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609.またもう一つ、彼らも動き(後編)

※引き続き、カリストの視点となります。



「――と、言う訳なのでその後、どうなったかは俺も把握していません」


バタバタ、と直前までのそれと比べるまでもなく駆け足そのものの速さでカリストたちは進んでいく。

周囲の景色はパラパラと(めく)られる絵本のように颯爽と脇を滑っていき、注視していない壁面ははて、どのような店があったのか、思い出せないし、そもそも見ていない。

それほどの速さで、早足ではなく、疾走で。

日が暮れてしまっていることもあるのだろう、一層、静けさが増す中で騒音に違いない靴音(くつおと)を複数響かせて。

カリストたちは落ちている敵だけを道標に寂しい街外れの道を駆け抜けていた。


「そうか、よく話してくれた」


しかして、その中心。

騒音それそのものを立てている人物たちはそれだけ大きな音としてそれを耳にしているはずなのに、然も当然の顔をして、淡々と報告という名の会話を繰り広げていた。

決して、大きな声ではなく、今にも靴音に掻き消されてしまいそうな通常通りの声量だというのにこれは如何(いか)に。

ルシアが居れば、カクテルパーティー効果だと内心で呟いていたことだろう。


まぁ、それだけでなくとも報告慣れしたノックスの声が声量に関わりなく、通る声であることもカリストたちが報告され慣れしていることから聞き取る集中力があったこともこれらが成立している理由であるだろうが。

元より、聞かれたくない情報を敢えて、雑音の中でお互いが聞き取れる範囲の声量で報告し合うこともあるのだ、このくらい朝飯前だったという話。


カリストは走りながらもノックスの話を事情を報告を聞いた。

ノックスはそれは丁寧に無駄のない報告をした。

解りやすいそれは理解に労力を要しない為にとても楽だ。

いくら、カリストが一を聞いて十を理解出来る頭脳を持っていたとしても、疲労はどうしても貯まる為に温存出来るならば、それに越したことはない。

何よりこの後、そこそこ頭を痛めるような事態が待ち受けていそうな予感というより、確信が強くある為に。


カリストは報告を締め括ったのだろうノックスの言葉を聞いて、こちらも淡々とした声音で(ねぎら)いを篭めた返事を返した。

視線だけは正面、そして道標に釘付けにして、箇条書きにほど近い入れられたばかりの情報を繋ぎ、整えていく。

そして、考えるのは現在進行形で既に遂行し始めている今後の行動についての作戦である。

いや、作戦というほどのものでもない。

方針、と言うべきか。


ただ大まかに以降の動きの方向性を定めておけば、という程度のものだ。

どうせ、事態は急変し、思った通りには進まないから対応は臨機応変になるのだ。

だから、今更な話。

とは言っても、本当に何も考えなしではその臨機応変にも難しいから最初に規定路線を作っておく。

その為に今、この頭を思考回路を回転させるのである。


兎も角、カリストは現状を凄まじい速さで把握していった。

そもそもの前提部分に関しては一足早く、別行動を取っていたクストディオでも説明が出来た為にノックスと会うまでにクストディオが話せる範囲と判断したものはその道中で聞いていた。

その時はただ、ルシアの近況報告で見られない部分をどのように過ごしているのか、概要だけでも関わりのありそうな情報があれば、共有することも視野に入れて、とほんの些細なつもりでの話だったのだが、まさかこうしてすぐに別用途で活用されることになるとはいくら、カリストと言えど想像していなかった。

残念ながら、今までにも同じような経験が幾度かあったりする。

主に、というか、十中八九、ルシアの関係で。


とはいえ、クストディオやノックスの話だけでは全てを把握するのは難しい。

クストディオは事態の急変に少しだけ開示制限の柵を低くしてくれたが、そのほとんどが今の状況に直接関わるという情報ではなかったのだろう、クストディオからカリストの手元に来た情報は()して、増えていない。

