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パンチラとは何か?


 それからは、のらりくらりと授業をこなし、無事に放課後まで時間を過ごしたおれだった。

 魔物も現れることなく、伊誘波も怪我ひとつなかった平和なお昼だった。


 現在、おれは第一写真部にいた。


 部員たちは部活動を励んでいるため、部室は譲って隣の物置で前多と一緒にいる。


「グレート! インテリ女教師がスーツで油断したこの姿は、グレートパイチラ!」

「下はしっかり防御してやがるのに、上のガードは甘くしやがって……」


 ギリッ、とつい歯ぎしりをしてしまう。

 前多は歓喜しながら、懐におれが差し出した写真をスッと収める。


「まあまあ。暑いんだし、そういう時もあるさ」

「上はいいよな。こういう公的な場じゃ、だいたい上着の着脱で体温調整するし」

「それなら下だって、寒い時でもスカートの娘が多くていいじゃないか。冬なんて厚着塗れでオッパイはほとんど隙がなくなるぜ」


 パンチラパイチラ談義をするおれたち。

 トレードや自慢の写真の見せ合いっこをしながら、前多はおれの腕に巻かれたワッペンを指す。


「しかしまさか、おまえが風紀委員会に入るなんてな」

「臨時の手伝いだよ。本来は敵でしかないおれを、正式に入れてくれるわけないだろ」


 おれと伊誘波は、ふたりして風紀委員会にしばらく所属することにした。


 自然に依緒と一緒にいるためで、伊誘波のほうは委員長補佐として仕事をしながら常に傍にいた。


 おれのほうは委員会メンバーから猛反発があったため、こうして別活動を取る形になっている。


「それでも現盗撮犯に取り締まられるなんてあったら、屈辱だろうな」

「女性の胸を無許可撮影した件について、ご同行願います」

「オレかよ⁉」


 預かった無線機で、仲間を呼ぶフリをするおれ、この学園内で唯一、生徒が遠距離会話できる手段であった。


 両手首を差し出しながら、前多はしくしくと泣く。


「せめて、取り締まりの担当は胸元が大きく開いた女性警官にしてください」

「カツ丼じゃなくていいのか」

「……けど、オレたちって変わってるよな。いまどきインターネットでいくらでも無修正で女の裸なんて見られるのに、わざわざパンツやら谷間ひとつで満足して」


 こうして逮捕されるリスクもあるのに、と付け足す前多。


 アップロードはともかく、閲覧や個人でのダウンロードだけならば罪にもならない。しかも今だと、子供のお小遣い程度でも正式に認められている大きなサイトに入会できたり商品を買えたりする。


 前多の言う通り、確かにパンチラを積極的に求めるなんてことは時代遅れかもしれなかった。


「やっぱり苦労してこそなのかな。困難な冒険をした末に、眠っているお宝を手に入れるような。結果よりも過程が大事で、インターネットの連中はそれが分かっていない」

「おれは、そうは思わないな」

「えっ?」


 自分なりに導きだした結論を否定されて、前多は固まる。


 性癖なんて人それぞれなため争いは不毛だが、こと今回に関してはなあなあにできない部分があった。


「楽に成果が得られるなら、それでいいじゃないか。むしろ、同じ結果を得るためにより単純により労力を少なくするように方法の改善を繰り返していくのが、苦労というものだろ」


 だからインターネットで性欲を満たす人物たちを、おれは否定しない。

 光速で海や山を越えて、国境や人種の違うパンツを見られるというのは偉大なことだ。


「もちろん、おれと前多は違う人間だから、おれの価値観がそっくりそのままおまえに当てはまるなんてことはない。それでも、これがおれの考えだ」

「そうだな。うん。エロは自由だものな。誰かが正しくて、誰かが悪というわけじゃない」

「盗撮は犯罪で駄目だけどね」

「でもさ、それならなんで、おまえはパンチラを撮るんだ?」

「――」


 金鎚で、ガツンと頭を思いっきり叩かれた気分だった。


 言われてみればそうだ。


 過程より結果を重視するという結論なら、おれは力でパンチラを狙う必要はないのだ。


 前多が揶揄した彼らと同じように、誰にも迷惑をかけずに屋内に籠ってひとりでインターネットの海を泳いでいるだけでいいのだ。


 ならばなぜ、おれはパンチラに拘る?


 変化によって現時点より高みへ到達していくことが、人間の目指すべき道だ。そのはずなのにおれは、結論を出した今でも、心の片隅でどういうパンチラを撮影するのか考えている自分がいる。


「……分からんな」


 答えは、一向に出ることはなかった。


「まあいいんじゃないかな? 悩める十代。青い春」

「考える人のポーズって女子がしたらチャンスになるかな?」


 問答は置いておいて、楽しい会話に戻ろうとするおれたち。


 ガタッ


「おっと」


 話している途中で、おれはパイプ椅子から崩れ落ちそうになった。


「かなり疲れてるみたいだな。下帯」

「ああ。正直言うと、結構ヤバそう」

「うちで仮眠とっていくか?」

「いやいい。そろそろ時間だ。帰らなきゃ」


 時計を見ると、帰宅しなければならない時間だった。


 おれは前多に別れを告げて、おぼつかない足取りで部室をあとにした。


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