第一三話 奴めは 飲み好きで 皆といるよ
「では、かんぱーい!!」
陽が沈んだラタケコ村で、村長のタケム・ラタケコが乾杯の音頭を取った。村人は広場に集まり、大きな焚火の前で宴会を行っている。
今回、果物農園に巣くっていたモンスター娘が退治されたのだ。それに海路のモンスター娘も一掃されている。これからはポンチ島の果物がサマドゾ領に売りに行くことが可能だ。
もちろん、功績者のゲディスとガムチチは一番目立っている。はちみつやバナナで作った酒がふるまわれた。魚介類は赤貝にアワビ、イカやタコなどを焼いてそろえてある。どれから食べればいいのか迷うほどだ。村では年に何度もない贅沢である。
「モンスター娘がいなくなったおかげで、イカをたくさん捕れるようになりましたよ。おかげで船がイカ臭くなりました」
「こちらはタコをたくさん捕れるようになったね。知っているかい? オスの腕の一本は交接腕と言って、これをメスの体内に挿入することで交尾するんだぜ」
「村の女たちは赤貝にアワビをたくさん捕れるようになったそうだ。とれとれピチピチの貝を食べられるなんて夢の様だね」
村人たちは喜んでいた。ゲディスも村人の笑顔を見て、心が洗われるようになる。
そこに村長のタケムがやってきた。
「申し訳ございません。宴会なのに花がなくて。ここには若い娘がおらず、アワビも本物しか提供できませんので」
「いいってことよ。俺は女は好きだが、あくまで俺に組みかかる女が好きだな。恩を返すために抱くのはごめんだぜ」
ガムチチの言葉を聞いて、ゲディスはなぜかほっとした表情になった。
「ガッ、ガムチチさんはやっぱり柔らかくてふわふわした女性が好きなのですか?」
「いや、人の話を聞いていたのか? 俺は男でも組みかかる女が好きなんだよ。日焼けして腹筋の割れた女なら最高だな」
するとゲディスはしょんぼりした顔になった。そして立ち上がりその場を離れた。
ガムチチは首をかしげたが、村長が酒を勧めてきたので、がぶがぶ飲んだ。
ゲディスは火の光が届かないところまでやってきた。砂浜で波の音が聞こえる。
ゲディスは流木を見つけて、そこに座った。
「胸が苦しいなぁ……。このままガムチチさんと一緒にいていいのだろうか」
ゲディスがつぶやくと、背後から声をかけられた。ゲディスは慌てることなく振り向いた。彼は後ろに気配があることを知っていたのだ。
そこには行商人が一人立っていた。彼は上半身裸で、身に着けているのは、赤いふんどしだけである。
中年ではあるが、腹筋は引き締まっていた。行商人として重い荷物を担いで歩いたおかげだろうか。
「おや、行商人さんではないですか。宴会はよろしいのですか?」
「ええ、あんまり深酒をするわけにはいかないのでね。ところでゲディスさんと二人っきりになりたかったのです」
「二人っきりですか?」
「はい。他の誰にも邪魔されないところに誘う予定でしたが、好都合でした」
行商人はゲディスの右側に座った。やたらと肌を密着するように座っている。まるで恋人の様だ。そしてゲディスの耳元にそっと口を寄せた。
「あなたはカホンワ男爵の養子ですね」
行商人の言葉にゲディスは目を見開いた。それは誰にも知られてはいけない禁断の秘密であったのに。
「あなたの使った罠魔法は、カホンワ夫人が得意としたものです。ですが夫人の教えは厳しく、数人しか免許皆伝は許しておりません。そのうちの一人が男爵の養子なのですよ。それとあなたは六歳までバナナを食べたことがあるといった。カホンワ男爵領ではバナナは売っておりません。帝国では帝都以外、それも皇帝一家以外口にできないのですよ」
ゲディスの顔はますます青くなった。まるで背中に巨大な岩を背負わされたように苦しそうである。
「私はしゃべる気はありませんよ。そもそもカホンワ男爵夫妻は謀反の容疑をかけられましたが、誰も信じておりませんし、無罪だということも明かされています。今の皇帝を喜ばせる商人はおりませんよ、精々皇妃が望む宝石とドレスを提供するだけですね」
行商人が皇帝の事を口にすると、怒りを露わにしている。よほど今の皇帝は嫌われているらしい。
「……その話をなぜ僕にするのですか?」
「この話は早めに相棒に教えた方がいいと思います。あまり内緒にすると爆発するかわかりません。幸いガムチチさんはアマゾオ出身で、帝国に対して感情は薄いと思います。それにあなたの立場から言って同情はされても非難されることはないでしょう。サマドゾ領では皇帝は嫌われていますが、その姉バガニル様と弟のあなたは同情されますね」
ゲディスは何も言わなかった。目はどこか虚ろで行商人の話を聞いているかわからない。まるで彫像のようである。
「おーい、ゲディス!! 村長がフルーツポンチを作ってくれたぞ!! 若のポンチは最高だって村人も言っているぞ!!」
遠くでガムチチの声がしたが、ゲディスは反応しなかった。ただ波の音だけが鳴り響いていた。
☆
朝になるとゲディスたちは船に乗って帰った。残るはラタケコ村の村民だけである。
村長のタケムが遠くで見つめている。
「義父さま」
背後から声をかけられた。そこには黒いハーピーが立っている。首には籠が下げられており、中には干しキノコに山菜など、山の幸が詰まっていた。
「おお、ヒアルか。ひさしぶりだな。冒険者に見つからなくて何よりだ」
タケムはハーピーを見ても驚かない。それどころか周りの村人も彼女を囲い、好意的な目を向けていた。
「はい。流れのモンスター娘たちのせいで、近づくことができませんでした。ですが今はもう安心です」
ヒアルと呼ばれたハーピーは、籠を差し出した。その中に手紙が数枚入っている。村人たちは手紙と籠の中身を取り出した。
「孫は元気か?」
「はい、元気です。まだ赤ちゃんなので会わせるわけにはいきませんが。うちの人も手伝ってくれていますし」
「そうかい。そいつは何よりだ」
タケムとヒアルの話では、ハーピーは村長の息子と結ばれ、子供もいるらしい。
それにしてもモンスター娘であったハーピーがなぜこんなに流暢にしゃべれるのだろうか。
「ここに司祭様がいれば、お前も息子もここに住めるのだがな。こんな辺鄙な島では来てくださらないだろう」
「そうですね。しかしスキスノ聖国が動いているそうです。もうじき一緒になれるとのことですよ」
「早く、そうなるといいな」
タケムは遠い目をした。年老いた村人たちは干し魚に干し貝、干し昆布に干しワカメ。果物などを籠に入れた。彼女は宅配の仕事をしているようだ。
陰では人間とモンスター娘が関わっている。真相が明かされるのはまだだ。
今回黒ハーピーを出したのは予定外だったのです。
実は伏線を張っているのですが、あまり引っ張りすぎてもつまらないと思い、変更したのです。
それにこの作品はモンスター娘を殺す作品でないことを知ってほしかったのです。
この時点では折口良乃原作の小説モンスター娘のお医者さんのアニメが放送されております。
というかなろうにおいてモンスター娘の需要があるかなぞだ。
だが私には関係ない。今まで書かなかった作風を書くことに意義があると思っている。
自分が体験しなかったことを体験する。小説を書くことは毎回新鮮な気分でいることが重要なのです。




