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寂れた町 マーメイドスケイル

ライアン達が出発する1週間程前ーーーーー


ライアン達がいた央都エセンシャルから遥か遠く離れた場所に小さな港町があった。その町の名はマーメイドスケイル。かつてはプリズマ・カップのチーム「ブレイブホーク」の本拠地として名を知られており、多くの観光客が訪れていた。


しかし、今ではそのかつての賑やかな面影は完全に無くなり、静まり返っていた。殆どの店は閉店し、ブレイブホークが魔導武闘の表舞台から姿を消してからはチーム目当てで訪れる者もいなくなり、寂れた街になっていった。人魚の鱗(マーメイドスケイル)人魚の垢(マーメイドダート)へと落ちぶれてしまったのだ。現に自虐的にこの町をそう揶揄する者も少なからずいる。


港町ではあるので漁業等も行われてはいるのだが、それが町の収益になるのかは微妙な所だ。


その街に1人の魔法使いがいた。白髪がかった赤髪に緑の瞳、身体のあちこちには傷があり、その様はどこか歴戦の戦士を彷彿とさせる。彼の名はジェス・エタンセル。かつてはブレイブホークの1人としてプリズマ・カップで活躍した伝説的な選手だ。


そんな彼は今修理屋を開いている。炎魔法の使い手であり、元々手先が器用だったので鍋や道具の修理を行っている。町の皆からは修理屋をやることに最初驚かれたが、今ではよく修理を依頼されるようになった。彼が現役時代に使ってきた炎魔法は意外な形で役に立つことになったが、心の中ではどこか釈然としないやるせなさがあった。しかし、生活のためだ。仕方あるまい。


「お父さん、ご飯出来たよ」

「……ああ、分かった」

娘のリディアの声でジェスは作業の手を止める。彼は今娘のリディア・エタンセルと暮らしている。リディアの母……ジェスの妻はリディアを産んで数年後に産後の肥立ちが悪くてこの世を去った。それから彼は男手一つで娘を育ててきた。街の皆の協力も大きかったが。


リディアは父親譲りの赤髪をポニーテール状に結んでいる。今20歳だが、どこに嫁に出しても恥ずかしくない娘に育っている。


ジェスとリディアはモクモクと料理を食べる。その時、棚の上に置いてあったラジオ水晶の番組が音楽番組から魔導武闘の番組に変わった。


『こんにちは。プリズマ・カップ・ワイドのお時間です。プリズマ・カップも気付けばシーズン終盤。現在1位はゴールドラッシュ、2位は………』

ジェスは黙って立つとラジオ水晶に魔力を流して音声を消した。そして、小さく溜息を吐いた。


魔導武闘の世界から完全に身を引いたジェスにとって魔導武闘の話なんて聞きたくなかった。


そんな父の様子を見てリディアは少し寂しそうな表情を浮かべた。



ーーーーーーーーーー

ライアンとマイティを乗せた魔導絨毯は3日掛けて進み続けた。ある時は巨大な川を渡り、またある時は山岳地帯を超え、そのまたある時は田園地帯を通った。絨毯の中の異空間は広く、設備も充実していて食料や水も大量にあるので居心地は最高に良いのだが、どれだけ遠いのか見当もつかない。馬車とかで行ったらどれだけ掛かるのか……


そして、4日目の昼頃に海沿いにある小さな港町に到着した。ライアン達は絨毯から出ると大きく伸びをする。


「やっと着いたか……」

「てか魔導絨毯で4日も掛かるとか相当だぜ。転移魔法陣(テレポータル)とかないのかよ」


転移魔法陣とは魔法陣の上に乗ると同じ魔法陣が描かれた場所に自由に行き来出来るというものだ。3年くらい前に開発されて主要な都市では普及し始めていたはずだ。


「そんなものがこの町にあるわけないだろ。もう何年か前には地図上からも名前を消されてる町だからな…… 人が来なさすぎて」

マイティの文句にスパーキーは反論した。


スパーキーのその言葉にライアンは町の景色を見回すと言葉を失った。


ライアン達がやっと着いた目的地の町、マーメイドスケイルは古ぼけた建物が立ち並び、人の姿は殆ど見かけない小さな寂しい町だったからだ。


「……本当にここで合ってるのか、スパーキーさん。ここにエタンセルがいるとはとても思えないんだが」

ライアンが思わず問い詰めると、スパーキーは町の入り口の方にある大きな看板を指差す。


「本当さ。この看板にマーメイドスケイルって書いてあるだろ」

色褪せた看板には町の名前だけでなくかつてジェス・フレイムロード・エタンセルが所属していたチーム「ブレイブホーク」のイラストも描かれている。確かにチームの本拠地だったこの町なら彼がいる可能性は否定出来ない。


「あら? お客さん?」

声がした方を振り返ってみると、酒場から中年女性が出て来た。


「まぁ、一応そうだけど」

「お客さんよ! 皆! しかも2人も! 早く皆来て!」

「客?」

「今お客さんと言ったか!?」

女性の声で他の店から何人かの人が出て来てライアンとマイティはあっという間に取り囲まれてしまった。いきなりの出来事に戸惑っていると、人混みの中から1人の若い青髪の女性が現れた。


「こんにちは。私はエレナ。エレナ・ウォルターです。マーメイドスケイルにようこそ。ご用件は何でしょうか? 酒でもお土産でも色々と揃っていますよ」

ぐいぐい来るこの女性は多分俺達と同じくらいの歳でかなりの美人だ。隣のマイティは思わず見惚れてしまっている。ライアンはそんな彼に呆れの視線を向けつつも口を開く。


「えっと……俺達は人を探してて……」

「人? こんな所まで探しに来る奴なんているのかい?」

シワだらけの老人がぶっきらぼうに言った。


「ああ、なんでも彼らはエタンセルさんを探してるんだってさ」

スパーキーが答えた。


「あの……それでしたら、私が父の所に案内します」

赤髪の女性、リディアがオズオズと手を挙げる。


「あら、それならお願いするわね。リディア」

エレナがそう言う。こうしてライアンとマイティはリディアの案内のもと、ジェス・フレイムロード・エタンセルの所へ向かうことになった。ライアン、マイティ、リディアは軽く雑談しながら歩いていると、リディアが話しかけてきた。


「さっきはすみません。久々のお客さんだから皆はしゃいでしまって…… それで、えーーと……父には一体何の用で来たんですか?」

「ああ、オレ達はプリズマ・カップに出たいんだ。それで力を貸して欲しいんだよ」

マイティがこの町に来た理由を話すと不意にリディアの足が止まった。それを見たライアンが怪訝に思う。


「ん? どうかしたのか? リディアさん」

「うーーんと…… 遠い所からこの町にわざわざ来てくれたのは嬉しいですけど、それは難しいかもしれませんね……」

「? それはどういう……?」

「……まぁ、色々あるんです………」

ライアンの問いにリディアは意味深げにそう呟くと再び進み始めた。ライアンとマイティはそれに少し違和感を覚えるが、彼女に付いていくしかなかった。

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