦などは寄ることができない。精々漁船しか立ち寄れないのだ。

 赤貝やワカメにコンブの魔獣が徘徊しており、新人冒険者が定期的に狩っているそうだ。


「これって町長から直の依頼なんだ。何をすればいいの?」


 イターリが興味を示して紙をのぞき込む。その仕草はまさに女性で男と断っておかなければ気づくことはないだろう。髪を払う様は女のオコボでもドキリとした。


「最近、ワメカザ海岸ではモンスター娘が増え始めたんですよ。以前はポンチ島への海路で増えてましたけど、今度はワメカザ海岸の方に寄ってますね。主にワカメ娘や海ラミアですが、下半身がタコのスキュラに、下半身がイカのクラーケンがいます」

「そいつらが陸に上がって悪さをするのか。他の冒険者じゃだめなのか?」


 ガムチチが尋ねた。するとオコボは首を横に振る。


「実はこれには裏があります。ワカメザ海岸にはとある洞窟がありまして、その中を通っていくと隠れ里があるのです。そこには人間と進化したモンスター娘、魔族が共存しておりまして、時折行商人も商いに来るくらいなんですよ。ちなみにタコイメの町の人はみんな知っているそうです。余所者にはしゃべらないですけどね、ゲディスさんたちみたいな腕の立つ冒険者以外口外しないでくれと町長に言われたから」


 なんとも意外な話であった。冒険者ギルドは隠れ里を認識していたのだ。ある程度事情を知る者を誘い、仲間に入れると言ったところか。

 あと、町長と行商人の息子もいるそうだ。モンスター娘と結婚し、子供もいるという。町長と行商人は年に二回はそちらに赴き、孫の顔を見に行くそうだ。鯛釣り船の漁師の息子も同じだという。嫁が魔族なので町には住めず、泣く泣く離れて暮らしているそうだ。逆に魔族の嫁の協力で鯛を釣り、それをタコイメに届けるという。

 若い女性はそのまま帝都へ行ったそうだ。こちらは田舎暮らしを嫌っているだけだという。


「皆さんは行商人さんと同行し、隠れ里タッコボへ赴くことです。襲い掛かるモンスター娘と魔獣を退治してほしいのですよ。あと魔族にとってモンスター娘は自分と同じ姿をした別の生き物なので、殺しても問題ないです」


 オコボが説明してくれた。ガムチチは面白そうだと乗り気だが、ゲディスはどこか暗い。

 ゲディスとガムチチは恋人同士になった。しかし結局は異性同士の方がよいのではないかと考えを改めるかもしれない。ゲディスは男が好きではない。好きになったガムチチが男なだけだ。

 女装したイターリに対して欲情を抱いたことはない。


「あはは、ゲディスはガムチチが好きなんでしょう? 好きなら好きを貫かなくちゃね。恋する乙女はどんな困難も立ち向かうことができるのさ」

「僕は男だけど」

「関係ないよ。恋をするのは心が乙女なんだ。性別なんかくそくらえだね」


 イターリが慰めた。根拠のない言葉だが不思議にゲディスの心に勇気が湧いてくる。

 

「……ゲディスさんとガムチチさんは恋人なんですか?」

「そうだよ♪」


 オコボが目を丸くしている。この話は初めて聴いたようだ。イターリが微笑みながら肯定する。


「えええええええええええええ!!」


 オコボの絶叫が木霊した。すぐにギルドマスターのお叱りを受ける羽目になる。そして二人の関係を根掘り葉掘りと聞きだした。彼女はその手の小説を愛読していたのだ。


「やっと二人は結ばれましたか!! もうこっちはやきもきしてましたよ!! むっはー!!」


 オコボは鼻血が噴き出している。狙っていた二人が結ばれた。彼女にとって嬉しいものはない。自分の誕生日にケーキを出された以上の歓喜であった。


「……なんかオコボさん、生き生きとしてますね」

「そうだな。男同士の恋人なんて非難されると思っていたのに、拍子抜けしたよ」


 ゲディスとガムチチは唖然とした。だがオコボは否定する。


「何を言っているんですか!! 男同士の純粋な恋愛!! それをノンケ共が非難する資格などありません!! もしお二人の間を裂くような愚者がいれば、不肖ながらこのオコボ、お二人の剣となり盾となりましょう!!」


 オコボはどんと胸を叩いた。鬼気迫る雰囲気にゲディスたちは何も答えられなかった。

 そこにイターリがニコニコしながら尋ねる。


「じゃあボクはお邪魔虫になるかな?」

「なりませんよ。むしろ二人の仲を盛り上げるための香辛料です! だって男のがライバルなんですから!!」

「へへぇ、君はボクの正体を知っているんだね」


 イターリは自分が男とばらされても動じない。むしろ涼しげな顔だ。


「当然です! あなたがゲディスさんに色目を使うのは許可します! ぜひともガムチチさんの嫉妬心を盛り上げてくださいね!!」

「いや、色目を使われても困るのですが。オコボさんはこんな人だったのですね……」


 興奮するオコボを見て、ゲディスはやれやれとため息をついた。

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