第二話 雲雲崖にこんち旅なし
タコイメの北方には雲雲崖があった。タコイメからサマドゾの町に行く道を必ず通らねばならない。そこにもモンスターは出てくるので定期的に退治する必要があったのだ。
そこをギルドの依頼でやってきたゲディスとガムチチが徒歩でやってきた。途中で出会った旅人はいない。本当にタコイメは死んだ町だなとゲディスは思った。
「雲雲崖にこんち旅なしという言葉があるそうだ。モンスターのせいで旅ができないので、旅なしと呼ぶらしい」
「どういう意味ですかね。なんか苦しいというか」
「俺もそう思うよ。ところでお前さん腕は確かかい」
「はい、それなりです。このロングソードは僕の第三の腕といっていいほどですね」
「そりゃあ頼もしいね。俺の武器はこの太くて硬い黒光りした棍棒さ。これでモンスター娘をヒーヒー言わせてやったよ」
そう言ってガムチチは棍棒を手にして笑っていた。
モンスター娘とは人間の形をしたモンスターの事だ。彼女らは人間に似ているが知性はなく、ただ獣のように暴れ回っている。倒すと素材に変化するので罪悪感は湧かない。
そこにモンスター娘が現れた。上半身は紫色のボブカットに六つ目。口から牙を生やした美女だ。下半身は巨大な蜘蛛である。
アラクネというモンスターだ。それが三体ほど現れる。彼女らは普段はウサギや猪を捕食するがたまに人間の男を食べることがあった。
「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ!」
アラクネたちが尻を向け、くねくねと振った。ちなみに彼女たちに限らず、モンスター娘はこれしかしゃべれない。なぜこんな言葉をしゃべるのか、尻を振るのかさっぱりわからないのだ。
「へへ、雲雲崖に蜘蛛娘か。幸先がいいぜ」
ガムチチは棍棒を構えた。だがゲディスの顔は険しい。彼はロングソードを抜くと、アラクネたちに斬りかかった。どこか冷静さを欠けている感じがする。
「くそぉぉぉ!! 尻を振るなぁぁぁ!!」
ゲディスは剣を振るった。激情しているように見えて、その太刀筋は冷静であった。
アラクネたちはお尻から糸を出して攻撃してくる。
ガムチチは棍棒を振るうが、その糸が絡みつくため、身動きが取れなくなった。
一方でゲディスは糸の流れを読み、それを断ち切る。
そして、アラクネを二匹切り裂いた。
それを見たガムチチも負けてはいられないと、強引に糸を引きちぎる。棍棒をアラクネ目掛けて振り回した。
アラクネは崖に叩きつけられ息絶えた。遺体は煙を上げると後に残るのは糸とアラクネの毛皮だけであった。
なぜか死体ではなく素材だけが残るかは謎である。これが魔獣なら死体はそのまま残るのだが、その差がよく分かっておらず、学者も頭を悩ませていた。
「ふぅ、さすがにアラクネ三匹は手ごわいな。しかしゲディス、お前さんはなかなか強いな」
「いえ、そうでもありません。大抵の生き物は流れというものがあります。その動きを見極め、来るべき場所に剣を振るう。そうすれば相手は勝手に急所を斬られて息絶えるのです」
「簡単に言うが、結構難しいと思うがね。お前さんはいい師匠に師事できたようだ」
「はい。その人は今は亡き僕の父親です」
ゲディスが言うと彼は倒したアラクネの素材を袋に入れた。ガムチチもデリケートな問題と判断し、これ以上追及するのはやめた。
彼は強い。これから二人で一緒に住むのだ。弱い相手はまっぴらごめんだが、ゲディスなら付き合ってもいいと思った。
「……それで、ガムチチさん。ちょっといいですか?」
ゲディスは頬を染めてガムチチに尋ねた。
「なんだ?」
「その、僕の先ほどの戦いを見て、どう思いましたか?」
「かっこいいと思ったよ。それと強い。なかなかのものだ」
ガムチチに褒められると、ゲディスは喜んだ。
「そうでしたか! ではもっとかっこいい戦いをお見せしますね!!」
「おっ、おう……」
なぜかゲディスは気合を入れていた。どこか冷めた様子だったが、中身は熱血漢なのかもしれないと、ガムチチは思った。
題名を逆さに読んでみましょう。本日の投稿はこれでおしまいです。
次回からは一日一遍にします。