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656.洞窟から坑道へ


三人分の足音が響く。

躊躇(ためら)いなどない音、しかし無為に響かせようとする音ではない。

ただ真っ直ぐに颯爽と突き進むからこそ、立つその音。

薄暗い中、踏み出すのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうほどの視界の悪さでそれは決して、途切れない。


「......随分、歩くのね」


「え、と、そう、ですね...?もう随分、でも、あと少しすれば外にも出られるんじゃ」


ぽつり、とそう呟いたのは最後尾を歩くルシアであった。

本来は先頭を歩こうとしていたのだが、イオンによって止められた結果、それならばと全く危険がないとは限らない最後尾に落ち着いたのである。

何より、全部が見えるから。

代わりに先頭を行くのはイオンだ。

ミアに先頭を歩かせる訳にもいかないし、何よりイオンが遥かに夜目が効く為に、そして反対からとはいえ、他でもないこの道を通ってきたという意味でもそうなるのは自然な話であった。

勿論、背負われているニカノールのこともあるので警戒はより慎重に、ということで話を付けてある。


だから、イオンはルシアの声が聞こえても、意識を背後に向けはしなかった。

中央を歩くミアだけが振り返り、反応する。

ミアは視線を彷徨(さまよ)わせながらも、懸命にルシアの呟きへ受け答えようとしている。

きっと、イオンが無反応な上にルシアの声音が独り言と言うには通常の声と同じ声量であったからであろう。

だからきっと、ミアは自分しか受け答えられず、受け答えなければと思って、口を開いたのだ。

(もっと)も、沈黙の中に唐突な呟きを落とした当のルシアは誰からの返答も求めていなかたのだが。


いや、聞かせるつもりではあった呟きだった。

こうも考えられる、という意見を一つの考えとして、二人に浸透させておくのも何かしら活きるかもしれない、と片隅に少しだけ思ったから自分の内に留めるのではなく、音にして出したのだ。

しかし、それについての意見を求めるつもりもなければ、討論するつもりもなかった。

それよりも()く注意がある、と知っていたから。

ルシアとて、警戒することを止めている訳ではない。

最後尾の優位を最大限に活かして、薄暗くとも視野は広く。

それでいて、情報の共有は必要と判断したまで。


「いえ、まだ坑道にも出られていないもの。当分、かかるはずよ」


「あ、......」


しかし、返答をしてくれようとするミアに答えない(いわ)れはない。

ルシアは冷静に言葉を返す。

何より、ルシアが言い出した発端、そして伝えたかったことを思えば、その発言に乗るのも悪くはなかったのだ。

まさに渡りに船である。

ミアはルシアの尤もな返しにそうでした、とばかりにはっと目を丸くさせた。

指摘されて、自分の初歩的な思い違いをしていたことに気付いたのだろう。


そう、ルシアたちは(いま)だ洞窟内を歩いていたのだ。

外からあの空間までどちらがどの程度の割合なのかは知らないが、大雑把に分けて、この道は一本道である洞窟と枝分かれの多い坑道の二つの部分に分けることが出来る。

これは直接、最新の情報としてそれを越えてきたイオンにも事前に聞いておいた話なので確かである。

ルシアはその二つの占める割合を知らない。

知らないけれど、極端にどちらかが短いという話も聞いていない。

イオンからも、そしてニカノールからも。

つまりはそういうこと。

洞窟を抜けられていない今の時点で少なくとも、ルシアたちは外に出るまでまだ半分も来ていないに等しいということ。


薄暗さから歩調は当然、小さい。

けれど、出来る限り速やかに歩いているつもりである。

イオンが通常の速度で歩けているのも大きい。

何故なら、それに続くルシアたちはその背を見失わなければ良いのだから。

なのに、まだ半分。

これを、その昔に二人の子供が歩いた道程だと言うのか。

イオンも全力疾走してきたから多少の狂いはあるのだろうけれど、それでもその長さに言及はしなかったのに。

――もしかして、もう彼の魔法の術中に居るのか?

あれは、坑道の中だけではなかったのか。


「――大丈夫、もう抜けます」


まるで、ルシアに一瞬、(よぎ)った不安と疑念を見透かしたようにそう告げたのは変わらず、前を見つめて、ずんずんと進むイオンであった。

ルシアは思わず、視線をミアから逸らして、さらに前のイオンに合わせる。

当然ながら、その視線を感じ取っていないはずがないのにイオンは振り向かない。

自分の役割を、その重要性を理解している。

だから、ルシアもそれ以上を求めない。

求めないけれど、その言葉の意味を考える。


そうこうしているうちに答えの方が先にやってくる。

そう、周囲の壁の雰囲気が切り替わったのだ。

自然の削り出した天然の洞窟から人の手による人工的に整えられた――坑道へ。

ここが、正確であるかは別として、一つの区切りという意味での半分の道程、その境い目だった。

ルシアは目を凝らして、そう大きく何かが変わったという訳ではないのにがらりと印象を変えた壁面をじっと見つめる。


それはまさしく坑道と呼ぶべき壁。

ルシアもまた、山を登り辿って着いた先で覗き込んだ、その先で見たものと同じ見た目をしたその壁。

単純にも入り組んだ構造をしており、その上で帰らずの魔法などという厄介な代物まで兼ね(そな)えられたそんな場所だと示すもの。


「...ここが半分」


ルシアの思考したままを口に出したのはミアだった。

ほんの少し歩を緩めて、気合いを入れ直すかのように両方の手で(こぶし)を握る。

例えるなら、ここからが新しいステージと言ったところだろうか。


「ええ、もう半分。けれど、外に出たからと言って終わりじゃない。むしろ、始まり。そのまま、気は引き締めたままで居て」


「はい...!」


ルシアは(うなず)く。

実際、ここからが難関であることは言及せずにそれよりも先のことを言及する。

そこが何よりも大事であるから。

それよりも前の部分はどれだけ大変な目に遭おうと出来るか出来ないかではなく、やり遂げると決めているから。

素直に元気付けられたミアははきはきとした声で大きく首肯をしてみせた。

ルシアはそれに微笑み返す。


気は抜けない。

適度な硬さは必要。

けれど、何事も対応するには余裕も大事。

絶妙なバランスを心掛けろ、とミアにも己れにもルシアは言い聞かせる。

まだ半分。

けれども、ルシアたちは着実に王子たちの居る外へと着実に向かっていた。


短いですね。

それ以上に中身がないですね。

......ごめんなさい、切るとこなかったんだもの!!!!


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