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519.探し物の続きと


(しらみ)潰し、その言葉通りに街を歩くとなると一つの通りを抜けるにも相当な時間がかかる。

あからさまにないと判断されるところも万が一、見逃していたということになって、二周目に突入するのは徒労が過ぎるのでルシアたちはその相当な時間をかけながら、一件、一件、しっかりと店主や店員、時には客や道行く人にも声をかけて、本を在りかを探っていたのだった。


その上で一応、保険とばかりに訪ねた店のチェックも行っているので抜かりはない。

まぁ、これもこれであっさりと見つかった時には大変、どっと疲労感に襲われるだろうが、今は確実にいく方を選んだ。


「あー、まぁ、すぐに見つかるくらいなら今までの間に片手間でも見つかってますよね、そりゃ」


「ニカノールが言うにはセルゲイ氏の鍛冶屋にもなかったらしいですし、...」


そうして、数歩歩いて立ち止まり、話を聞いて、また数歩、というのを繰り返して、十数回目か。

さすがにそろそろ一度は休憩を、と主にルシアの為という名目でルシアたちは聞き込みとは別に木陰となっている建物の脇で足を休めていた。

それもこれも王子のお達しの一つである。

他にも似たようなレベルでのものがごろごろとしているのは最早、お察しである。

既に遠い目をするところも超えて、誰も話題にすらしないで当たり前のように行動の一部としていた。


そんな休憩中の一言から始まったのはやはり、目の前にあるその事柄であり、現状であり、愚痴めいた何かであり。

最初に盛大なぼやきを落としたのは案の定、易々とはいかない状況の停滞具合に辟易とした顔を見せるイオンである。

そして、便乗するように彼らの気を一番、重くさせている既に仲間内では周知の事実をノックスが口にした。

何たって、有力筋だったところが駄目だったのである。

気が重い、と思ってしまうのは前にも感じた通りそれだけのことだから。


「他で、あるとしたら営利を目的としていない変わったものばかり扱っている書店か雑貨屋......ああ、それなりに長くある普通の家の方があったりして」


この国では一番、多い形であろう店舗併設の家でも公共施設にあたる建物でも歴史ある身分高い屋敷でもなく、本当にただ土着型で昔から居ただけの本当に一般の家庭とか、案外、そんなところにありそうじゃない?とルシアが続ければ、何処からともなく、確かに、という返答が返ってきた。

それはそれでとんでもなく、手掛かりが掴みにくい上に面倒なんだけども。


ああ、本当に厄介この上ない。

ルシアは既に今までの危険度最高峰を突っ走るがとんとん拍子に進んだ面倒事の数々と遅々として進まない今とどちらがマシか、と勘定し始めている。

何なら、なまじ進まないが故に危険度が測れてもいない現状の方が薄々、嫌な予感がしているくらいまである。


「でもま、探すほかないでしょうねー」


「ええ」


難易度高そうですねー、(うそぶ)くように言うイオンにルシアはため息を吐くように(うなず)いた。

本当に、ルシアは何度目かも分からないそんな言葉を音には出さずに吐き出した。

ああ、本当にもう少し覚えていたら。

それが例え、既にかけ離れていたとしても少なくとも手掛かりの一つくらいは。


「...ふふ、――」


そんなこと、それこそこのスターリの街に着くよりも前に何度も挑戦して今の状態なのだから、望みが薄いということは解っている癖に。

それでも捨てられないのか、一縷(いちる)の願望は。

そうやって、ルシアは巡り行く己れの思考を自嘲した。


最古まで(さかのぼ)れば、最初に本編を生き抜くと最初のノートを開いた時。

直近でそれだけに意識して集中的にスカラーでの事柄を思い出そうとした最初はタクリードでのことが終わって、帰国までの間の余暇。

それで、これなのである。

もう、割り切ってしまって、目の前のことに全力を(そそ)いだ方が良い。

ルシアとて分かっているのだ、そんなこと。

それでも、それでも頭の隅で考えてしまうのは。


こう思っている時点で、そもそも対策と称して前世でのその知識を活用している時点で、それが必ずしもルシアの言う現実と完全に乖離したものであると無意識下では認識していない、そんな矛盾に当人は気付いていない。

そもそもが、異質なのだと心からは。


「――もう、充分、休憩したわよね?じゃあ、再開しましょうか」


「一番、体力がないのも逐一の休憩を課せられてるのもお嬢なので、お嬢が良いなら良いですけどね、俺たちは」


「本当、いつも一言が余計!――行きましょう」


ルシアは自然と前に向けて、顔を上げた。

イオンがそれにいつもの皮肉が利いた言葉で返す。

他二人もそれを黙って眺め、ルシアの返事を待っていた。


しかし、先程までの考え込む様子のルシアは静かに、然れども気付かれないように表情には出さずに心配そうに見ていた三人がそれぞれルシアの言葉に居住まいを正したのは既に次の行動へと動き出そうとしているようでもあった。

ルシアはそれにいつもの調子で笑って、言い返し、真っ直ぐ前を見つめて、足を踏み出す。

何処までも気の置けない長年の付き合いなので。


「あら?」


「どうしたんですか、ルシア様」


しかし、そう進まないうちにルシアが歩幅を緩めたことでそれよりも歩幅の大きい三人は足を止める。

三人はルシアの視線がある一点を向いているのが見える。

そうして、その視線を追えば。


「あれ、ニカノールですか?」


「...あれはそう」


「確か、土地勘ある分、単独で動いてもらってましたよね?」


口々に己れの護衛たちから告げられる言葉にルシアは鷹揚に首肯した。

ルシアたちの視線の先にはニカノールの後ろ姿がはっきりと見えていたのである。

そして、ニカノールの行動についても全て、会議の場で二度に渡る論争の末に開かれた具体的な作戦を計画する中で担当区域を割り振ったのと同じように決めたから。ルシアは知っての通りとばかりに同意したのだった。


「...でも、ニカが探る範囲の中でこの辺りの優先順は低かったわよね?」


確か、ルシアたちとほぼ同時に会議で言っていた優先順位通りに本探しを開始していれば、今頃、ニカノールは王子の向かった方角に居るはずである。

何故、こんなところに?

不思議に思ったルシアの言葉は護衛三名にも不思議だったのだろう。

誰も異を告げることなく、一歩、ニカノールの後ろ姿に向けて踏み出したのは言うまでもなかった。


そして、そのニカノールが誰かに声をかけているのだ、と判別出来るまで近付いた時、何かを言ったのか、ニカノールが(わず)かに横へとずれる。

すると、自然に会話の相手がルシアたちの視界に現れた。

その、ニカノールが会話をしていたその相手。

そこに居たその人物を見て、ルシアは目をまん丸に見開いたのであった。


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