反対にノックスは新しい情報を幾つか齎してくれたが、それも敵の襲撃に足止め役としてルシアたちと別れるまでの話だ。

その後のことはルシアたちは勿論、同様に足止め役として留まり、対峙する敵を手分けをし、結果、別行動となっているイオンのこともノックスの把握外とのこと。


「イオンの方は大丈夫だろう。そのくらいでどうにかなる奴じゃない。――問題はルシアと」


「ブエンディア令嬢ですね」


斜め後ろで同様に駆けていたピオが言葉尻を取って告げたその名前にカリストはああ、と鷹揚に(うなず)いた。

イオンの方は大丈夫、だというのも彼がどれだけの技量を持ち、その上で上手く立ち回ることが出来るか、カリストは知っているからである。

何せ、カリストにとってもイオンとは付き合いが長い。

彼の従者はそれこそ、カリストが人員不足に駆り出す以外はルシアの頼みで他所に行っている場合を除き、大体の時間をルシアの隣で過ごしているのだから。

カリストがルシアと夜の寝室を共にしていなければ、圧倒的な差でルシアと一番同じ時間を有していると言っても良いくらいには彼女の傍に居たので。

必然的に幼少期からの付き合いとなる。


それ故に、という訳でもないが、カリストはそしてその他の身内とも呼ぶべき者たちはそうお互いを心配しない。

あまりにもな事であれば、例外だし、ルシアに関しては常日頃から過保護なのは知っての通り。

何もあれはカリストの指示だけのことではないので。

カリストが筆頭で、彼らの主であってそう指示を出す立場にあるからそれを有効活用しているだけで己れの側近たちも個々でルシアのことを構っていたりするのである。

もしかしたら、ルシアはそれをいまいち理解していないかもしれないが。


さて、そんなイオンとルシア一行。

一人と四人だが、この場合、数だけでは推し(はか)れない。

イオンの方は力量差からもそろそろ片付け終えていても可笑しくないということもあれば、やはり懸念が集中するのはルシアの方、である。

しかも、ルシアの方にはブエンディア家の令嬢まで居るというのだから、これはもう比較のしようもない。

(はな)から天秤は(かたむ)いたまま微動だにしない。


ルシアはあれでも、こうした時の悪運は強いし、こちらとしてはそんな慣れ方はして欲しくないのだが、突発的な緊急事態には慣れて少ない手札で最善を選ぶだけの冷静な動きが出来る。

尤も、最善を知った上で他を選ぶ可能性も無きにしも(あら)ずなのが、何よりもの頭痛の種なのだが。

当の本人が直すつもりもないようなのでより頭を抱える事象である。

そろそろ、無理やり言い聞かせてでも説得せねばと思う今日。

とはいえ、今まで何もしてこなかった訳もなく、その全てがなしの(つぶて)で終わっているのだけれど。


さて、そんなルシアであろうと周囲に歯止め役、そうでなくとも多少の制御を促せる人材が居れば、緩和されるのだが、今回、ルシアと行動を共にしているのがルシア以上に非力で度胸のない、というよりは世間一般に生粋の令嬢らしいブエンディア家の令嬢という訳だ。

いくら、彼の家の護衛とニカノールが付いているとはいえ、女騎士には直接、会っていない上にニカノールは本業は鍛冶師と、カリストたちにとってそれはあまり信用材料になり得なかった。

つまりは、ルシアの無茶が発動する可能性が高いと踏んでいるのである。

何せ、前科がありまくりなので、あの少女は。


「――どうせ、無茶をするだろう。ルシアは言い聞かせてもあの悪癖を直さないからな。なら、俺がすべきは無茶をする前に手を貸すことだろう」


止めても止まらないならば、せめて傍で手の届く範囲で。

固く吐いた言葉はそのまま固い意志だ。

カリストがずっと昔から決めていることでもある。

解っていたのか、同じ気持ちなのか、各々の方法で同意を示す追従する者たちと共にカリストはルシアたちが向かっただろうと思った場所へ。

惑わしの小道へと辿り着いたのであった。


もう少し、こちらの視点で。


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