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結界使いは決意する

ここから本編です。よろしくお願いします。

魔法は長い歴史の中で人間と共に歩んで来た。人々の生活をより快適にするために魔法はどんどん進化していった。攻撃魔法、身体強化魔法、付与魔法といった数々の魔法は今や人々とは切っても離せない関係にある。


そして、戦が失われて平和な世になって数十年が経ち、戦争用として使われてきた攻撃魔法は全く別の形で使われるようになっていった。


それは………魔導武闘。5人の魔法使いがチームとなって戦うスポーツだ。人々はそれに熱狂するようになっていく。また、チームにはそれぞれスポンサーが付いており、チーム名はそのスポンサーの名前となっている。


魔導武闘の大会の1つであるプリズマ・カップは長い歴史を持つ有名な大会だ。数多くのチームが優勝を狙い競い合っている。




「ゴールドラッシュ」はそのプリズマ・カップの有名チームの1つだ。俺ことライアン・シルトもこのチームの選手として在籍していた(・・・・)


過去形になっているのは………………昨日クビになってしまったばかりだからだ。3年前にこのチームに入って貢献してきたつもりだったのだが、クビになるのはあっという間だ。スポンサーのトップが代替わりしたせいもあるが、今のトップは俺をあっさりと切った。


クビになった理由は俺の使う魔法が原因だ。俺が使う魔法は結界魔法。防御に特化した魔法で攻撃は出来ない。別に魔導武闘においては特段珍しい魔法という訳ではない。使っている選手も少数ながら存在する。


だが、華やかさに欠ける。それが理由らしい。チームブレインもチームメイトも1人を除いて俺の解雇には賛成だった。しかも、ショックなことにその中には俺の彼女(今は元カノ)もいた。元カノは俺を捨てて新しい彼に乗り換えるそうだ。


そういうわけで俺は昨日付けでチームをクビになったのである。俺の抜けた穴は新しく入る新人で埋めるらしく、まだシーズン途中なために俺がずっと使ってきた100のゼッケンナンバーも新人に渡すそうだ。選手用の寮もクビになったことで追い出された。


これで俺は何もかもを失ったわけだ。職も住む所も彼女も…………


悔しいがもうどうすることも出来ない。俺は魔導武闘の選手になりたくて今まで頑張って来たのに…… やっと子供の頃からの夢でもあったプリズマ・カップの選手になれたっていうのにこんな終わり方はないだろ。クソッ! クソッ! クソッ!



ライアンは酒場で酒を飲んでいた。飲まずにはいられなかった。酒場の主人から声を掛けられる。


「おい、ライアン。もうそれくらいにしておけ」

「構うなよ。ちゃんと金は払えるからさ」

「そう言う問題じゃねえって。お前確か酒飲めなかったろ? まだ2杯目なのにもうベロベロじゃねえか」

「煩いな。飲まないとやってられないんだよ。こっちは3年もやってきたのにいきなりクビだぜ。しかもシーズン途中に」

「まぁ同情はするがな。だが、早く働き口を探さないと大変だぞ」

「………こんな俺を雇ってくれるとこなんてあるかよ」

「ここにいたか。シルト」


不意に声を掛けられてライアンは振り返ると、そこには1人の男が立っていた。大柄で茶髪の男性だ。そして、ライアンがよく知っている人物でもあった。


「ウディーか。何の用だよ?」

元チームメイトのウディー・ハーヴィだ。ライアンが睨むと彼は少し気まずそうに申し訳なさそうに笑った。



ウディー・ハーヴィ。ゴールドラッシュの花形選手の1人であり、植物を操る魔法の使い手だ。実力は高く、補助魔法を軽視している他の連中と違って思慮深く行動し、結界魔法しか使えないライアンのこともよく気にかけてくれていた。


ウディーはライアンの隣の席に座ると、主人にレモン酒を注文する。ウディーは出されたレモン酒を一口飲むと、開口一番に謝罪した。


「その……すまなかったな。俺は最後まで反対していたんだが、レグルスやラム、チームブレインのウェールズさんまで賛成されて押し切られちまったらな…… 本当に申し訳ない」

そう言ってウディーは頭を下げる。それを見てライアンはさっきまで荒んでいた心がスゥッと和らいだ気がした。


そうだ。よく考えたらこの人はずっと俺の解雇に反対していた。なのに、俺の解雇に対して罪悪感を持ってる……


ライアンは少し態度を改める。


「いや、ウディー……さん。あなたが頭を下げなくても大丈夫ですよ。別にあなたのせいじゃないですし。でも、実際クビになってから俺は一体どうしたらいいのか分からなくてなってしまって………」

