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81.早朝の嘶き


「あら。」


「どうしたんだ、ルシア。」


ノックスに忠告されたのも関わらず、散歩を敢行していたルシアが立ち止まったことに後ろを歩いていたクストディオが(いぶか)しげに声をかける。


「いえ、あそこで話しているのはあの少年騎士と騎士団長だと思っただけよ。」


ルシアが指し示す方を見ると確かに少年騎士と騎士団長が何かを話しているようだった。

資料室では結局、騎士団長とあれ以上話すことなく部屋へと戻った。

暫くして、笑顔で礼をした少年が騎士団長から離れこちらへと歩いてくる。


「こんばんは。」


「あ、これは令嬢、こんばんは。こんなところでどうされたんですか?」


「散歩よ。」


ルシアの挨拶ににこにこして返事をする少年騎士。

彼の問いに私は同じく笑んで答える。


「それより貴方も。先程、騎士団長様とお話ししていたようだけれど。」


「ああ、はい。実は明朝に用事があるらしいのですが、手が足りないとのことで手伝って欲しいと頼まれたんです。」


「あら、そうなの。」


「はい!」


少年は蕾が開くかのような笑顔で(うなず)いた。

普段、騎士団長とは話す機会がないと言っていたから今回こうやって頼まれたことがとても嬉しいようだ。


「それは頑張って。今日はもう職務は終わりかしら。」


「ええ、後は部屋で休むだけです。」


「そう、では明日の為にもしっかり休まなければね。邪魔してごめんなさい。また明日。」


明朝なら朝も早く支度をする必要があるかもしれないし、何より職務外の時間はゆっくりしたいよね。

そう思ったルシアは少年にひらひらと手を振ってその場を離れた。

何事もなく散歩を終えたルシアは日が暮れた後も部屋で軽く書類整理をした後、就寝するのだった。



ーーーーー


「......ふぁ。」


寝苦しかったのか、ただふと目が冴えたのか。

ルシアは薄暗い中、目をゆっくりと開けた。

覚醒し切ってないルシアはぼぅー、と天井をベッドの中から見上げていた。


「...(のど)、渇いた。」


ふと、喉がひりついていることに気付いて億劫ながらも私は身体を起こした。

ベッドに腰掛けたまま、ベッド横に(そな)え付けられていたサイドテーブルに置かれていた水差しを取って、同じく置かれていたコップに水を注いだ。


まだ日が昇っていないということはまだまだ起きる時間じゃないじゃん。

薄暗いということは朝ではあるんだろうけど。

うん、これ飲んだら二度寝だ。


「......?」


コップに口をつけようとしたルシアは外から何かの音がしたのが聞こえたように思えて、思わず窓を見る。

しっかりと(かぎ)がかけられ閉まっている上にカーテンまで引かれているそこからは外の様子を見ることが出来ない。


どうしたものか、とルシアは思ったもののもう一度、音がルシアの耳に届いた。

今度はそれが(かす)かな音量ではあったが馬の(いなな)きだと判別出来たルシアは何だか気になってコップを片手にベッドを下りた。


「......あれは。」


カーテンをコップを持っていない方の手で押しやると丁度馬が一頭、駆けていくところだった。

あの方向はこの駐屯所の入り口の門がある。

外へ向かっているのだろうか。


「何処へ、行くつもりなのかしら。」


ぐい、と水を(あお)ったルシアは手を下ろしてベッドに戻る。

背後で落とされたカーテンがゆらゆら揺れる。


ルシアが見たのは一頭の馬。

それに騎乗していたのは赤紫色の髪色をした青年だった。

あれはノックスだ。


「今から追いかけるのは、無理ね。少なくとも日が昇ってからでないと。」


まだ騎士たちでさえ、寝静まっている時間だ。

まあ、当直の騎士やクストディオなどは起きているかもしれないけど。

もし、ルシアが寝間着のまま飛び出してクストディオを叩き起こし、ノックスの後を追ったとしても彼が何処へ向かったのか分からない。


何かが既に動き始めていなければ良いんだけど......。

とりあえず、起こっているにせよ、起こっていないにせよ起きていても無駄だ。

日が昇って、もう一度起きてからすぐに騎士団長の元へ行こう。


テレサの話を信じるならノックスは一人で調べていることがあって、今出ていったのもそのことに違いない。

それならばテレサには何も言っていないかもしれないけど、騎士団長には何処へ行くかくらいは言ってある可能性がある。

さすがに無断で駐屯所の外へ出掛けるとは思えないし。


憂いに顔を(しか)めながらもルシアは掛け布に潜ったのだった。

そして、二度目に目覚めたルシアがいつもよりずっと早い時間に支度をしてテレサを訪ねたところ、血相を変えた騎士が一人、騎士団長とノックスが行方を(くら)まし、あの少年騎士が刺された状態で見つかったと報告をしに駆け込んできたのだった。


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