第十一話 ハーピー
「ふぅ、暑いですね……」
ゲディスは汗をぬぐった。ガムチチもつらそうである。
彼はブーレランパンツとサンダルだけだが、暑さがきついようだ。
「確かに暑いな。俺の住んでいた地域はからっとした暑さで、こちらは蒸し暑い。暑さにもいろいろあるものだ」
そう言って腰に付けた革袋の水を飲んだ。彼らは森の中を歩いている。熱帯植物が多く、遠くで珍しい鳥や獣の鳴き声が聞こえた。
「まったくです。国も違えば気温も違う。そこで生まれるものはそこにしか生まれない。だからこそ行商のし甲斐があるというものです」
行商人が答えた。背中には背負子を担いでいる。
「このあたりでもモンスター娘はいるのですね。魔王の復活が近いのかな?」
「私の聞いた話ではここにいるモンスター娘は別の地域から流れてきたと聞きます。ハーピーはおろか蜂娘も遠距離で飛んできたとのことですよ」
「へぇ、モンスター娘がわざわざ飛んでくるのですか」
ゲディスが訊いた。行商人はいろいろ地域を回っているため、情報を会得しているようである。
「ここ最近、モンスター娘は色々出ているそうですよ。サマドゾ領はもちろんのこと、帝都周辺にも出没しているとのことです。そのせいで帝都周辺では壊滅した村が増えているそうですよ」
「物騒な話だねぇ。帝国は何とかしようと思わないのか」
「情けない話ですが、今の皇帝はあまり平民の生活などどうでもいいと思っているのですよ。それどころかカホンワ男爵を謀反人と決めつけ、せん滅したくらいですからね」
行商人は忌々しそうに答えた。今の帝国に対して不満を抱いているようだ。
しかしガムチチは首を傾げた。先ほど気になる言葉を耳にしたためである。
「カホンワ男爵ってのは病死したんじゃ―――」
「不満を言うのは後回しですね」
ガムチチの声をゲディスが遮った。空の方から声がする。
「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ!」
空から大きな鳥が飛んできた。上半身が美女で、両腕は鳥の翼を持っている。
羽根は真っ赤で髪の毛は黄色い。ハーピーだ。
それが三体ほど飛んできた。
ハーピーたちはゲディスたちに向かってきた。そしてすれ違いざまに何かを落としてくる。
それは卵であった。赤ん坊ほどの大きさの卵だ。
地面に落ちるとボンと破裂音を出して、白い煙が出る。卵爆弾だ。
「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ!」
ハーピーたちは胸を揺らしている。さらに卵を出してきた。胸は白い羽の胸当てをしている。。
「ちっ、ハーピーどもめ。おけつではなく、胸をゆらしているじゃないか。まったく頭の悪そうなモンスター娘だぜ」
ハーピーの一体がゲディスに抱きついた。ハーピーはゲディスを押し倒すと、腰を激しく上下させ始める。
ガムチチは慌てて樫の木の棒でハーピーの尻を打ち据えた。すると白い煙が上がる。残るのは鶏肉と羽根、白い卵が残った。
ゲディスは起き上がると、陶器の剣で残りのハーピーの尻を切り裂いた。
残るは素材のみである。
「大丈夫かゲディス!」
「大丈夫ですよガムチチさん。ハーピー如きに食べられる僕ではありません」
「そうみたいだな。モンスター娘が男を食べるというのは、性的な意味だったんだな」
ゲディスとガムチチは残された素材を見て、つぶやいた。魔獣たちは倒してもろくな肉を残さないが、なぜかモンスター娘だと食べられる食材を落とす。いったい魔獣とモンスター娘にどのような差があるのか。
そういえばさっき何かを聞こうとしたが、忘れた。
おそらくどうでもいいことなのだろうとガムチチは思った。
「こいつも回収しましょう。あとで村に売れば潤いますよ」
行商人は素材を背負子に積んだ。商人はちゃっかりしている。
さて目的の果物農園はあと少しだ。




