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夜にふたりで


 パチリ

 目を覚ましたら、後頭部の軟らかい感触とともに、目の前に絶世の美少女がいた。

 

 確か世界三大美女は、クレオパトラ、楊貴妃、あとひとりは自由枠らしいので、おれはこの彼女を推したい。


「あっ、起きた。よかった」

「伊誘波……」


 なんとあの伊誘波が、おれのことを膝枕して介抱していてくれたようだ。


「これは夢なのか? もしや天国? クレオパトラに楊貴妃さーん。パンチラ見せてくださーい」

「現実よ。夢から醒めなさい馬鹿」

「うぐぐ」

「まったく。妄想で鼻血を出し過ぎたせいで気絶するなんて最低の倒れ方したと思ったら、まだ懲りずにいて」


 ぐいーっと頬を引っ張られる。

 その痛みで、ようやく今の光景が現実だと認識できた。


 ここは両親の寝室。今では伊誘波と依緒が寝泊まりに使っている部屋だった。


「依緒は?」

「外で見回りよ。風紀委員長って、この時間帯はいつもそうなの。ここは結界が張ってあるから安心だって」


 さすが体力があるな。

 おれは部屋の外で監視があるけど、寝転がるか座ってればいいだけだし、依緒に比べると幾分か楽ではあった。


 またも知らなかった幼馴染の面に、驚くばかりだ。


 まあ驚くことといえば、正直、この状況が一番の驚きなのだが。


「どうしたの?」


 すぐ上から、伊誘波が顔を近づけながら口を開く。

 太ももの感触を合わせると、まさに極楽浄土であった。


「いいや。もう死んでもいいかなって」

「じゃあ死んじゃえ」


 おれに合わせて、いつもの口癖を言う伊誘波。

 その表情と言い方は、最初に同じ言葉を口にした時と違って、かなり柔らかいものだった。

すっ、と伊誘波の手がおれの頭に触れる。


 なにをするのかと思いきや、なんとそのままナデナデとおれを慰めるように動き出した。


「ごめんね。風紀委員長もあんたもこんなになるまで頑張ってるのに、本来は一番頑張らなきゃいけないわたしがなにもできないでいて」


 おれを労りながらも、彼女は自分を責める。


「元はといえば、こうなったのはわたしのせいなのにさ。それなのにひとりだけ普通の生活を送ってる。あんたに無理をさせて」

「気にするなよ。依緒が、伊誘波はあまり疲労させないほうがいいって言ったんだし」


 発生源の伊誘波の変化がどう魔物に影響を及ぼすか分からないため、できるだけ調子を悪くすることは避けたほうがいいということだ。


「それでも現に、あんたに倒れられてさ。自分さえよければいいって、ひどいよね」

「鼻血だよ鼻血、おまえらの風呂場の声からつい妄想をしての自業自得」

「だけど普段と同じ健康状態なら、それくらいじゃ倒れないだろうし……」


 変態的言動をしているおれを罵倒せずに、自責の念に駆られ続ける伊誘波。


 おれはそんな様子の彼女を見て、可笑しそうに吹き出した。


「ふっ」

「な、なによ」


 場違いな笑みに、思わず手を止める伊誘波。

 その間に、おれは立ち上がってベッドから離れた。


 扉近くまで来ると、彼女は後ろから声をかけてくる。


「も、もう平気なの?」

「ああ。充分休めたさ」

「そう……というかさっきなんで笑ったの? なにか、わたしにおかしいことでもあった?」


 最初に心配、その後に自分を揶揄されたことへの質問。

 おれはその順番に笑いをこらえながら、問いに答える。


「いや。おまえ意外に優しいんだなって」

「優しい? 誰がパンチラ好きの変態なんかに優しくするもんですか!」

「あはは。そうだな」


 調子を取り戻した伊誘波の様子を見ると、おれは部屋の外へ出る。


 バタン、と閉まるドア。


「なあ。伊誘波」


 少し静かになってから、扉越しにおれは声をかけた。


「なによ! 勝手に倒れて、勝手に出ていっちゃって! もうあんたなんか知らない!」

「……明日で、全てが終わる」

「はあ? それどういうこと?」


 扉の向こう側から質問責めをしてくる伊誘波。夏の短い夜が過ぎるのを待ちながら、おれはひとつひとつ返答をする。


 ああ。考えてみれば、再来週には一学期の終了式が行われ、もう夏休みが始まるのだ。


 今年の夏は、どんなことをしようか?

 日が差す頃には、そんな疑問が頭に浮かんだ。


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