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第十六話 イターリ・ヤコンマン

 タコイメの冒険者ギルドはにぎわっていた。ゲディスが最初来た時と比べると、かなり人の数が増えている。

 大半が気の弱そうな若い男たちが多い。受付嬢も増えている。以前はオコボ一人だけで、しんみりした空気が漂っていたが、今は祭りのように華やかになっていた。


「ほう、随分騒がしいな。全員冒険者なのかね」


 ガムチチがギルド内の様子を見てつぶやいた。最初はゲディスとガムチチだけだったのに、人が多くなって驚いている。


 さらに壁には依頼書がびっしりと貼られていた。大抵は町の老人たちが出したものである。魔獣やモンスター娘退治もあれば、掃除に洗濯、家の修理などの雑用もあった。いつもは十枚ほど貼ってあるが、壁には三十枚以上貼られている。


「この人たち、全員サマドゾ辺境伯軍から抜け出た人なんですよ」


 答えたのは受付嬢のオコボだ。三つ編みで眼鏡をかけた女の子である。


「へぇオボコちゃん、そいつは本当かい」

「オボコじゃなく、オコボですよガムチチさん。それはともかく、ここ最近、サマドゾ辺境伯軍の訓練が厳しくて逃げ出したようなのです」

「逃げ出したのですか? でもサマドゾ軍は帝国軍よりかなり待遇はよいと聞きましたが」

「そうなんだよねー!」


 答えたのはオコボではなく、別の女性であった。ポニーテールの金髪に、かわいらしい顔で裾の短い緑の服を着て、木製の胸当てをつけている。背中には矢筒を背負っており、手には弓を持っていた。


「君は?」

「ボクはイターリ・ヤコンマン。弓使いだよ。ここに来たのはこの町に儲け話を聞いたからさ」


 イターリはけらけら笑っている。十代後半だが色気のある雰囲気があった。手足が細長く、胸は小さいが健康美がある。裾から見える足がちらちら見えていた。


「儲け話ですか?」

「そうだよ。タコイメの町は仕事をすればただで家に住ませてくれるしね! それにこの町で採れる鯛と米はおいしいし、ポンチ島の太くて甘いバナナやマンゴーも出回っているんだよ。それ目当ての商人が増えて護衛の仕事なんかも増えているんだよね」


 イターリの話にオコボは頷いた。だがギルドには屈強な男の姿がない。それに先ほどの話も肝心なことは聞いていなかった。なぜサマドゾ辺境伯軍から逃げ出した理由である。


「最近は魔獣たちが強くなったって話だよ。ここにいる連中はその魔獣たちに恐れをなして逃げ出した腰抜けなんだよね! つらい軍隊の仕事に嫌気を指してきたわけさ!!」


 イターリは周りを見渡した後、げらげらと笑い飛ばした。不思議と周囲の男たちは無反応である。痛い所を突かれてだんまりを決めたのだろうか。もっとも悔しそうには見えない。馬鹿にされても興味なさそうにちらりと見ているだけだ。


「でもサマドゾ軍は厳しいけど、理不尽じゃないはずだ。それに安定して給料を支払われるし、独身なら個室も用意されているはずだよ。寧ろ冒険者になるよりそちらの方が有利なんだけどな」


 ゲディスは疑問を口にした。するとその話を聞いていたのか、男たちはゲディスに対してそっぽを向いた。彼らは軍から逃げ出した根性なしではなく、何かしらの目的を持ち冒険者になったのかもしれない。ゲディスは深く追求するのをやめる。


「そういえば自己紹介がまだでした。僕の名前はゲディス。剣士です」

「俺はガムチチ。戦士だ。黒光りした硬い棍棒を武器にしている」


 二人は挨拶した。するとイターリは目を見開いた。まるで英雄に出会えた夢見る乙女の様だ。


「なんと噂の二人とお知り合いになれるなんて、すっごい幸運! ボクって女神ヤルミの加護を受けちゃっているのかな!!」


 イターリは興奮気味であった。すると周囲の冒険者はゲディスたちの顔を見た。あれが噂の冒険者コンビなのかと、ひそひそ話をしている。

 ゲディスは頬を染めた。自分たちが人の噂話に上がっていることに、気まずさを感じていた。

 一方ガムチチは気にした様子がない。他人の評価などどうでもよさげである。


「そういえばゲディスさん。今日はどのような依頼を受けますか?」


 オコボが尋ねた。二人は常連で三日に一度は複数の依頼をこなしている。この町でただで家に住む条件が月に数回の依頼をこなすことだ。二人はすでに条件を満たしているが、暇なので細目に仕事をこなしている。おかげでタコイメの住人には重宝されていた。


「牛乳が欲しいので、そっち関係の依頼はないでしょうか?」


 ゲディスの言葉にオコボが少し考えてから答えた。


「それならこちらはいかがでしょう。ここから北西にあるオケツ牧場からの依頼です。スヨテ元司祭様が作った牧場で、ここ最近魔獣とモンスター娘が増えたので退治してほしいとのことです」

「そうですか。ちなみにどんな魔獣とモンスター娘が出るのでしょうか」

「魔獣は狼や猪ですね。牧場の柵を壊したり、家畜を襲ったりするそうです。モンスター娘はマッドゴーレムですね。雲雲崖くもくもがけに近いので迷惑しているそうです」


 オコボの問いに、ゲディスは納得した。そしてガムチチを見る。


「この依頼でいいんじゃないか? うまくいけば牧場主から牛乳やチーズ、バターがもらえるかもしれないしな」

「それは間違いないですね。さらに豚を飼育しているのでソーセージも作っていますよ」


 オコボが補足した。それを聞いてゲディスは決意を固める。豊かな食事のためにオケツ牧場の環境を整理するべきだと思った。


「わかりました。オケツ牧場の依頼を受けましょう」

「なら、ボクも一緒に行っていいかな?」


 横からイターリが声をかけた。ニコニコ笑顔を浮かべている。何か悪戯を考えていそうな顔だ。


「噂の二人と一緒に仕事をしたいんだよね。それにボクの弓の腕は一級だよ。迷惑はかけないからさ」


 イターリがぐいぐい食い込んでくる。ゲディスとガムチチは顔を見合わせた。見たところイターリは軽薄そうな性格だが、立ち振る舞いは素人とは思えない。弓矢も使い古されているし、腕も鍛えてあった。


「面白そうだな。俺の部族でも弓使いはいたが、こいつのような感じだった。それに華やかな仲間がいてもいいと思うぜ俺は」


 ガムチチが賛成した。するとイターリは歓喜の声を上げてガムチチに抱き着いた。


「ありがとう! ガムチチさんはいい人だね! 胸板が厚い男の人は情にも厚いんだね!!」

「はっはっは、それほどでもないがな!」


 盛り上がる二人を後目に、ゲディスの表情は雨雲のようにどんよりと暗かった。

 嫉妬に満ちた視線を向けている。何やら幸先はわからなくなった。

ぎなた読みというのがあります。「弁慶が、なぎなたを持って」を「弁慶がな、ぎたなを持って」と句切りを誤って読むことです。

 歌手のつボイノリオ氏が歌う金太の大冒険などはそれを使います。

 金太負けるなとかね。

 アニメ巨人の星では思い込んだらを重いコンダラと読むみたいな感じです。


 イターリ・ヤコンマンも同じです。察してください。

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― 新着の感想 ―
[一言] イターリ・ヤコンマンの元ネタは結構有名ですね。
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