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第二四話 ドライアドはエロいあど

知られた! 知られてしまった!!


 ゲディスは走った。当てがあるわけではない、ただ出鱈目に逃げ続けた。

 ガムチチにだけは絶対に知られてはいけない気持ちを、暴露されてしまったのだ。

 心を冷たく錆びた鎖に縛り上げられた気分になる。

 まるで罪人の足かせのように重くなった。頭も鉛を飲まされたように吐き気を催してくる。


 イターリに対して憎しみはない。彼が口にしなくてもいずれはばれていただろう。

 遅いか早いかの問題であった。恐らくイターリが何も言わなくても、ガムチチに自分の気持ちを察してしまえば終わりであった。


 ゲディスは泣いた。涙が滝のように流れ、鼻水と涎も垂れ流しである。


 彼は幼少時から男が好きだった。漠然と女の子には興味がないと感じていた。

 かといって男なら誰でも欲情するわけではない。裸の五歳児を目の前にしても食指は動かない。

 自分より逞しく、男らしい男が好きなのだ。


 カホンワ男爵領にいたとき、義母に相談したことがあった。カホンワ夫人は丸くてふんわりした老女である。昔は美女だったと言われるが、やんごとなきお姫様がゆったりと歳をとった感じであった。

 慈愛に満ちた気配りのできる女性であるが、罠魔法の達人であった。相手の心理を突き、罠に嵌めることを得意としていた。暢気者のお人よしに見えて彼女は強かだ。何人もの貴族や詐欺師が彼女を騙し陥れようとしたが逆に騙した側が地獄へ落ちるのがほとんどだったという。


 夫婦の間には長男と長女がいたが、長男夫妻は自分が生まれる前に不慮の事故で全員亡くなっている。長女のユフルワとは数年間一緒に過ごしたが、ゲディスが10歳のころゴスミテ領に嫁いだ。

 ゲディスが生まれた時から、カホンワ男爵家の養子になる契約を交わしていた。本来は一〇歳に養子になるはずだったが、ゲディスが実母のお尻を滅多打ちにしたため六歳で養子に出されたのだ。


 カホンワ夫妻は惜しみない愛情をゲディスに注いだ。その一方で貴族としての義務と戦い方を教え込んだ。なんで義父たちが弱者呼ばわりされるのか理解できなかった。もちろん両親はそのことも教えた。

 

「人間というのは見た目で判断するものだ。私たちが童話に出てくる優しそうな老夫妻に見せかけるのも相手の隙を突くためだ。もちろん好意には好意を、悪意には悪意を返すけどね。人の心はわかったつもりで、わかりづらいものさ。私だって妻と何十年も連れ添っているが、いまだにわからないところもある。じっくりと相手の動向を探りなさい。決して急いではいけないよ」


 義父はそう答えた。もちろん義母も同じことを言っていた。


「あなたが同性を好むのは宿命かもしれません。あなたが皇妃様のお尻を叩いたのも避けられない宿命だったのでしょう。あなたは子供を残せないかもしれない。でも私たちが与えた愛情だけは信じてほしいのです。あなたがどのような道を歩もうとも私たちの子供であることは変わりないのですから……」


 両親の言葉を胸にゲディスは今日まで生きてきた。執事のギメチカや、時々ジャオメダ親子という冒険者がゲディスを鍛えた。

 ギメチカは夜の営みを、ジャオメダ親子は義父と義母の弟子で、ゲディスに稽古を付けてくれたのである。


 ロウスノ将軍が攻め込んだ時、カホンワ男爵直属の部下と共に脱出した。男爵家の使用人は執事を含め、暗殺者の訓練を受けている。実際は相手を陥れるのがほとんどで人を殺めることは少ないという。

 義母が罠魔法を屈指し、一〇〇人近い兵士を無力化したのは驚きだった。あの人と敵対する馬鹿が絶えないのは不思議である。


 ゲディスは森の中を走る。もうガムチチのところには戻れない。勝手に決めつけた。

 自分の気持ちを知られた以上、元の関係には修復できない。

 息が苦しい。まるで蔦に締め付けられているようだ。体が石炭をくべられたように熱くなる。内側から体が熱くて溶けてしまいそうだった。


 ぎゅぅぎゅうと体が締め付けられる。気のせいかと思ったが実際に体がきつい。

 いったい何が起きたのかと周囲を見回した。

 すると一人の女性が現れる。

 

 褐色肌に髪の毛の代わりに葉っぱが生えていた。胸は葉っぱに隠れ、桃のように膨らんでいる。腰は括れており、股間は蔦で隠れていた。

 太ももは木の根のように固そうである。両手もそうだ。

 相手はドライアド。樹木のモンスター娘であった。薄ら笑みを浮かべている。肩には茶色いリスが数匹乗っていた。


「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ!」


 ドライアドはゲディスに絡みつく。両足を広げ蟹のように挟んだ。そしてゲディスの股間とこすり合わせる。

 ゲディスは懸命に抜け出そうとしていた。しかし力が入らない。ドライアドの蔦の力がほどよい加減で抜け出せないのだ。

 ゲディスとドライアドはお互いに抱き合っているように見える。ドライアドの腹部がうっすらと淡い光を放っていたが、ゲディスは気づいていない。


「やめろー! やめてくれー!!」


 ドライアドは蔦でゲディスのズボンを脱がす。そして腰を蔦で巻き付け縛り上げた。

 さらに力が強くなる。ゲディスの股間が熱くなった。


「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ!」


 そしてゲディスは白い花火を打ち上げたのであった。


「ゲディス、大丈夫か!!」


 背後からガムチチの声がした。だがガムチチの目の前には下半身を露出したゲディスの尻であった。

 ドライアドは薄ら笑みから、きょとんとした表情になる。そしてきょろきょろと周りを見回すと、いきなりゲディスを開放し、森の中へ逃げ出したのだ。ガムチチはドライアドに棍棒を振り上げようとしたが、どこからかいがぐりを数個投げつけたため、視界を塞がれた。その隙に逃げ切ったのである。

 残ったのは、いのちの精をドライアドに吸い尽くされ、賢者の悟りを得たゲディスだけであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これでゲディスの性癖にも影響が?
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