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616.それがお決まり、ともいう展開の一つ


月光が(わず)かに差す中をその細々とした明かりを頼りに草木を()り分けながら進んでいく。

既にもう暗闇に目が慣れてしまっているとはいえ、あまりの暗さに正面すら見えているのか危うい。

その上で背丈ほどの草や生い茂る木々の隙間を抜けるのだから、視界はほとんど(さえぎ)られていると言って良い。

ただ前進するのでさえ、躊躇(ためら)いが出てしまうくらいだ。

だが、灯りを灯す訳にもいかない事情がある。


「......っ」


ガサガサ、となんて音すら立てぬほど周囲を警戒して進む。

全くの無音とはいかないが、ゆっくりと進めば、風や小動物の揺らす音程度にまでは落とすことが出来る。

ほとんど効かない視界だが、これだけ慎重を期していれば、良くも悪くもそのデバフは半減する。

闇夜に乗じることも思えば、これはそんなに悪くない。

ついつい勇み足になってしまうのもこれなら抑えることが出来る。

そして、抑えられた視力分、今度は聴覚が敏感になる。


「ミアさん、一旦休憩しましょうか」


「わ、私は大丈夫、です...!」


そんな音が重要視される中、だからこそでもある低速の行動の中でルシアはすぐ横から響く息継ぎの音に見えないながらも顔をそちらに向けて、そう提案した。

はぁはぁ、と息を絶え間なく、息を継いでいたミアはとんでもないことだと顔を跳ね上げて、息も荒々しく否定を返す。

そんな悠長なことを言っている場合ではない、とでも言うように。

そして、自分なんかの為に、とでも言うように。

足を引っ張るような真似は絶対に許されないと、無理を押すつもりであるようだった。


しかし、ルシアはそれに応じず足を止めてしまう。

指針たるルシアが足を止めてしまえば、必然的にミアも止まらざるを得なくなる。

思わず非難がましい視線をミアが向けてしまうも返ってくるのは暗がりでも分かるキン、と切れてしまう刃物のような揺らぎのない視線であった。


「いえ、休憩しましょう。自分を欺き通したところで無理が出るだけ。こちらに立ち向かえるだけの力がない以上は慎重を期した上で迅速に動くことが最善でしょうけれど、だからこそ全てを万全に保っておくべきだわ。それに」


ルシアは冷静に理論に則って、ミアを諭すように提案の利点を挙げていく。

それはミアだけを(おもんぱか)ってのことではない、とミアの心境までをすっかり見透かせての言葉でもあった。

しかし、ルシアの本心でもある。

何より、この辺りでルシア自身が情報の整理、周囲の索敵の間を取りたかったということもあった。

そして、もう一つ休憩の必要性を感じる事柄があった。


「...俺のことなら気にしないで、って言いたいところだけどね。――この辺りで一旦、身を潜めようか」


言い切ってからルシアは背後に視線を滑らせた。

そこに居るのはニカノールだった。

目が合ったニカノールは緩く自嘲するような笑みを浮かべた後、言葉を紡ぐ。

潜められた声は後半においては真剣そのものでその藤の瞳を真っ直ぐ冷静だった。

いつも通りのニカノールである。

ほんの少し、動きが緩慢で暗がりでも分かる白い顔を除けば。


そう、ルシアはニカノールのことも(かんが)みて、その提案をしたのであった。

我慢強いのか、処置の仕方か、それとも大本命のセルゲイの飲ませた薬に痛み止めの効能があったのか、ニカノールはあれだけの怪我を負っていたのにも関わらず、それが止血しただけで大した治療も出来ていないのにも関わらず、ニカノールは本当によく動けていた。

しかし、それもまた無理をしていることだと理解しているルシアはたとえ、本人が嫌がろうとも休ませる時には休ませると決めていたのである。


幸い、敵がくる様子もない。

いつ来るとも知れないなら、今が絶好の休憩チャンスにも違いなかった。

良くも悪くもただのお人好しだけではなく、冷静に敵や味方の状態を把握した上での提案なのである。

そういうところもルシアらしい。


ニカノールはほんの少し、不満気な顔を浮かべたが、ミアの様子を見てもそうした方が良いと思ったのだろう、何を言ってもルシアが押し切るというのも読んでいたのかもしれない、素直にその提案に乗った。

ミアもハッとニカノールに振り返って、今度こそ、素直に身を潜めやすい場所を探して誘導するニカノールに続く。

どちらも相手の状態を慮っての行動だ。

これも含めて、ルシアの思惑通りであった。



ーーーーー

ルシアたちは今、深山の下方、中腹との境目辺りに居た。

それもこれも敵から逃げた結果であり、他へ行く選択肢があまり有効とは思えなかったからである。

まぁ、だからといってこの選択肢が有効であるという訳でもないのだが、何だか勘がどうせ選ぶならこれだとルシアに(ささや)いたのである。

効率主義の現実主義の気もあるルシアはそれはそれとして、自分の勘を割と信じていた。


こういった事が動く場面で全てが一気に進み、集束していくのもルシアの経験から知るところ。

まるで、クライマックスに進んでいるように、最後には全てがそこに集まってしまうものなのだ。

それが偶然か、それとも必然か。

分からないなりに今、ルシアは目指すならこの山だと妙な確信を持っていた。

王子たちもきっと、ここにやって来るだろうと。

それが信用に足るかも分からないけれど。

王子たちに何らかのヒントを残してきた訳でもないけれど。

何故か、そんな風に思うのだ。


木々の隙間、大きな根のせいだろうか、少し崩れた地面が丁度、洞のようになっていて、身を潜めるには最適だった。

ルシアはニカノールにちょいちょいと(こまね)きされて、そこに腰を下ろし、身を落ち着ける。

ほう、と息を吐いたのはルシアとて疲労がない訳ではないからだ。


しかし、全てを休ませているほどの状況ではない。

全てを万全に、その本心に嘘はない。

ないが、現状を常に把握するように頭をフル回転させるのも万全に、ということだと詭弁を募っておこう。

勿論、その分、身体は十全に休むことに全力を使う。


王子たちはイオンやノックス、女騎士たちは。

クストディオは異変に気付いただろうか。

そもそも、気付けるほどの近場に居るだろうか。

彼らが合流していること、イオンだけが単独であることを知らないルシアは知っている範囲で彼らを思う。


ルシアの預かり知らぬところ。

王子たちは丁度、この山の麓に辿り着いたところであった。

敵との交戦は一度。

ただ、彼らの敵になるほどの者が居る訳もない。

しかし、ここがあの深山であり、実はルシアたちが前回の目印を付けた道から外れてしまっていることから、合流にはまだ遠い。

ルシアたちもまた、接敵しかけたのである。

その結果の苦渋の選択だった。


イオンに至っては丁度、セルゲイの店を出たところである。

ただ、イオンの身体能力を思えば、深山に着くまではそうかからないだろう。

これも偶然か、それとも必然か。

ルシアの感じ取った通りに全員がここに集まり始めていたのであった。


遅れてしまい、申し訳ございません(土下座)

間に合わんかった(汗)

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