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第二七話 アルラウネのアルカイックスマイル

「おや、お帰りですか」


 オケツ牧場の入り口では牧場主のスヨテが迎えに来ていた。その背後には何やら大きなものが見える。それは桃色の花びらだった。髪の毛が花びらで胸は葉っぱで隠されている。緑色の肌をした熟女、アルラウネというモンスター娘だ。

 

 ゲディスとガムチチは武器を取った。スヨテの身が危ないと思ったからだ。

 それをイターリが左腕を伸ばして制した。問題はないということだ。


「はい、スヨテさん。お騒がせして申し訳ありませんでした」

「構いません。事情はイターリさんから聞きましたからね」


 そう言ってスヨテはイターリを見た。イターリは人差し指では鼻をこする。照れているようだ。


「イターリさんはスキスノ聖国では聖騎士のひとりで、暗部を担当していたのです。野外活動はお手の物なのですよ」


 そうだったのか。一見軽そうな感じがしたがイターリはただものではないと思っていた。それがスキスノ聖国の暗部を務める聖騎士だったのか。ゲディスは驚き、ガムチチはよくわからないが、イターリは強い人間なのだなと認識した。

ただスヨテはイターリの目を反らしている。何か隠している感じがしたが、誰も気づいていない。


「ところで後ろの方は誰でしょうか?」


 ゲディスが尋ねた。するとアルラウネが静々と前に出る。まるで女房の様だ。アルカイックスマイルを浮かべている。


「お初にお目にかかります。スヨテの妻、ウバザクと申します。見ての通りアルラウネでございます」


 なんとアルラウネは人語を話したのだ。ゲディスとガムチチはぴくっと反応したが、イターリはまったく動じていない。最初から知っていたようだ。


「私たちモンスター娘は男性を食べます。そしていのちの精を注いでもらうと、人間の知識を植え付けられるのです。もっとも人間の国ではモンスター娘の婚約は認められません。スキスノ聖国では隠れ里でないと一緒になれないそうです。私はこの人と結ばれて三〇年過ごしております。もっともうちの人はタコイメの町にいる間は週に一度しか通えませんでしたが、引退してからはここで住むようになったのですよ」


 ウバザクが説明してくれた。ちなみに一緒に住んでいる元弟子たちも別々にモンスター娘と契ったという。アルラウネをはじめ、アラクネなどもいるらしい。さすがに人目につかないよう客が来れば近くの森に隠れるが、今は普通に出ている。アルラウネたちが家畜の世話をしている姿が目に付いた。

 あと契りをかわしたモンスター娘は魔族になるそうだ。人間と同じ思考を持ち、しゃべることができる。

 魔族になると同じアルラウネでも別の生き物となる。イターリはアルラウネを倒して素材を手にしたが、ウバザクは何も思わない。人間と猿は似ているが別の生き物であることと一緒だ。


「ちなみにアルラウネはいのちの精をもらった後、五十年過ぎるとフラワーエルフに進化するのです。あと二十年経てば私は金髪で耳の長いエルフになれるのですよ」

「そこまで私は生きていられるかな。とはいえエルフの姿に興味はない。私はアルラウネのお前が好きなのだ」


 そう言ってスヨテはウバザクを抱いた。傍から見れば新婚夫妻に見える。なかなかの熱々ぶりであり、ゲディスは羨ましく思った。


「ところでフラワーエルフってなんだ?」


 ガムチチが尋ねた。イターリが答える。


「ウバザクさんの言ったとおりだよ。アルラウネはいのちの精をもらって五十年経てばフラワーエルフに進化するのさ。彼女らはスキスノ聖国のとある地方に住んでいるよ。あとドライアドの場合はウッドエルフに進化するけど樹齢百年でないと無理かな。こちらもウッドエルフの里があって本人たちに聞いたことがあるよ」


 世の中には色々なものがいる。エルフの場合は魔族と違い好意的に扱われていた。もっとも見目麗しい人間の女性の代用品としてだが。フラワーエルフは元となった花を基準に特殊能力を持つという。主に香りを操るらしい。


