第一二話 果物農園
「こいつはすごいですね。圧巻です!!」
ゲディスは目の前の風景に感動した。それは立派な果物農園を見たからだ。
バナナの生る木にマンゴーなど様々である。さらに森のバターと呼ばれるアボカドも生っていた。
果物特有の甘い香りは、疲労した体を心地よくくすぐった。
色取り取りの果物に同行していたガムチチも息を吹いた。
「確かにすごいな。俺はあまり果物を見たことがないんだ。こいつを食えると思うと涎が出るな」
「バナナはそのまま剥いてもおいしいですが、チョコレートを塗ったチョコバナナもおいしいですよ。マンゴーも、マンゴープリンやマンゴースムージーにするとさらにおいしくなります」
「ほほう! いろいろな食べ方があるんだな。心が躍るぜ」
行商人の言葉に、ガムチチは口元をぬぐう。さすがの彼も甘いものには涎をせき止めることができないらしい。
「僕もバナナは好きですね。六歳の頃まではよく食べていました」
「へぇ、そうなのか。でもなんで六歳までなんだ?」
「家が貧しくなりましてね。気軽に食べられなくなったのです」
ゲディスの言葉に行商人は首を傾げた。だが彼はすぐに仕事を始める。背負子に詰めるだけのバナナを積み、マンゴーやアボカドを革袋に詰めていった。
「じゃあ今食べちまおうぜ。一本や二本くらい食べても問題ないだろう」
「そうですね。農園と言っても村人がある程度果物の生る木を勝手に囲んだだけです。数本取るくらい目くじらを立てる人間などいませんよ」
「へへっ、そいつは楽しみだな」
行商人が許可した。ガムチチはうきうきしている。
ゲディスはバナナを一本もぎる。ガムチチも同じくもぎった。
ゲディスはぱくぱくとバナナを食べた。ガムチチは大きく口を開けると、がぶりと食べる。
それを見てゲディスは股間を押さえた。行商人も小腹を満たすためにバナナを食べていた。
「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ!」
空から声が聴こえてきた。見上げると何かが飛んできた。
大きな蜂に見えるが、人間の部分が目立つ。手には黒い槍を持っていた。
モンスター娘の蜂娘だ。目は複眼で色眼鏡をかけているように見えた。胸は黒く白い淵のあるビキニに見える。足は黒タイツのようにすらっとしていた。
「くそっ、蜂娘だ!! あいつらははちみつを投下してきます、気を付けてください!!」
行商人が叫んだ。蜂娘は急降下すると、何か黄金色の液体を噴出した。
地面に叩きつけられると、甘い香りが漂った。文字通りにはちみつを出して攻撃してきたのだ。
本来、蜂ははちみつを排出したりしない。モンスター娘ゆえの生態である。
「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ!」
蜂娘たちは上空に飛んだ際にバナナを一本手にしていた。それの皮をむき、あ~んと口に含む。レロレロと剥いたバナナを舌で舐めている。バナナをすぐ食べるのではなく、舐めて味を堪能しているのだ。
それをガムチチが眺めていた。
「バナナをあんな風に食べるなんて!! なんて腹の立つモンスター娘だ!!」
ゲディスは激怒した。ガムチチはなぜ彼が憤慨するのか理解できなかった。
ゲディスはカバンから糸を取り出す。木の間に糸を張ったのだ。蜂娘はそれが理解できず、糸に絡まってしまう。そして悠々と陶器の剣を尻に突き刺した。
蜂娘たちは煙を上げて消えた。残るは虫の抜け殻にはちみつの塊だけだ。
「お前、なんで機嫌が悪いんだ?」
「いえ、ガムチチさんが蜂娘をじっと見ていたと思ったので」
「そんなにじっと見ていたのか? まあ、戦いの最中によそ見するのは自殺行為だからな」
ゲディスは不機嫌であった。ガムチチは何が何だかわからない。行商人だけは何か察したようである。
三人は積めるだけ果物を積んだ。もちろん全部取らない。残りは村人のおやつであり、野生動物の食事だ。
森から猿たちが降りてきた。猿たちはバナナの木に登り、器用に皮をむいて食べた。
果物を採取し、帰路につくまでゲディスは膨れたままであった。
その様子を岩陰に隠れて、遠くから見ていたものがいた。黒いハーピーだ。
カラスのハーピーである。野良のハーピーと違い、白い服を着ていた。
表情は理知的で、頭の弱そうなモンスター娘には見えなかった。




