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527.少女の会話、道すがら(後編)


「装飾品でしょうか、それとも夜会用のドレスでしょうか、確かにここなら職人の国と呼ばれているだけあって、とても素晴らしいものが手に入りますものね。私も装飾品とドレス、それから刺繍(ししゅう)の為の糸と――あ、すみません...!私一人でペラペラと」


「そんなことないわ、気にしないで」


ルシアの説明を聞いた、ミアが気分が高揚した様子で言葉を重ねる。

あれもこれもと例を挙げるところは無邪気な子供のそれや妙齢になるか、ならないかといった年頃の少女のそれによく似通っている。

ただ、(まく)し立てていたことにほとんど言い切ってから気付いたらしい、何度目かの恥じらい顔で繰り出される謝罪の言葉にルシアは苦笑して、手をひらひらと横に振る。


「――まぁ、ええ、貴女の挙げたそれらもここに来た理由の一つね」


少し間を置いて、ミアの落ち着いた様子を見届けたルシアは静かな声でそれだけを言った。

ミアの挙げた物も街の散策中にそれはもう、たくさん買ったというか、王子によって買われたので間違ってはいない。

ただ本当は王子の剣がメイン――後は王妃から逃れる為というだけのこと。

そして、それをミアに言う必要は、ない。


ミアの護衛の女騎士は多少、その辺の事情を耳にしたことのあるのだろう。

目があった瞬間、困ったように眉を下げて、頭を下げる様子にルシアはミアが気付かぬうちに元に戻るようにと精一杯、尽力して慈愛の笑みを向けたのだった。



ーーーーー


「まぁ、その紅茶をお召しになったことが?とても素晴らしい香りで有名ですけれど、お味もそれは素晴らしいのだとか」


「ええ、そうね。好みにはよると思うけれど、最上と呼ばれるだけはあると思うわ」


一つ、そしてもう一つの通りを越えて、まだミアの言う店は見当たらない。

あと一つの通りを探しても見当たらなければ、地図上での検討に戻った方が良いだろう。

そんなことを頭の中で計算しながら、ルシアが相手をしていたのはミアである。

ミアにもちゃんと周囲を見てもらっているが、ルシアはそれとは別に繰り広げられる他愛(たわい)ない会話の相手していた。


別にそれが苦痛という訳ではない。

ミアは良い子である。

しかし、生粋の貴族令嬢でもある。

そして、ルシアはどうか?

ルシアとしてはあまり自ら(うなず)きたくはないものの、まぁ、そういうことである。


さすがに令嬢らしい中身のないようであるような、そんな話をする機会は有り(がた)いことにも幾らでもあるので苦労はしない。

けれども、ルシアはどちらかというとそんな会話より王子との小難しいと称される会話をする方がずっと気楽なのは事実だった。

また、いつものその言葉には大体において、含まれる裏も毒もミアのそれはないのだからルシアとしては深読みの必要がないと解っていても、考えてしまい、否定するということをほぼ無意識に繰り返しては無駄な疲労することとなってしまったのだ。

結果、見た目には綺麗な笑みでにこやかに(よそお)いながらもルシアは内心、たじたじであったのだった。


「ルシアお嬢さん、ミアちゃん。次の通りで最後にしよう。そこでなかったら、もう一度、最初から練り直そう」


「あ、お任せしてしまって、申し訳ありません!私、役に立てずに...」


「あー、良いよ。良いよ。いきなり、行き着くことの方が珍しいでしょ」


「ええ、そうよ。落ち込まないで、駄目であるのなら次の手を打てばよろしいの」


一つの通りを端から端へ歩き終えたところで先頭に居たニカノールが振り返り、ルシアたちに声をかけてきた。

タイミングとしては最適だろうその提案に何を言うまでもなく、頷いたルシアとは違って、周囲を見てはいると言っても会話に気もそぞろではなかったとは言い切れないミアはしゅんと眉を下げて、謝罪を口にする。


それに対して、ニカノールは全く気にしない様子で両手を横に大振りに振って、ミアに声をかける。

ニカノールはルシアたちと行き詰まりの数日間を共に過ごしているのでそう簡単にいくことばかりではないことを身を持って知っているからか、寛容な言葉であった。

実際、気を抜いても良いとは言わないが、ルシアとしてもいちいち落ち込んでは居られないというのが本音のところ。


何故なら、前に進まないからだ。

そのくらいなら、後で反省も後悔もすればよろしい、と次に着手する。

この辺りは元々、鍛冶師見習いであるニカノールにも素地があったのだろう。

彼はそれは早い段階でそれを割り切ったのであった。


「次、...次ですね、はい。頑張ります!」


「ええ、休憩するのにも丁度良い頃合いだわ。次の通りで見当たらなければ、近くの...もう少し中央の方へ行った方があるかしら?場所の特定の話し合いも兼ねて、何処かで休憩しましょう」


元来、前向きな性分なのだろう善良な少女は効率主義者の言葉をまるで真っ直ぐなものとして見、そして目を輝かせてこくこくと何度も首を縦に振ってはぎゅっと気合いを篭めるかの如く、両の(てのひら)を握り込んだ。

(もっと)も、そこに篭められている力はきっと、そう強くない。


ともあれ、ルシアたちは次の通りへと移動した。

時刻はミアの宿を出発してから半刻ほどが経過していた。

ルシアはすっと最初にその通りの全体を見渡した。

先程まで居た通りと別段、違いはない。

()いて言うなら、各家々の表情が多少、違うだけ。

閑散として人がほとんど見当たらないのは一緒。


聞き込みも出来やしないこの状況は大分前からでどうやら、この辺りの住人は引き籠る傾向にあると言ったのはニカノールであった。

何でも裏通りより出歩く人が極端に少ないらしい。

闇市とまで言わないが如何(いか)にもそれっぽい裏通りと違って、こちらは(さび)れて誰も住まなくなったゴーストタウンの一角といったところ。

まぁ、全く人の気配がしない訳でもなく、荒れ切っている訳でもないのでイメージ的なものではあるけれど。


「あ......!!」


ルシアがそうして通りを見た時、同じように見渡していたミアが横で叫ぶように声を上げた。

自然と視線が集中する。

今度はその視線にも気付かないほど興奮しているのか、(ほお)を高揚させたミアがぱっとルシアに目を合わせて。


「ここです!この通りです、間違いありません...!確かにこの通りでしたわ!」


ミアはルシアと他愛ない会話をしていた時よりもずっと捲し立てて、そう告げたのであった。

既に作戦の練り直しまでを念頭に入れていたルシアやニカノールにはあまりにも早い特定であったのだった。


またまた遅くなり、本当に申し訳ございません。

2時連続3回ってやばいね。

筆が乗らねぇんだわ。


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