「新しく住む人たちも素敵な伴侶を見つけたようですね。住まない人でもよい相手と巡り会えたようです」

 

 ウバザクは嬉しそうだ。ちなみに彼女とスヨテの間には子供がたくさんいるらしい。こちらは遥か西にあるケラジミの森にある魔族の隠れ里に住んでいるという。別の国から来たものたちで作られたそうだ。

 そこはハボラテといい、人間と魔族が共存する聖地があるという。

 

「そうなのですか。僕は初めて知りましたが、種族を超えた愛は素敵ですね」

「いや、種族が違うと苦労するんじゃないか。考えが甘いと思うが」


 ゲディスが嬉しそうに語るが、ガムチチは現実を見ていた。だが二人は男同士で愛し合っている。自分たちがどう進むかわからないが、他人の恋路を無責任に褒める気にはなれない。それでも夢を見ずにはいられないのだ。


「そういえばゲディスはドライアドに抱き着かれていたよね。栗の花の香りがしたけど、あれも魔族になるのかな?」


 イターリが笑いながら言った。ゲディスは真っ赤になる。するとウバザクとスヨテが顔を見合わせた。


「ドライアドですか? それは本当なのですか?」


 ウバザクが念を押しながら尋ねた。


「本当です。情けない話ですが不覚を取りました」


 ゲディスが告白すると、スヨテは首を傾げる。


「おかしいですな……。この辺りにはドライアドはいないはずですが……」

「そうなのですか? アルラウネがいるからドライアドがいてもおかしくないと思いますが」


 ゲディスが言った。雲雲崖ではアラクネが、ゲグリソ田園ではマッドゴーレムなど珍しいと言われていたからだ。だがスヨテは否定する。 


「そう思うでしょう。ですがモンスター娘には発生する条件があるのです。邪気の集まる場所においてその地が欲する物に変化しやすいのです。例えば野菜が不足なら栄養のある土がマッドゴーレムになったりするのですよ。もしくは花が欲しければアルラウネとなり、花を増やす素材が生まれるのです。樹木が不足ならドライアドは生まれますが、ここは木々が豊富だ。ウバザクもアルラウネと出会ってもドライアドは見たことがないと言っています」

「はい。主人の言う通りですわ。ですが例外もあります。モンスター娘が男を欲しがるときですね。モンスター娘は一定の期間に男を食べないと狂暴になる傾向があるんです」


 スヨテとウバザクが説明した。恐らくゲディスを襲ったドライアドは男に飢えていた個体だろう。

 奇しくもモンスター娘の生態を知ることができたゲディスたち。 

 問題はゲディスのいのちの精を得たドライアドだ。こいつはモンスター娘から魔族に生まれ変わるだろう。もしドライアドがゲディスの前に来たらどうなるか。ゲディスとしては責任を取りたいが、魔族は人間の住む町には住めないという。住むならオケツ牧場か、ワメカザ海岸からいける隠れ里のタッコボくらいだと言われた。ゲディスはドライアドと再会したらそこに行ってもらうよう説得するつもりである。


 その後、一泊してタコイメの町に戻った。食堂の主人であるコガンは牛乳やチーズにバター、肉類を積んだ。

 町ではサマドゾ辺境伯が独立宣言を行い、サマドゾ王国ができたことを知ったのであった。

 アルカイックとは古風で素朴な様を表します。

 特に初期ギリシャ美術にみられる若々しさと原始性の残る芸術様式をいうそうです。

 アルカイックスマイルは口元に微笑みを浮かべた表情を意味します。


 なんとなくですが、アルカイックスマイルって悪いイメージがあります。

 普段は仏頂面なのにお客相手だと笑顔になる人がいる。まあ漫画や小説の中だけで現実はそう思っている人はいないでしょう。

 

 本来、題名はアルラウネだけにするつもりでしたが、辞書サイトで調べて付けました。

 ドライアドはエロいあどとつけたから、アルラウネもそうしようかと思ったけど、思い浮かばなかった。

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[一言] 世界の常識として忌み嫌われていることが、実はそう悪いことではない……
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