プロローグ ゲディス登場
新連載です。
ここはゴマウン帝国の遥か西方にあるサマドゾ領である。サマドゾ領はぐるりと岩山に囲まれており、東に関所が、南方にタコイメの港町以外に外部が入れる道はない。
さらにモンスターがうじゃうじゃいて、開発がほとんどされていない。サマドゾ辺境伯の住む町とタコイメくらいしかまともな町は存在しないのだ。
そのタコイメは死にかけた町だ。名物は鯛釣り船と、米押し達磨である。
ワメカザ海では丸々太った鯛が大漁に捕れる。さらにおいしい米が採れるのだ。米押し達磨とは米の守り神である。
この町は老人しかいなくなっていた。若者は華やかで賑やかな帝国の帝都に行ってしまった。
サマドゾの町も住みやすいのだが娯楽が少なく、モンスター対策の軍備に力を注いでいる。酒場や娼婦館は多いが、帝都と比べると華がなかった。それでもまともな職業を求める者は多いが、タコイメに来る者はいない。
なのでタコイメの町長は冒険者を集った。後継者のいない家を無償で貸し出すことにしたのだ。
ただし地元にある冒険者ギルドで一月の間、五つほどの依頼をこなすのが条件となっている。
そこに一人の少年がやってきた。名前はゲディス。美少年と呼んでも差し当たりない。
短く切り揃えた黒髪に、皮の鎧とロングソードを装備している。どれも使い込んだ代物だ。
顔つきは精悍で修羅場を潜り抜けてきた雰囲気があった。
階級は蕾級だ。冒険者ギルドでは一番下から種級、芽級、蕾級、花級、花びら級と分かれていた。
蕾級ということはそれなりに腕のある冒険者である。
花級や花びら級だと世界各地を転々としており、あまり田舎に居座らないことが多い。それに花級に昇進するには、花級や花びら級の推薦状が必要となり、世界では合わせて100人ほどいた。
彼はタコイメの冒険者ギルドに来ていた。そこで受付嬢と話をしている。
丸眼鏡に茶髪のおさげで、十代前半の少女だ。名前はオコボ。気さくに見えるがどこか頼りなさげである。
「以上がこの町に住める条件です。あくまで貸し出すのであって、あなたのものではありません。家に傷をつけたら弁償していただきます。食費や家具などはすべて自分持ちです。ただし一年間過ごして永住する意思があれば家を譲渡されます」
オコボの話を聞いてゲディスは納得した。彼は帝国のとある町から来たという。ギルドは冒険者がどこから来たのか詳しく詮索はしない。この町にできるだけ永住してくれればそれでいいのだ。
「で、ゲディスさんの住む家は先客がいます。こちらも冒険者ですね」
「そうですか。その人はどんな人ですか?」
「男性ですよ。名前はガムチチさんです。この人も町に来て日は浅いです。階級は同じく蕾級ですね」
オコボは説明した。彼女はゲディスががっかりすると思ったからだ。空き家は大量に余っているが、家は広すぎるので二人ほどでシェアしてもらっている。
男同士で住むのは気が引けるかもしれない。
だがゲディスは嬉しそうな表情を浮かべていた。
「そうなんですか!! それは素晴らしいですね!!」
なぜか満面の笑みを浮かべていた。
「……男の人が好きなのですか?」
「いえ、女性が苦手なだけです。男同士なら平気です!」
ゲディスは慌てて取り繕うが、オコボはどうも怪しいと疑っている。
そしてオコボはガムチチの容姿を知っていた。しばらく思考に耽る。
「……まったく問題なしですね!」
なぜかオコボは鼻息を荒くして興奮していた。
ゲディスは小首をかしげている。
その出会いが二人にとって運命的なものだとは知らずに……。
本日は正午と一七時に投稿します。