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8.貴族の子女たち(前編)


一月、経った。

短くも感じたが一月である。

夏の日差しと温度が肌に(まと)わりつく。


何か特筆して言うことといえば、王宮図書館通いがほぼ日課となり、王宮での滞在時間がかなり増えたこと。

そして、毎度と言っても良い頻度で王子が居て、意見交換することもまた日常化してきたことだろうか。

本当に暇人かと思うくらいに、ルシアが図書館に行けば絶対に王子が居るのである。

あの図書館の一件があって以来、ずっとだ。


最近では図書館で本を何冊か借りて、テラスや小部屋でお茶をしながらというのが定番となりつつあった。

どうしてこうなったかは私が知りたい。


確かに王妃の目や立場上、険悪過ぎても支障が出るので良かったと言えば良かったと言っても良いのかもしれないけど、如何(いかん)せん王子は私の死亡フラグそのものなのだ。

必要以上に関わりたいか?

いや、関わりたくない。


しかし、こうなった以上は良くも悪くもビジネスライクなんていうのは遥か彼方である。

ならば、腹を括って付き合っていくしかないのでは。


「話が合うというのも事実なのよねぇ」


ルシアにとって、王子との会話は存外楽しいものだった。

くだらない雑学から専門的なものまで幅広く知ること自体が好きなルシアには、王子のように博識で雑学まで網羅している相手は話を脈絡なく振っても返してくれるので楽しいのである。


それもちゃんとルシアの知らないことや考察をくれる。

抜群に知的好奇心を(くすぐ)るのだ。


「え、もしかして私の方が懐かされてる?」


いやいや、私はそんな節操なしじゃないよ!?

性格があまり普通ではないとは思うけど。

かれこれ、そんな日々である。


さて、今日も今日とて王宮図書館へ。

もう門から図書館、王子宮内はばっちり道を覚えてしまった。

一月前には絶対に迷子になると思っていたのに慣れとは本当に凄いものである。


「あら、いらっしゃらないの」


「はい。今日まだ、第一王子殿下はいらっしゃっていませんよ」


図書館へ着くとすっかり顔馴染みになった司書の青年が王子の不在を教えてくれる。

珍しいこともあるもんだ。

会話が切り良く終わった時でさえ、次回にルシアが来た時には必ず居る男が。


あ、もしかして忙しい?

それとも王妃のイビりによる何かか。

そういえば個人に関する話は一度もしてないことにルシアは気付いた。


まぁ、いいや。

色々ありそうだし。

それより適当に本を選んでおこう。


いつもはルシアと王子で半分ずつ本を選ぶのだが、ルシアは居ない奴が悪い、とさっさと書架から本を抜き取り始めたのだった。

今日はテラスだと聞いているし、さっさと借りて移動しよう。

うん、後で文句を言われるかもしれないが、もう借りてきたから、で押し切ってしまえ。


そうして、ルシアは完全に自分本位な選び方をした本を抱えて図書館を出た。

が、それが悪かった。

今、ルシアは自分より少し年上くらいの少女たちに捕まっていた。

お察しかもしれないがイオンは例によって例の如く、別行動中でルシア一人である。


しまったなぁ、姉妹が居ないので初めて間近で見た同世代のリアルお嬢様凄い可愛いなんて思っている場合じゃなかった。

だって、キラキラフリフリ、貴族令嬢だからか顔もそれなり。

今まで接触することなんてなかったから近付いてきた時、私に用事とは思っていなかったのだ。

あー、そういえば最近、強い視線が飛んでくる時があるな、と感じたのはそれか。


「貴女、ちゃんと聞いているのっ!?」


おっと、思考を飛ばしていたのがバレた。

そもそも、こういう(たぐ)いは反論した方が面倒になるのだ。

まあ、だんまりもヒートアップさせてしまうけどね。

結局、どう転んでも面倒事は面倒事だという話だけど。


しかし、ヌルいな。

貴族だからか、口は達者だが、威力や言い回しは甘いし、幼い故に経験値が少ない分、狡猾ではない。

逆に貴族だから、強烈な言葉が飛ぶこともない。

その程度で前世でも強メンタルと言われた私は全く堪えない。

とはいえ、時間ロスは痛い。


あまり目を付けられて絡まれるようになっても面倒だ、穏便且つ今後もう関わりたくないと思わせる方法はないかな。

まぁ、既に王子の婚約者として目立っているだろうし、そんな矛盾した解決方法なんてないだろうけど。


「貴女、カリスト殿下の婚約者だからといって調子に乗り過ぎだわ!」


「そうよ、貴女の家が王妃様にとって都合が良かっただけで貴女は王子妃なんて一つも相応しくないのよ!」


「先王妃様にそっくりで多少美人だと褒められているのかもしれないけれど、良い気になり過ぎないことね!」


そう、彼女たちの用事はこれだった。

つまり、運良く王子の婚約者の立場を手に入れたルシアへの(ひが)みだ。

いくら立場が複雑とはいえ、第一王位継承権保持者なのは変わらず、加えて(るい)を見ない美貌(びぼう)を持つ王子。


そりゃあ、令嬢たちがこぞってノックアウトされていても可笑しくない。

ルシアにはちょっとは見直したものの生意気なガキ、主人公だから顔面偏差値がずば抜けて高いのは当然、という認識があってそこまで良くも悪くも王子の顔に反応を見せたことはなかった。


まぁ実際、彼女たちの言うことはごもっともで、王子の実母であるイザベル前王妃がご存命中は別の令嬢たちが婚約者候補になっていたはずだから、この中にも(とんび)に油揚げをさらわれた令嬢が居そうだ。

私としては今からでも代われるものなら代わって欲しい。

とんだ言いがかりである。


私はなりたくて鳶になった訳ではない。

いや、この場合、鳶は王妃で私は鳶の落した油揚げを拾った、拾わされたが近いかな。

そんなことを思いながら、ルシアは目の前の少女たちに嘆息したのだった。


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