その頃のゴールドラッシュ
浮遊都市アルバスター。浮遊石と呼ばれる魔力結晶で構成された土地で数百年前に人間達が移住してから1つの街となっている。観光地としても有名な地で、昔は飛竜を使って移動したりしていたが、現在は転移魔法陣が設置されているため気軽に行くことも可能になっている。
そして、このアルバスターには大きな競技場、アルバスター・マジックファイトスタジアムがある。そこでプリズマ・カップ、シーズン33回目の大会が行われているのだ。プリズマ・カップには8ヶ月のシーズン中に計36回もの大会があり、その全ての大会での成績を基に最終的な順位が決まる。
更にもう1つ補足すると、プリズマ・カップの大会は奇数回と偶数回でそれぞれ大会ルールは異なっている。前者はチームの代表者1名が制限時間内で戦う勝ち抜き戦、後者はチーム全員で一斉に戦うトーナメント戦となっている。もう何十年もこのルールとなっており、大きな変化はない。今回の大会は33回目と奇数回なので勝ち抜き戦となっている。
今シーズンは35チーム出場しているため35人のバトルロワイヤルとなる。
開始早々、金色に白銀のラインが入り、100のゼッケンナンバーが大きく描かれたユニフォームを着ている選手が他の選手と交戦を始めた。
相手が先手必勝に炎の魔法を放つが、彼の腕は突然金属のように変化してその炎を完全に受け切ってしまう。その選手はお返しに相手の腹に言葉通り鉄拳を叩き込み1発でダウンさせた。もしもスタジアムに弱体化魔法が掛けられていなければ倒れた選手は内臓破裂で死んでいただろう。
早々に1人倒した選手、ブライアン・タンタルはフンッと鼻を鳴らすと次の選手を探しに歩き出した。その目はもはや狩る側に回っていた。彼はライアンを解雇したチーム、ゴールドラッシュがライアンの後任として新たに入れた新人選手だ。ちなみに、この大会の1つ前が終わった直後にライアンが解雇されたのでこの大会は実質タンタルのデビュー戦である。スポンサーは彼が使えるかどうかこの大会で確認しようと考えたのだ。
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《おおっと! ゼッケン100番、ゴールドラッシュのブライアン・タンタル選手次々と他の選手を圧倒していく! これで7人目だぞ!》
実況の声がスタジアムに響き渡り、観客達は大きな歓声を上げる。
それを見てスポンサー席にいるゴールドラッシュの会長ゼスト・フォッツォはほくそ笑んでいた。
ゴールドラッシュは今からおよそ20年程前に設立された大商会で数多くの種類のものを取り扱っている。1年前に若くして父親からゴールドラッシュの会長の座を譲り受けたフォッツォはこのチームをより強力で影響力のあるチームにしようと考えていた。魔導武闘は人々が熱狂するスポーツだ。商会をより強大にさせるのならこれを利用しない手はない。
そのためにはまず不要なものを排除する必要がある。それで手始めに行ったのがライアン・シルトの解雇だ。彼は結界魔法しか使えずまともな攻撃が1つも出来ない。事実、彼が奇数回の勝ち抜き戦に出たことは1度もないし、トーナメント戦でも攻撃をしたとこは見たことがない。なので、ゴールドラッシュの選手の中では1番印象が低く、人気も高くなかった。父が何故彼を雇ったのか理解出来ない。
だから彼を解雇し、代わりにジュニア・プリズマ・カップ等のいくつもの大会で華々しい活躍をしていて注目を集めていた有望な選手ブライアン・タンタルを引き入れることにしたのだ。これによりプリズマ・カップでの注目度はより上がるし、新たにファンも増える。
実際、今回の大会で多くの観客達はタンタルに夢中になっている。これは良い選択だった……とフォッツォはニヤリと口元を歪めた。
《時間終ーーー了ーーーー!! 今回の結果はこのようになりました!!》
その声と共にスタジアムの中央には巨大なスクリーンが現れた。記録水晶によるものだ。
そこには他の選手を倒すことで得たポイントの順に選手の名前とチーム名、ゼッケンナンバーが表示されている。
タンタルの名は1位の箇所にあった。その名前を見つけた観客達は大きな歓声を上げた。
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「……なるほど。噂通りのスーパールーキーだな」
ここはゴールドラッシュの社員寮の1室。水晶から映し出される今回の大会の映像を見てゴールドラッシュの選手の1人であるウディー・ハーヴィは呟いた。大会ではあるが、自分は出場するわけではないので自宅で大会を観戦することになっているのだ。
「これはシルト達にとって少し厳しくなるかもな…… まぁでも、あの人がいるなら大丈夫か」
ウディーはそう言ってニヤリと笑うと、部屋の奥に置いてあるユニフォームを見やった。
そのユニフォームはゴールドラッシュのチームカラーである金色ではなく赤色をしており、更にチーム名には金色の文字で「ブレイブホーク」と書かれていた。
こういう場合、追放した側がどんどん落ちぶれていく感じにするべきなんでしょうが、世の中そう甘くはありません。まぁ、後々ざまぁが待ってると思いますが。