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65.来訪者


第一王子宮から王宮の中心へとルシアたちは今、向かっていた。

それはこのイストリア王宮へ外からの来訪者があったからである。

どういった理由の結果かは分からないがその来訪者と会う為に呼び出されて、王子と共にルシアは廊下を歩いていた。


「...この時期のイストリアへ来るということは何かしら大事ではありそうだけれど。ねぇ、カリストは何故、招集されたか予想は付いている?」


「いや...常ならばこういった場合に俺は呼ばれない。王妃が俺の味方を増やしかねない状況を作る訳がないからな」


「そうよね。でも、今日は陛下直々の招集...面倒事、よね。間違いなく」


うわー、なんか嫌な予感しかしない。

呼び出し内容そのものが面倒臭そうなとてもする上に、王子が呼び出されたことで苛立っているであろう王妃も面倒臭い。

ねぇ、今年は暗殺未遂事件だけで既に騒々しかったからね?

普通は一生に一度あれば、それは随分と波乱ある人生だったね、と言われても可笑しくない事件の(たぐ)いを弱冠10歳にして二度も経験してるから!


そして、これからも色々と待ち受けている。

それなのにまだ何か作中になかった面倒事をここに詰め込む気か!?

今年は波乱の年だって既に思っていたが、年末にもう一個事件とはいかずとも何かしら起こりそうなのは本当に勘弁して欲しい。

...時既に遅し、な気がするのは見ない振りである。


――まだもう少し波乱は続きそうだ。

結局、見ない振り出来なかったルシアははぁ、と息を吐いたのだった。



ーーーーー


「カリスト・ガラニス並びにその妻ルシア・ガラニス、陛下の命に応じ参上つかまつりました」


「ああ、来たな。顔を上げろ」


王子が陛下へ(こうべ)を垂れるのに合わせて、王子の一歩下がった位置に立っていたルシアも頭を下げる。

そして、陛下の一言で顔を上げた。

ちらりと周囲を見渡せば、王妃はこの場に居ないようだ。

そのことにルシアは胸を撫で下ろした。


「今回、呼んだのはこの者の接待を任せようと思ってのことだ。使者として来たは良いが、イストリアも既に屋外へ出るのも難しい」


陛下が視線だけで指した先には一人の少年が居た。

年齢は王子と同じくらいである。

彼が使者なのか。

確かに陛下の言う通り、行きは何とかイストリアに入ることが出来たかもしれないが、今から帰還は厳しいだろう。


と、いうことは春まで第一王子宮で預かれってことだろうか?

なんで、わざわざ王子に?

接待を、という辺り、使者の彼はそれなりの身分を持つ者なのだろうが。

ルシアのその疑問は次に放たれた王子の言葉で分かることとなった。


「...7年ぶり、か?久しいな、クリス」


「やぁ、久しぶり。元気そうだね、カリスト」


夏の若草のような黄緑色の髪と瞳をした少年はふわりと笑う。

どうやら、王子と知己(ちき)らしい。

7年前というとルシアはまだ王子の婚約者にもなっていない頃だ。

つまり、この使者の少年はルシアよりも前から王子の知り合いだったということになる。


「お知り合いですか」


「ああ、昔、各国の王家に連ねる幼年期の子供を多く招いて(おこな)われた(もよお)しで知り合った。こうして、会うこと自体は久しぶりだが、連絡はその後も取り合っていたんだ」


ルシアが小声で隣に並び直した王子に尋ねれば、そう返ってきた。

その様子を見て一瞬、目を(またた)かせた少年はこちらへ近付いてきて優雅な仕草で礼をする。

彼の目線はばっちりルシアに向けて、(さだ)まっていた。


「クリストフォルス・アルクス。よろしくね、カリストのお嫁さん?」


「...!――ええ、よろしくお願い致します。わたくしはルシアと申します」


「うん、僕のことは気軽にクリスと呼んでね」


「...はい。では、そう呼ばせていただきますね、クリス様」


にこにこと、ころころと、笑うクリストフォルスにルシアも口角を上げる。

お嫁さんつったって10歳と14歳のそれも貴族のばりばり政略結婚夫婦に期待するようなことは何もないんだけども。


「では、頼んだぞ」


「はい、うけたまわりました」


名乗り合いが終えたのを見届けた陛下が締め(くく)るようにそう紡いだのを聞いて、王子は頭を下げる。

それが謁見の終わりと合図となってクリストフォルスも共に退出したのだった。


「......」


「――どうかしたの?」


「いいえ、なんでもありませんわ。クリス様、どうぞ第一王子宮ではゆるりとお過ごしくださいませ」


振り返って出てきた扉をじっと見ていたルシアにクリストフォルスが声をかけてくる。

ルシアはパッと彼へ振り向いて、王子宮の方へ促した。

ルシア自身もそれ以上、何かを言われる前に第一王子宮へと向けて、歩み始める。


ルシアは国王と対面することを少し苦手としていた。

何故なら、あの国王は最初に対面したその日から会う度にルシアをじっと見ていることがあるからだ。

王子以上に無表情で何を考えているか分からない国王。

その視線は確かにルシアを個として認識しているようで、普段は他人への興味が到底なさそうな人であるので余計に怖いのだ。

あっれー可笑しいなー、国王の前で何かやらかした覚えはないし、何なら初対面から既に目を付けられてるって、どういうことだ。


今のところ、何をしてくるでもなく、何も言わない国王に思惑が分からずにより苦手としているのだが、何をしてくるでもないからこそ、こちらからそれを問うことも出来ず、ルシアは据わりの悪い心地を抱えながらも無難にやり過ごしてきたのだった。

まぁ、藪蛇(やぶへび)になり兼ねないので今後もあちらが何かしてこない限りはずっとこのままだろう。

何とも、胃に痛い話である。


「あの、クリス様は隣国であるアルクスの...?」


「うん、アルクスの第二王子だよ」


背筋が薄ら寒くなってきたので気分を変える為にルシアはクリストフォルスに声をかけた。

クリストフォルス・アルクス。

先程の彼が名乗った時、ルシアはその家名であり、国名でもあるそれに驚いたのだ。

丁度、先日にアルクスの今季の凍害について話が出たばかりである。

とんだタイムリーだ。

さてはて、これは偶然か。

――それとも。


「他の誰でもなく、お前が来たということは凍害の件か」


「随分、耳が早いね。そうだよ、僕がイストリアに来たのはその件だ。カリスト、相談受けてくれるよね?」


そう言ったクリストフォルスの笑顔は先程までと変わらずにこにことしている。

しかし、その下にある迫力はまさに王族、彼が愛想の良いだけの少年ではないと告げていたのだった。


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