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85.ワインレッドの髪と敵国兵士


「どうして、ここに...?」


「実は俺も騎士団長の異変に気付きまして。今朝、騎士団長がこの男の変装だと知り、追ってきたんですが......まあ、戦闘の音を聞き駆けつけました。」


私が聞きたかったのはどうやって目印のないこの場所に来れたのかだったのだけど、彼はこの森に居たことだと認識したのか、そんな返答を返してくる。

後半を濁したのは森の中で先程まで男を見失っていたからだろうか。


「そう、だったの。ありがとう、助かりましたわ。」


「いえ。」


しかし本当に、ノックスは個人で調査していたらしい。


「...うーん、そっちの騎士さんはそれなりの実力者だったから、これはちょっと分が悪いなぁ~。」


ノックスに気を取られていたルシアはそのちっとも焦りの含まない間延びた声に、はっとして向き直る。

男はおどけた表情で頭をかいていた。


「...まだ、抵抗するつもりかしら。」


「そうだね。まあ、君を人質にさえしてしまえば、まだ俺に勝ち目はあるかなぁ?」


ぞっとする男の声色にルシアは身構える。

視界の隅では既にクストディオが臨戦態勢を取っていた。


「ルシア様!」


「!!」


そこへ木々の隙間から何かが降ってきた。

私はその着地点を見て目を見開く。

それは行きにも情報を届ける為に(たか)を飛ばしてくれたニキティウスだった。

彼もまた、状況を瞬時に判断し、見事な着地姿勢から流れるように戦闘の構えを取った。


「...途中、森の中で捜索をしていたテレサさんたちと遭遇しまして。今、こちらに向かって来ています。」


ニキティウスが静かに告げた。

増援が来ればいくら男だって無事では済まないだろう。

これはもう決まった?


「...これで4対1よ。貴方は騎士たちが辿り着く前に彼らを倒せるかしら。」


ルシアの言葉に男は肩を鳴らしながら悩んだように(うな)った。

しかし、やはりその顔に焦りは見えない。

こんな状況でどうして余裕があるの...?


「あー、うん。無理だねぇ。ちぇ、あと少しだったのに。うん、今回は諦めるよぉ。」


そう言った男は笑って身を後方に引いた。

クストディオが攻撃に出るも弾かれてしまう。

確かに4対1で男が勝利することは難しいが、同時にたった四人で男を捕らえるのもまた、難しいことだとルシアは歯噛(はが)みする。


「ちょっと待って!」


「...?」


今にも木々に埋もれて逃走しそうだった男に私は声をかけた。

その声に反応して振り返った男に私は手に持っていた物を投げつける。


「!」


「それは、貴方の物でしょう。ナイフはさすがに持って来れなかったから自分で新調してちょうだい。」


ルシアの投擲(とうてき)にまたもやクストディオの攻撃を()けた男は難なくそれをキャッチする。

ルシアが投げたのはノックスから受け取り、クリストフォルスの部屋で中身を見てしまったあのペンダントだった。


「...ふふっ、ふははははっ。よく分かったねぇ、お嬢ちゃん。」


「まぐれよ。」


今までの気味の悪い笑みではなく、男は盛大に笑い声をあげる。

男の視線がルシアに向いたことで、クストディオはもう一撃を加えようと構え、ニキティウスも腰を一段落とした。

ルシアの前には男の視線を切るようにノックスが立ち塞がった。


「ふーん、ますます面白いなぁ。うん、とっても興味深い。ああ、(ひづめ)の音が聞こえてきたからほんとに退散するね。......じゃあ、またね。俺はスラングの毒蜘蛛(どくぐも)スピン。覚えといてねぇ、イストリアのお嬢ちゃん。」


屈託ない笑顔で男はそう言い放った後、目にも追えぬ速さでこの場を去った。

気配も完全に消えたことを確認したクストディオたちが警戒を()き、武器を納め始める。


「ルシア、どうしてあんなことを?」


不機嫌も(あらわ)にクストディオが距離を詰めてくる。

ルシアは自分の行動があまりに緊張感がなかったと再認識してばつが悪そうに目を逸らした。


「...ただ、大事そうな物だったから持ったままにはしたくなかったのよ。...それに、誰にだって失いたくない大事な物はあるわ。」


あのペンダントを取り戻しにまた現れられるのも嫌だったし、大事な物を失くしてしまうのは辛いと知っているから。

そんなルシアの心境に気付いたのか、不服そうな表情こそ変わらないながらもクストディオはそれ以上何も言わなかった。

そこへ、ルシアの耳にも分かるほどの蹄の音が響いてきて、何頭もの人を乗せた馬が駆け寄ってきた。

先頭の馬に騎乗していたのはテレサだ。


「令嬢!ご無事ですか!!」


「ええ、無事よ......でも、犯人は取り逃がしてしまったの。けれど、イストリアへ渡ることは阻止出来ましたわ。」


ルシアの言にテレサや騎士たち、ノックスも息を呑んだ。


「そうでしたか。...令嬢、ここではなんですから駐屯所の方で一部始終をお聞かせ願えますか。」


「ええ。クストディオ。」


「はい。」


テレサの提案に(うなず)き、ルシアはクストディオに来た時に乗ってきた馬を準備させる。

こうして、ルシアは犯人を取り逃がすという結果に終わってしまった今件の真相を駐屯所に戻るなり、クルストフォルスの部屋で説明することになったのだった。


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