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第一八話 オケツ牧場のミルクセーキ

「ここがオケツ牧場なのか」


 ゲディスはつぶやいた。目の前には広い草原の中に、木の柵に囲まれた牧場がある。木造の家が建てられていた。柵の中では白と黒のまだら模様の牛がのんびりと過ごしている。

 小屋の中には鶏の鳴き声や豚の吠える声が聴こえてきた。ここが目当ての牧場であることは間違いないだろう。


「へぇ、こいつが牧場か。アマゾオではヤギを育てていたな。よく朝はヤギの乳しぼりをしていたものだ」

「スキスノ聖国だと雪が積もるからね。家畜が凍死しないように気を付けてたよ」


 ガムチチが珍しそうに牧場を見ていた。その横にイターリが抱き着いている。まるで恋人のようにふるまっていた。


「おお、あなた方が冒険者の方々ですな。わしはスヨテと申しまして、ここの主です」


 一人の老人が家から出てきて、ゲディスたちに挨拶した。がっしりとした体つきで日焼けしている。元司祭ということだが、酪農家の主人に相応しい容姿であった。

 着ているのは白い麻の服で、厚手の釣りズボンを履いていた。スヨテが声を上げると、家から複数の男たちが出てきた。元司祭に仕えた者たちで年齢は三十代がほとんどだ。


「おい、お前たち。彼らはお客様であり冒険者だ。無礼がないようにもてなすのだ」


 スヨテの言葉に男たちは頭を下げる。町から離れた場所で暮らしているのに、彼らの表情は明るい。


「随分明るい顔だな。こんな何もない場所で楽しみなんかあるのかね?」

「ええ、いろいろあるのですよ。いろいろとね……」


 ガムチチが疑問を口にすると、スヨテが答えた。それでこの話は終わりとなった。

 イターリは籠いっぱいの野菜を提供した。マッドゴーレムに挿入し、一気に増殖した野菜である。

 スヨテは喜んで野菜を受け取った。


 さてスヨテは改めて説明する。ここ最近狼や猪の魔獣が増え始めたという。魔獣は牧場の柵を壊して家畜を食べていった。これでも以前より家畜の数が減っているそうだ。

 おかげで新鮮な牛乳や卵、肉類が少なくなったのである。酪農は生き物を扱っているため、常に人の目を光らせる必要がある。休みなどない。持ち回りでやるしかないのだ。

 今回は冒険者の中でも牧場に腰を落ち着ける者たちがやってきた。なぜ彼らが女性がいない牧場に住むことにしたのか。ガムチチは理解できなかった。


「なんでこんなところに住むのかねぇ? 女がいないのに」

「あれ、ガムチチさんはボクのことを女の子として見てくれないのかな?」


 イターリは悪戯っぽく笑った。だがガムチチは笑わない。


「お前さんは可愛いと思うが、仕事が終われば街に帰る。だがあいつらはずっとここに住むんだ。女っけのないところに男だけ住むのもきつい気がするけどな」

「……ガムチチさんは男同士で集まることは嫌いなんですね」


 今度はゲディスが口を挟んだ。どこかガムチチを睨んでいるように見える。


「そうじゃないさ。ただ気になるだけさ」

「ここにはねぇ、普通の町では味わえないものがあるのさ。それこそ極上の味がね」


 イターリは何か含み笑いをしていた。ガムチチはその様子が気になったが、あえて口に出さなかった。


「それよりも魔獣はどのあたりにいるのでしょうか」


 ゲディスがスヨテに尋ねた。


「西にある森です。以前からうろついておりましたが、ここ最近は活発化しましたね。それとモンスター娘もそれなりにいますが、こちらはあまり関わってこないです」


 スヨテの説明にゲディスは納得した。仕事は早い方がいい。魔獣が一日でも見逃したらますます増えてゆく。とはいえ馬車で移動したばかりなので一休みする必要がある。

 スヨテが飲み物を用意させた。三人の男たちがお盆を手にしている。お盆にはガラスのコップに白い液体が入っていた。


「こちらはミルクセーキです。牛乳と卵黄、砂糖を混ぜて作ったものです。どうぞ召し上がれ」


 ガムチチはコップを取ると、一気に飲み干した。けほけほとせき込む。


「すごく甘いな。こんな甘い飲み物は初めてだよ」

「ふふふ、ガムチチさんのミルクはどんな味かな? これくらい甘いのかな?」


 イターリがミルクセーキを飲み干すと、唇についた残りかすをなめた。ちろちろと舌を動かし、ガムチチの乳首を指で突く。


「俺からはミルクなんか出ないぞ。ミルクを出すのは女の役目だ」

「あれれ? 男でもミルクは出るよね。でしょ、ゲディスさん?」


 イターリはゲディスに話を振った。ゲディスは明らかに不機嫌である。


「男が出すのはヨーグルトじゃないのか?」


 ガムチチが言った。イターリは上機嫌で笑っているが、ゲディスは終始ふてくされていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 三者三様ですが、牧場であるよいこととは、果たして。
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