「それなんだがな……」

ウディーはライアンの方を見る。いつになく真剣な表情なのでライアンも思わず真面目な顔を浮かべる。


「お前は魔導武闘を続けたい。これからもプリズマ・カップに出たいんだろ?」

「そりゃあもちろん……出たいが」

「なら1つ手はある。自分でチームを作ることだ」

「はぁ!? プリズマ・カップのチームには必ずスポンサーが必要なんだぞ! そんなこと一体どうやって……」

「ジェス・フレイムロード・エタンセル」

ウディーが呟いた名前にライアンは目を大きく見開いた。魔導武闘の選手なら彼の名を知らないはずがない。


「この名前を知ってるだろ?」

「知ってるも何もプリズマ・カップの伝説的な選手じゃないか。確かに彼ならスポンサーの伝手とかはあるかもしれないが…… でも確か彼は今から15年くらい前に姿を晦ましたって…… そんな彼が今どこにいるのかなんて分かるわけないだろ」

「分かるさ。……いや、正確には彼の友人なら知ってる」

「友人……だと?」

「スパーキーっていう元プリズマ・カップの選手がいてな。今は魔導絨毯タクシーの運転手をやってる。そいつに明日会わせてやるよ」

「それは有難いけど、でもどうしてそこまで……?」

ライアンは思わず問いかける。いくら元チームメイトだからってそこまでするのは怪しすぎる。すると、ウディーは少しだけ寂しそうな表情を浮かべて答えた。


「なに、唯助けたいだけさ…………を」

小声でよく聞き取りづらくボソリと呟いた。なんとなく自分に対して言っている訳ではないような感じがしたが、ひとまずそれは置いておくことにした。


「へえ。その話、面白そうじゃねえか。オレも乗らせてくれよ」

後ろから声を掛けられた。2人ともその声がした方を向くと、1人の青年がいた。銀髪に紅眼をした優男だ。だが、その表情には生意気そうな感じが見て取れる。どこか見覚えのある男だなぁとライアンは思っていると先にウディーが口を開いた。


「お前は確か……マイティ・アイスバーグ……だったか。スペードシックスの」

ウディーの言葉にマイティはニヤリと笑った。それを聞いてライアンも思い出した。


マイティ・アイスバーグ。スペードシックスというチームに所属していた氷魔法の使い手で数々の相手を倒して来た実力者だ。だが、あまりにも自分勝手な性格でチームブレインはおろかチームメイトの指示も聞かず好き勝手に動くために1ヶ月前にチームを解雇された問題児でもある。


「クビになったがオレもまだ暴れ足りないんだ。だけど他のスポンサーはどこもオレみたいな選手はいらないって雇ってくれなくてな。なぁ、折角だからオレをチームに入れてくれないか? 実力は確かだと思うぜ」


傲慢な言い方にウディーは顔を顰める。だが、ライアンは左手を顎に添えて熟考する。


新たにチームを作るのなら、1人でも強い選手が必要だ。スポンサー云々よりまずチームメンバーを揃えないとどうにもならない。チームを作って将来性があることが分かればスポンサーだって付くことも可能なんだし。いや、そもそもエタンセルに会えばスポンサーのコネも見つけられるはずだ。それなら……


「分かった。歓迎するよ」

「シルト!?」

「よっしゃ!」

思わず「正気か?」という顔を浮かべるウディーとガッツポーズを取るマイティ。


こうして結界使いライアン・シルトは新たなチームを作るためにチームメンバーを1人仲間に引き入れることに成功したのである。



ーーーーーーーーーー

翌日、ライアンとマイティはウディーの紹介でスパーキーに会うことになった。スパーキーという男は金髪のオールバックの中年男性で2人に対して気さくに接してくれている。そして、挨拶を済ませると2人は魔導絨毯に乗せてもらうことになった。


魔導絨毯というのはその名の通り、魔石の魔力を燃料として動く特殊な絨毯のことで絨毯に描かれている魔法陣の上に乗ると中に入ることが出来る。中は異空間となっており、快適に過ごすことが可能だ。


ライアンは魔導絨毯に乗る前にウディーと握手を交わす。


「良いチームを作れよ。次に会う時は敵同士だ。その時は容赦はしないぜ」

「ああ、望むところだ。あっと言わせてやるよ」


お互いそう言って不敵に笑うと、ライアンは魔導絨毯に乗り込む。マイティは既に乗り込んでいる。


魔導絨毯はライアンを乗せるとゆっくりと進み始めた。

魔導絨毯というのは所謂自動車みたいな感じです。

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