第十話 若のポンチ、タケム・ラタケコ
「ここがポンチ島か」
ゲディスが漁船から降りた。島は気温が高く、ヤシの実が生っていた。白い砂浜にそよ風が吹いている。
近くには村があった。
「そうです。あそこに見えるのがラタケコ村ですよ。島で唯一の村です」
行商人が説明してくれた。彼は高齢だが体力はある。大量の果物を仕入れては、一人で運んでいるという。
「へへへ、果物なんて初めてだ。今から楽しみだぜ」
パンチ一枚のムキムキであるガムチチが答えた。彼の住む地域では瑞々しい果物がないため、今回の護衛を楽しみにしていたのだ。
ふと砂浜を見てみると、にょろにょろと動くものがある。
それは貝であった。ところが人間の赤ん坊ほどの大きさだ。
巨大な赤貝にアワビが人間目掛けて襲ってきた。
ゲディスは陶器の剣を貝の隙間に突き刺した。
ガムチチも貝の殻をそのまま叩き割る。
貝の化け物はそのまま動かなくなった。
「これは魔獣ですね。魔素の影響で巨大化し、凶暴になったのでしょう。こいつらがさらに魔素を吸い込むとモンスター娘に変化するのです」
行商人が説明してくれた。魔獣とは獣や植物などが魔素に影響で巨大化したものだ。
それが人間を襲うようになるのである。
さらに魔素を取り込むとモンスター娘に変化し、人間の男を食べるようになるのだ。
世界が生まれて二千年の月日が流れても、これらは変化することなく続いているのである。
「貝の魔獣は動きがのろいからまだいいです。ですが蜂娘やハーピーなどのモンスター娘は遠いところから来て果物を荒らすと聞きます。まずは村に赴き、村長から情報を入手しましょう」
こうしてゲディスたちは村へ行くことにした。船長は船の番をするので残っている。自分の船は家族同然だから離れるつもりはないそうだ。いざとなれば戦う覚悟はある。村から食事を持ってくることを約束した。
途中でワカメ娘に襲われたが倒した。
髪の毛と下半身がワカメで、胸はワカメを巻いて隠している。こちらも「ハイホー、ヘイヘーイ。オケツ、フリフーリ!」と迫ってきた。
☆
「ようこそ、私は村長のタケムと申します。みんなには若と呼ばれますよ」
ラタケコ村の村長は四十歳ほどであった。禿げ頭で日焼けしている。これでもみんなには若と呼ばれている。
特にフルーツポンチを作る名人だそうだ。子供はいたがみんな帝都に逃げてしまったという。
村には六十代の老人しかいない。若い者はすべてこの村を捨てたのだ。身に着けているのは薄い服で、涼しげであった。
「この村の南側に果物農園があります。今はハーピーや蜂娘が占領しており、年老いた村人では対処できません。私が行きたいくらいですが、村長なので駄目だといわれました。今はあなた方冒険者に頼るしかないのです。よろしくお願いいたします」
そう言ってタケム村長は頭を下げた。
「もちろんだぜ。お礼として果物を食わせてもらいたいな」
「果物だけではなく、新鮮な魚介類も出しましょう。もっとも先ほどお二人が倒した赤貝とアワビの魔獣は食べられません。あれは粉々にして果実農園の肥料にします」
「魔獣の肉は食べられないのかよ?」
「はい。魔獣の肉は一部を除いて食えたものではありません。味がなく、中身もスカスカしております。逆にモンスター娘だと倒した後に素材となって出てくるので、問題はないのですが……」
食べられないといっても魔獣の肉を畑の肥料にすることはあるという。それに皮や骨も素材になるので損にはならない。それでもモンスター娘を倒した方が良い素材が入手できるそうだ。
「サマドゾ領は世界から捨てられた大地と呼ばれております。魔獣がやたらと多く、一部を除いて農業ができないからです。百年前にゴマウン帝国が魔獣をせき止めるために初代サマドゾ辺境伯に押し付けたと聞きます。帝国が平和でいられるのはサマドゾ辺境伯のおかげなのに、帝都ではサマドゾ辺境伯の悪口ばかりと息子の手紙で知りました」
タケム村長は悔しそうにつぶやいた。周りの村人も同意している。彼らにとってここでの生活は貧しいがそれなりに平和に過ごせていた。その生活はすべてサマドゾ辺境伯のおかげであると考えている。
「僕たちの仕事はとても重大ですね」
「ああ、早いところ片づけてうまいものを食べたいぜ」
ゲディスとガムチチは決意を新たにするのであった。
ちなみに村の食事は魚のスープだった。魚醬に白身魚とワカメを入れたものだが、とてもおいしいものだった。
フルーツポンチは果物農園のモンスター娘を倒した後にふるまうと約束された。




