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第九十九話 ピンクスライム

「今日は、ローション魔法に、使う、素材を、取りに、行くよ」


 ゴロスリが説明した。ローションの材料はピンクスライムから採れるという。肝心の獲物は自宅の下にあるそうだ。

 ゴロスリ自身、ピンク色のスライムだが、材質が違うという。本物のピンクスライムは花畑などを中心に生息しているそうだ。

 だが家の周りは濃い霧の海である。どうやって下へ降りるのか見当もつかない。


「そこは私にお任せください」


 大魔王のドスケベデスだ。身体が半透明でメリハリのある裸体を晒していた。彼女の身体は水分で出来ている。濃い霧も彼女の身体の一部に過ぎない。

 

「自分たちの、使う素材を、自分で、採るのは、基本、だよ」


 そう言ってゴロスリは茶色い壺を差し出した。これでピンクスライムの身体を入れるのだ。

 ガムチチはそれを受け取ると、さっそくドスケベデスに誘われて下へ降りることになった。

 ガムチチとベータス、ギメチカが木造の船に乗り込む。すると船が動き出した。

 ドスケベデスの身体から霧が発生し、船を持ち上げる。

 


 船はそのまま霧の海へ沈んでいった。


 ☆


「ほう、霧の下なのに割と明るいな」


 ガムチチが船から降りた。霧はあるが見渡せないわけではない。地面はごつごつした岩が広がっている。そこには色とりどりのスライムたちがぴょんぴょん跳ねていた。


「スライムがいっぱいいるな。俺たちを襲わないのか」


「襲わないよ。ここのスライムはおとなしいものさ。こちらが危害を加えなければね」


 ベータスが言った。彼は何度もここに来たので慣れているのだろう。

 水色のスライムに、緑色や赤色のまるっこいスライムが跳ね回っている。食べ物は岩にこびりついた苔らしい。


「これらのスライムに使い道はないのですか?」


 ギメチカが訊ねた。彼女は白と青の縞々の水着を着ていた。まるで囚人服に見える。


「その格好は何だ?」


「水着ですよ。女は肌を晒すなどありえません」


「男の時はいいのかよ」


 ガムチチは呆れていた。話を戻すが周りのスライムたちは使い道がある。

 青色は凍らせると保冷剤になるらしい。緑色は毒性を含んでいるが、農薬に使えるそうだ。

 赤色は酸性を含んでおり、魔法の薬に使用されるという。今回は捕獲する必要はない。狙いはピンクスライムだ。


「この底には霧の海にしか生息しない霧の華があります。ピンクスライムはそこに住んでいるそうですよ」


 ギメチカが説明した。ゴロスリから聞いたらしい。ベータスも知っているので説明はしない。


「霧の華ってなんだ? 太陽の光を浴びないで咲く花があるのかよ」


「この地の底でも太陽の光はわずかながら届きます。霧の華は私の心臓でもあるのですよ」


 ドスケベデスが教えてくれた。それは重大な情報ではないのか?


「そもそもここに来れるのは私以外ありえません。普通の人間はもちろんの事、魔獣ですら霧の海に落ちてもここまで落ちてこれないのです」


 なんとも凄まじい話である。ガムチチたちはドスケベデスに案内されて足を向けた。

 地面は苔がびっしりと生えており、滑りやすい。

 ガムチチたちは足元に気を付けながら歩みを進めている。


 その間にスライムたちが横切っていた。自分たちに危害を加えなければ、スライムたちは部外者に用はないようである。


 ガムチチはその光景を見て感動していた。今までアマゾオに住んでいたが、こんな風景を見たことはない。

 自分が経験したことのないものを体験することは、頭にいい刺激になる。

 それもタコイメの町でゲディスに会わなければありえなかった。


 さらに数多くの人間との出会いは、ガムチチの凝り固まった頭をほぐしてくれた。

 

「ふふ、ゲディスに感謝しないとな」


「は? ゲディスがどうかしたのか?」


「お前には関係ないよ」


 ベータスが訊ねたがガムチチはそっけなく答えた。ベータスはふくれ面になったが、無視した。

 その様子を後ろで見ていたギメチカは微笑ましそうに見ている。まるで素直になれない子供を見ている気分の様だ。


 さて歩いているうちに霧の華にたどり着いた。それは花というにはあまりにも巨大である。

 灰色の花びらに木の幹のように太い茎、葉っぱは地面に広がっていた。


「こいつが霧の華か。不気味な花だな」


 これがドスケベデスの心臓だと思うと、緊張が走る。誤って花を傷つけたら彼女が死んでしまうのではないかと思った。


「この辺りにピンクスライムがいるはずです。探しましょう」


 ガムチチたちはピンクスライムを探した。だがどこにも見つからない。一時間ほど探したが見つからなかった。


「おかしいですね、いつもならすぐ見つかるのですが……」


 ドスケベデスが首を傾げると、急に彼女は苦しみだした。

 すると霧の華がぶるぶるに震えている。花びらが急に閉じると、茎が急激に伸びた。まるで大蛇だ。

 そして花びらが開くとドラゴンのような咆哮をあげる。一体どういうことだろうか?


