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第百十八話 勲章授与式

「ゴキョイン殿下のおな~り~」


 キャコタ王国の玉座の間で声が響く。ガムチチたちを含めた108人の冒険者たちが集まっている。

 全員正装だ。ガムチチは黒い礼服を着ている。左右にはゲディスとベータスが挟んでいた。

 ギメチカは執事服を着ており、クロケットは白いドレスを身に付けている。

 ブッラとクーパルも白いドレスを着ていた。ブッラはきょろきょろと落ち着きがなく、クーパルが宥めている。


「あれがキャコタ王国の王様か。とても大きいな」


 ガムチチがつぶやいた。ゴキョインは顔が大きく、三頭身であった。だが小男ではない。身長はガムチチほどの高さだ。

 年齢は70歳だが、髪の色は黒く、眉はへの字に曲がっており、炎のような形をしている。

 目は獅子のような肉食獣の目つきをしており、鼻はわしのように鋭い。唇はナマズの様に分厚く、滝のような黒髭を生やしていた。


「留学の時にパレードで見たことがありましたが、迫力は相変わらずですね」


 ゲディスがそっと耳元でささやいた。ゴキョインはゲディスの祖父でもあるが、国が離れているし、王族なので気軽に会える相手ではない。


 ゴキョインの横には黄金のローブを着たハゲ男と、白銀の鎧を着た大男が立っている。恐らく黄金は宰相で、大男は元帥であろう。

 そしてずらりと横に並んでいるのはキャコタ王国の貴族だ。ガムチチたちを含めた冒険者たちに対してにらみつけている者が多い。下賤な冒険者に革命を阻止されたのが気に喰わないのだろう。

 もちろん好意的な目を向けている者も多い。むしろそちらのほうが圧倒的である。

 

 その中にはキョヤス王子も混じっていた。隣にはでっぷりと太った女性が左側に立っている。太ってはいるが目元はぱっちりしており、鼻の形もよい。ふっくらしているだけの美人だ。恐らく細君であろう。キョヤスの年齢なら結婚してもおかしくない。


「おう、俺がこの国の王様ゴキョインだ。今回はうちのアホが迷惑をかけた挙句、尻拭いまでさせちまったな。あんがとよ」


 ゴキョインは開口一番で礼を述べた。普通、国王が直接声をかけることはない。代弁者が述べるものだ。それに国王らしからぬ伝法なしゃべりである。


「陛下。御自ら声をかけてはなりませぬ。臣下に示しがつきませぬ」


「かてぇこというなよ、ピハカゲ。ただでさえつるつるなのに、さらに磨きがかかっちまうぜ?」


 禿げ頭の男、ピハカゲは咳払いをすると、言葉を述べる。

 

 君たち冒険者のおかげでキャコタ王国は救われた。なので戦いに参加した冒険者たち全員に勲章を授けるとする。ありがたく受け取るように。ということだ。


 勲章はキャコタ鉄勲章というらしい。鉄は生活に役立つものだから、功績をたたえるにふさわしいものだという。


 最初は紋付き袴を着ているシフンド三兄弟。タキシードを身に付けたサリョドと従魔のアルジサマ。普段と変わらないレッドモヒカンチームであるフチルンたち。赤い礼服を着たヘダオスたちが勲章を授かる。


「ヘダオスよ。おめぇさんには悪いことをしたな。無能なイコクドのせいで軍を追い出されちまったんだからな」


 ゴキョインがヘダオスに声をかけた。彼はキャコタ海軍の将校だったらしい。有能な人だったが無能なイコクドに追放されたそうだ。その後冒険者として活躍し、多くの新人冒険者たちを救ったのだから世の中わからない。

 ちなみにオカマになったのは昔からだそうだ。


「いいえ、わたくしは天職を見つけられました。イコクド卿に感謝しておりますわ」


 ヘダオスは恨み言を言わず、ゴキョインに感謝の言葉を述べた。人としての格の違いである。


 次に豪華なドレスを身に付けたエスロギとお供のパンダ三頭、シジョフとシジョムにシジョルの三姉妹、桜の柄の着物を着た荷庫小芥子にく こけしたちが勲章をもらう。


 さすがはフラワー級とパドルびら級の冒険者たちだ。誰一人浮かれていない。

 小一時間ほどかけて冒険者たち全員に勲章を授与された。それを見てゴキョインは満足そうに歯を剥き出しにして嗤う。


「へっへっへ。どいつもこいつもいい顔をしてやがる。さすがは百戦錬磨の冒険者たちだ。イコクドの鼻たれでは太刀打ちできねぇのは当然だぜ」


 ゴキョインは無邪気そうに笑っている。キャコタの貴族の中には不快な表情を浮かべている者もいた。自国の恥を国王が楽しそうにしゃべるのが癪に障るようだ。


「だがなぁ、今回の件は俺の責任でもあるんだよな。権限は抑えておいたとはいえ、あいつは権力に飢えて残酷になっていた。俺が放置していたからあのアホは今回の凶行を起こしたんだ。俺は王座を降りるぜ。おいキョヤス!! お前が代わりに座れ!!」


 ゴキョインはキョヤスに顔を向けて声をかけた。ガムチチたちを含め、冒険者たちは驚いている。

 キャコタの貴族たちも同様だが、大半は冷静なままだ。恐らくゴキョインの引退は数年前から決まっていたのだろう。そして後継者はキョヤスであると指名したのだ。

 驚いているのは何も聞かされていない下級貴族だ。ガムチチたちは全く知らないが、冷静なのは上級貴族たちだ。知らされていないのはどうでもよいと思われる貴族なのだろう。馬鹿にして逆上しないかと心配になるが、大抵は気持ちを落ち着けさせている。ある意味踏み絵と同じだ。腹を立てるやつが出ないか試しているのだろう。


