第二〇話 ハイホー、ヘイヘーイ オケツ、フリフーリ
「えっ? なんでそう思ったのさ?」
イターリは疑問を口にした。イターリの容姿は美少女に見えるのに、なぜガムチチを男呼ばわりしたのか。
ゲディスは驚いていないが、周りの冒険者はギョッとなった。それでも静かなものである。
「わかる。お前さんの仕草は男そのものだ。いくらきれいに着飾っても肉付きで気づくもんだ」
「へ~、さすがだね。初対面の人は大抵ボクの正体に気づかずデレデレするもんだけどね!」
イターリは声高々に笑った。冒険者たちも目を細めているが、魔獣の素材をまとめて担ぎ始める。あまりイターリに興味を抱いていない様子だ。
「ですがイターリさん。あなたは軽率ですよ。世の中には騙されて逆上する人が大勢いるのです。あなたの悪戯で心を傷つかれ、刃物を突き刺す可能性もあるのですよ」
ゲディスが注意した。冒険者というのはただ腕っぷしが強ければそれでいいわけではない。気配りなども重要なのだ。あまりに傲慢でろくに戦わず分け前は横取りし、仲間の持ち物を自分のように扱う。さらに仲間の陰口を酒場で喚きたてる人間は大体遠からず廃業に至る。
冒険者は信頼が第一だ。仲間を陥れ、自己中心的な性質の持ち主は必ず見捨てられる。もしそいつが傷を負い、病気に倒れても、嫌われている奴なら放置されるのが落ちだ。
イターリのように容姿を上げて男を挑発し、がっかりさせる手法は下手すれば強姦されてもおかしくない。世の中は男が男に侵される場合がある。イターリは格好の餌食になるだろう。
「大丈夫だよ。ここにいる冒険者はみんなモンスター娘を相手にしたい男ばかりなのさ」
それを聞いて初めて冒険者たちはびくっと震えた。図星を指されたようだ。
「モンスター娘は男を食べるのさ。男が女を食べるようにね。ボクが住んでいたスキスノ聖国では山奥に住む木こりはモンスター娘と交わって家庭を作っているんだよ。実際に木こりはアラクネを抱いた後、七人のアラクネ娘と暮らしている。まあ教会では意思の通じない獣を相手にするのは禁忌だけど、男を食べたモンスター娘は人間と同じ知性を持つのさ。だから処刑されることはないんだよ」
イターリの説明に男たちは黙り込んだ。
「そんなにモンスター娘が良いのかねぇ?」
「良いに決まっている!!」
男たちが叫んだ。
「モンスター娘には人間にはない魅力が詰まっているんだ!!」
「たとえ人間の常識を知らなくても俺たちが教えればいいんだ!!」
「オケツ牧場の人たちも裏ではモンスター娘を囲っているんだ!! スヨテ様もモンスター娘の嫁がいるんだぞ!!」
彼らは血を出さんばかりに主張した。男たちは最初からモンスター娘を相手にするためにここに来たのだ。それもオケツ牧場の人間たちも関わっているらしい。なぜ秘密がばれないのか、もてない男たちがモンスター娘に走ること自体は止められない。しかし世間一般では非難されてもおかしくないのだ。なのでモンスター娘と契りを結んだものは他の男たちの秘密を守る。そして情報を共有して秘密を守り抜いてきたのだ。
「……まあ、人それぞれ嗜好は様々だからな。しかし牧場主も変わった名前を付けるよな。オケツ牧場なんてよ」
ガムチチが言ったら、イターリが答えた。
「オケツというのは古代語で生命を意味するんだよ。モンスター娘がよく「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ!」と叫んでいるけど、直訳すると「我願う。生命を産み落とさん」という意味があるのさ。所謂安産祈願の呪文だね。よく攻撃するときに言っているけど、一時的に邪気が集まって力が増すのさ。だから戦うときにもこの呪文は使われるんだよね」
イターリの言葉は衝撃的であった。今までモンスター娘がお尻をふりふりするために叫んでいた言葉に意味があったとは驚きだ。確かに中にはお尻を振らないで呪文を唱えるモンスター娘も多かった。
となるとオケツ牧場は生命を育むために建てられたといえる。
「……ところでガムチチさん。さっき言いましたよね? イターリさんの正体に気づいていたと」
ゲディスが尋ねた。声色は低く、目は鋭く睨みつけている。ガムチチは一瞬気圧されたが、はっきりと答えた。
「ああ、気づいていたよ。男の癖に軟弱な格好をしているなと思ったな。それがどうかしたのか?」
「やだなぁ、ボクは男だけど可愛いものが好きなだけさ。これだって可愛いから着ているだけでボク自身は男が好きなわけじゃないよ」
「当たり前だ。男同士なんて気持ち悪い」
イターリは笑ってごまかしたが、ゲディスの目に涙がこぼれた。
「……ガムチチさんは女性が好きなんですね。わかりました」
ゲディスはそう言ってガムチチに背を向けた。そして魔獣の素材を担いで牧場へ戻る。
その後姿をガムチチは茫然と見ていた。
「……ゲディスはなんであんなに機嫌が悪いんだ?」
「あっちゃ~、ガムチチさんは恋する人の気持ちをわかってませんね~」
ガムチチが首をかしげるが、イターリは両手を後ろに組んで呆れていた。
「……まあ、エルフに頼めば問題はないんだけどね」
イターリが小声でつぶやいたが、ガムチチの耳には届かなかった。