「おいおい、嘘だろう? 霧の華はピンクスライムに乗っ取られているぞ!!」


 ベータスが叫ぶ。見ると霧の華の表面にピンク色の筋が見えた。


「うぐっ、気を付けて!! ピンクスライムは霧の華を乗っ取って―――!!」


 ドスケベデスの身体が消える。身体を維持できなくなったのだ。

 霧の華はドラゴンのようにうねうねとうねっている。口から水圧を吐き出した。地面がえぐれている。

 勢いの増した水圧は鉄すら切断できるのだ。


 さらに周囲の霧にも異常が起きた。ガムチチの頭上に氷の塊が生まれる。それが彼等の頭上に落ちてきた。

 ガムチチは棍棒で氷の塊を打ち砕いた。

 だが今度は霧の槍が現れ、ガムチチたちに飛んでくる。地面に突き刺さった槍は水に戻った。

 それを近くにいたスライムたちが反応する。攻撃されたために迎撃準備に入ったようだ。


 スライムたちはガムチチたちに襲い掛かる。水色のスライムは突進してきた。まるで石をぶつけられたような衝撃が走る。

 緑色のスライムに触れると肌がひりひりしてきた。毒を含んでいるからだ。

 赤いスライムはギメチカのお腹に触れる。すると水着の腹部が溶けた。長く触れると危険のようである。


「あの霧の華をなんとかしないといけません!! どうしますか!!」


「あれはドスケベデスの心臓だ!! 下手に攻撃して彼女を殺してみろ!! 多分アマゾオは滅ぶぞ!!」


 今までアマゾオが平穏を保っていたのは、ドスケベデスがいたからだ。彼女がいなくなれば抑えられた魔獣たちは暴れるだろう。平和な村を容赦なく襲撃する可能性が高くなる。


「倒すんじゃない。ピンクスライムを追い出せばいいんだ!!」


 そう、倒す必要はない。ピンクスライムを霧の華から追い出せばいいのだ。ではどうすればいいのか。


「なんでピンクスライムが霧の華に憑りついたのかを考えるんじゃない。ピンクスライムが霧の華に憑りついた理由を考えればいい!!」


 ピンクスライムは霧の華の近くに潜んでいたという。なぜ潜んでいたのか、霧の華から栄養を得ていたからだ。その栄養が無くなったからピンクスライムはより栄養を得ようとしたのではないか?


「!! 霧の華が弱まっているんだ! なら俺が栄養を与えてやる!!」


 ガムチチが霧の華の茎に抱きついた。そして黄金魂の力を解放する。

 すると霧の華が金色に光りだした。ピンクスライムはたまらず花から出ていく。

 ギメチカはピンクスライムを壺に収めた。かたかたと音を立てるがおとなしくなる。


「ふぅ、助かりました。ありがとうございます」


 ドスケベデスが復活した。それにしても自分の心臓が弱まっていたことに気づかなかったのか。


「普段は身体を分散させているので気づきませんでした。ここに来て初めて異常に気付きましたね」


 恐らくピンクスライムが憑りついたのはここ最近だろう。ベータスはいつもピンクスライムを取るためにドスケベデスが協力する。

 ここ最近はベータスが留守にしていたので気づくのが遅れたのだ。


「ガムチチ様、お見事です。あなたの機転で我々は救われました」


 ギメチカが賞賛の言葉を述べた。これはバガニルの教えを守ったに過ぎない。常になんでと疑問を抱いて終わらせずに、発想を逆転させることを教えられたのだ。


「バガニル夫人の教えは厳しかったが、ゲディスと一緒だから耐えられたんだ」


「じゃあ、俺はどうなんだよ」


「お前は別だ。やっぱりお前はゲディスのそっくりさん。俺の肉便器だよ」


 ガムチチはそう言い切るとベータスは不快になった。

 ピンクスライムは切り落とされた余った肉という意味があるそうです。

 この話は思い付きで書きました。一か月決めた本数だけ書くと、アイディアが熟成されますね。

 もっともゴロスリ自身のピンクなので、彼女とピンクスライムは別という設定を作りました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 100話おめでとうございます。 ガムチチ、経験を積んで、より頼れるようになりましたね。
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