「へっ、陛下!! 何をおっしゃいますか!! 今陛下に玉座を退かれてはキャコタは滅んでしまいますぞ!!」


 そこに異議を唱えたのは白髪のカールを入れた老人だ。立派な礼服を着ているがどこかちぐはぐである。服に着せられているのだ。顔つきは陰険で他者を不快にさせる。枯れ木のような身体で風が吹けばあっさり飛んでいきそうだ。

 

「あの貴族は誰だろうか?」


「あの方はクザソコ男爵です。ゴキョイン陛下の十歳年上の兄ですよ。つまり先代国王の長男です。ゴキョイン陛下が即位したときに臣下に降ろされたのです」


 ガムチチの疑問に背後のギメチカがそっと声をかけた。そもそもゴキョインは十人兄弟の内の末っ子らしい。やる気のある兄たちではなくゴキョインが選ばれたのは、ブカッタ教の大巫女や商業ギルドのトップたちの意向だ。キャコタ王国の国王は飾りである。君臨すれど統治せずだ。

 かといってゴキョインは無能ではない。キャコタ王国を無理に変えようとせず、自然に任せていた。その一方で商業ギルドが有利になる法律を作りつつ、弱者を救済するために孤児院や学校の設立に力を注いでいたのだ。


 クザソコは欲張りで威張りん坊であった。国王になれば自分の思い通りにキャコタを滅茶苦茶にしていたのは目に見えている。

 男爵家として50年近く過ごしたが、まったく出世できず、子爵家の嫁を貰うが嫁の尻に敷かれ、後継ぎは父親を見下していた。そもそも80近くなっても当主の座を渡さないのは、権力を失うことを恐れている証拠だ。


「そもそもキョヤスは偽物です!! その男の正体はラボンク!! ゴマウン帝国の皇帝でございますぞ!!」


 クザソコはしてやったりの顔になった。

 これには冒険者たちが驚いていた。ガムチチたちも初めから聞いてなければ慌てふためいていただろう。

 しかし他の貴族たちは動じていない。ピハカゲ宰相や元帥も石像の様にぴっちりと立っていた。あらかじめ知っていたようである。


「へぇ、それで何か問題があるのかい? ラボンクは俺の娘ハァクイの子だ。つまり俺の孫でもある。血筋は申し分ないぜ」


 ゴキョインの言う通りであった。ラボンクはどこのわからない馬の骨ではない。ゴキョインの孫であることは変わりないのだ。


「しっ、しかし、こやつはキョヤス王子となり替わっておりました!! キャコタ王国に対して裏工作を企んでいたに違いありません!!」


「影武者ならともかく、皇太子に裏工作をさせる意味がないぜ。むしろキョヤスはゴマウン帝国を混とんに陥れていたぞ」


 クザソコは怒鳴るがゴキョインはさらりと受け流している。さすがは50年以上玉座を守ってきただけのことはある。


「くそぅ!! 俺は兄なんだぞ!! 弟は黙って言うことを聞けよ!!」


 クザソコは本性をさらけ出した。弟に王座を奪われた怒りが爆発したのだ。


「そもそもこんな下賤な輩を城に入れるなど反対だったのだ!! むしろこいつらは一人残らず革命の手先として処刑にしたかったのだ!! それなのにお前は勲章をばらまきやがった!! 我らキャコタ王国の名誉を傷つけたお前は死ぬべきだ!!」


 クザソコは短剣を取り出すと、ゴキョインに突進してきた。

 するとゴキョインは目を瞑ると、一気にクザソコをにらみつけ「喝!!」と声を上げる。

 クザソコは身体が金縛りになり、頭が爆発した。玉座の間は血まみれになる。


 ゴキョインの力は多分催眠術のようなものだろう。声だけの力ならクザソコだけでなく、周囲の人間も同じ目に遭っていた。


「ふん。国王に凶刃を向けたのだ。当主の死をもって不問にしてやろう」


 ゴキョインはそう言って人を呼び、死体を片付けさせた。眉ひとつ動かさない。さすがはキャコタ王国の国王だ。

 それに宰相と元帥もそうだが、他の貴族たちも動揺してない。おろおろしているのは下級貴族ばかりだ。


「……多分あの男は嵌められたな。ラボンクの正体はつい最近聴かされたんだろう」


 ガムチチが言った。クザソコはキョヤスの事を何も知らず、正体を知らせたのはゴキョイン本人だろう。

 クザソコは下級貴族だが血筋がよい。それ故に王家から遠ざけられていた。本人はそれを利用して新規の商人たちを使って密輸などをしていたのだ。もっともあまりにもあくどいので授与式を使って処刑したのだろう。

 その上他国に対する差別意識も強かった。世界中に散らばるキャコタにとって、差別主義者は排除したかったのだろう。


「国王に刃を向けたのです。お家取り潰しになってもおかしくない。寛大な処置だね」


 ゲディスも言った。ゴキョインは実の兄を殺したが、誰も文句を言わない。殺されて当然だと思っている。


 ガムチチは国王の底力を見せつけられた気分になった。恐らくゲディスも同じ立場になるだろう。

 自分はゲディスを支えなくてはならない。ガムチチは改めて覚悟を決めるのだった。

 ゴキョインのイメージは故片岡千恵蔵氏です。加藤剛氏出演の大岡越前では越前の父親役で出演していました。

 もちろん本人は極度に顔が大きくありませんので、誤解しないように。

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― 新着の感想 ―
[一言] 国王が賢王であれば、その国はまだ何とかなるのでしょう。
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