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518.本を探して(後編)


さて、決行が決まり、街へ繰り出すことになって、そこでこの会議が収束したかと言えば、そうではなかった。

本探しが決まったのなら、と次にルシアが出した提案によって、第二論争は勃発した。


それと言うのも、ルシアが他の思惑も持って、王子に素早く且つ少しでも多くの情報を得るには手分けして探した方が効率が良い、と正論で(まと)わせて、王子との別行動を提示したからである。

案の定、王子は例によって例の如く、これを却下。


それはタクリードの一件やそもそもそれ以前から面倒な輩にルシアは認知されるだけでなく、目を付けられている。

その事を理解していない、ということはないだろうが、実感をしていないのか、ルシアがそれを考慮した行動に改めることをしていないのが王子にとって何とも頭の痛い問題だろう。

それを考えれば、イストリアの王宮で王妃対策という名の第一王子宮にルシアを引き籠らせることが出来たのは奇跡だったに違いない。


そんな事情のある中、ここは他国の土地勘もない場所。

そして、何かしらの旅へ出る度に起こる面倒事を思えば、今回の件も既に内容が複雑且つ難題であると共にそれ以上の事件が起こる気がしてならなかったのは王子を筆頭とした先を知らない誰もがそうだった。

何より、こういう時の主人公の危機察知能力と勘を嘗めてはいけない。

本人がそうであると知らなくともその効果は絶大である。


宿の室内に留まるのならまだギリギリ許容範囲であったが、外で別行動というのは駄目だったらしい。

例え、ルシアの護衛であるイオンたちがずっと傍に張り付くと言っても、である。

まぁ、十中八九、そう言われるだろうとルシアは予測していたが。

そして、全く予測通りの言葉が王子の口から出てきたところでルシアが大人しく諦めるかと言われれば...。


結果は知っての通り。

押し切ったルシアの勝ちである。

その分、物凄い数の条件を課せられたけども。

これに関しては最早、恒例化しているのでルシアも気にしない。

要はバレなければ良いのである。


大体は全くどういう観察眼をしているのか、全く普段と変わりないはずのルシアの表情と声、言葉に違和感を感じ次第、王子は問い詰めにくるので今のところ、ルシアが隠し通せたことは数えるほどである。

なので、ルシアは基本的にそれらを守るが場合によっては破ることも視野に入れているのでそこまで気負いをすることはなかった。

まぁ、それがより条件を厳しくさせている要因なのだけども結局、何かしらの条件を付けられるのが目に見えているのなら中途半端に大人しく従順にするよりは例え、条件が重くなろうとも軽い気持ちで普段通り振る舞っていた方が良い。

ルシアとしても、有事の際の周りの者たちの心構えとしても。


そうして、冒頭に戻る。

宿を出て早々、ルシアと王子のやりとり、あれは最終的に許可を出したものの、心情的には納得していない王子と意見が押し通ってにこやかなルシアが会議の際に決めていた担当区分に従って、別行動を取る前に繰り広げられたものである。

あの後、やっぱり不服そうな王子にルシアはあっさりと背を向けて、自分が行くと言った方向へと繰り出したのだった。


「...お嬢?どうしたんですか。昨日一日、部屋に篭っていたから日差しにやられましたかね」


「ちょっと。私はそんなにひ弱じゃないわ」


昨晩からのやり取りを思い返していたルシアは横からかかった声に顔を上げた。

イオンである。

(しば)し、密偵組に貸し出していたこともあって、隣を歩くの何だか久しぶりだ。

そんなイオンのからかうようないつもの言葉にルシアはむっとして応酬する。

間が空こうが、このやり取りはいつまでも変わりない。


「......それで?お嬢は何を、企んでいるんですかね」


「あら、失礼ね。何故、そんなことを言うの。私は何も企んでなんかいないわよ」


いつも通りの何気なくも気のおけない会話の最中、ふいに降ってきた言葉はいつもの調子の良さが鳴りを潜めて、まるで任務を受ける時に近いものだった。

ルシアは軽い口調を崩さずにイオンへ返答するも、横から(ただよ)ってくる空気はその答えに満足していないようで、ルシアは嘆息した。


ルシアは前を向いて歩を進めていた先程よりもはっきりとイオンの方へと顔を向けて、見上げた。

自然と足も止まる。

視界の端で後ろを歩いていたクストディオの緋色と視線がかち合った。

少し心配そうなその顔にルシアはまた嘆息する。


「少しね。でも、カリストに言ったことが主体なのは本当よ」


「その少しを教えてくれるつもりは?」


「ない、わね」


ルシアは表情をすん、とさせて素直にイオンへ本音を受け渡した。

ルシアの頑固さばかり目立っているようであるがその実、頑固なのはルシアだけではない。

王子もイオンもそうである。

結局のところ、夫婦も似れば、主従だって似る。

ルシアが告げたそれが本音であると判別したイオンは駄目元とばかりにルシアが伏せた部分について尋ねる。

そして、それにルシアが返す言葉は予定調和とばかりの端的な一言である。

今度はイオンが長い息を吐いた。


「あー、もう。分かりましたよ、これ以上は聞きゃしませんけど何かあった時は説明してくださいね」


「ええ。でも、今回のこれは何かあるようなことではないから...」


「クストディオ、お嬢の言ってるのは」


「イオン」


イオンは必要最低限のことだけは守らせる為に妥協案を提示した。

ルシアはそれに素直に(うなず)く。

お互いが解っているからこその否やが出ない会話である。

ただ、ルシアとしてはこの隠し事が厄介事に関わってくるとは到底、思わないので要らない心配だとばかりの言葉を口にした。


その瞬間、イオンは振り返り、そのアメトリンの瞳にクストディオを捉える。

そうして、発した言葉に何を聞こうとしているのか、悟ったルシアは途中で呼び止めて、(さえぎ)った。

ルシアの鋭い声に今度はイオンが年甲斐もなく、拗ねたようなむっとした顔でルシアを見下ろす。


「良いでしょ、このくらいなら。本当はお嬢とクストディオが裏でこそこそやっていること全部、吐いてもらいたいくらいなんですから」


「そんなことしたら当分、口を利かないわ」


「ええ、しませんよ。お嬢の数少ない地雷なのは知ってますし」


わざわざ踏むような馬鹿な真似はしません、とイオンは区切る。

だから、ルシアはそれ以上の忠告をしなかった。

背後でクストディオが僅かに困り顔で、ノックスも気にはなるものの、目の前で行われているその会話を見て、野暮なことを言い出そうとはしなかった。


この話はここで終わり。

そう決めたとばかりにルシアは再び歩き出す。

それに合わせて、イオンたちも足を踏み出したのだった。


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