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502.それはもう一つの竜と人の物語(後編)


そうして、出会った一人と一頭。

出会いこと、いや、あの出会いだったからこそなのだろうか、彼らは人間と竜でありながら、普通に言葉を交わすようになった。


最初の邂逅(かいこう)の後、その一晩の間、止まぬ雨音を遠くに聞きながらも場を繋ぐように旅の話を語り続けた男に怪我が治るまでの滞在を竜が許可したところから。

竜は断じて、男の渡り歩いて実際に体感してきたその臨場感のある話に興味を惹かれた訳ではない、と言う。

しかして、そこから男の怪我が治るまでの数日間を一人と一頭は共に過ごした。


始めこそ、お互いに共にあるのは未知の存在に据わりの悪そうな心地を抱えながらも生活し、最初の晩のように夜は男が話をして聞かせた。

まるで、何処かの王とそれに嫁いだある女の物語のように。

そうして、男の怪我が治る頃には一人と一頭の間には気安くとはいかずとも対話の度にびくつくことがないくらいの情が生まれていたのであった。


何だかんだと言って、距離を縮めていく一人と一頭。

男は怪我が治ってからも暫くをこの洞窟にほど近い村で過ごし、竜に顔を見せに来た。

そして、竜に自分の目が捉えてきたものを語って聞かせ、竜はこの世界にはとても素晴らしいものがたくさんあるということを知った。


竜は自身の産まれた森とこの洞窟以外の場所を知らなかった。

外へと出る前に人によって追われたからである。

だから、男の話は全くの未知であり、しかしながら恐怖ではなく、高揚感を抱くようなそれにそれこそ世界が塗り替えられるようだった。


ある日、男が再び旅に出ると言い、村を発った。

男は見た目すらもそうと見えなかろうとやはり、冒険家であったのだ。

竜は初めて出来た話し相手、自身に害意を持たなかった男が去るということに酷く落胆した。

しかし、数か月後にまた男は何てことない顔をして竜の前に現れたのであった。


男は男で自分の話を興味津々で聞く竜に嬉しく思っていた。

冒険家というには頼りない男を、それもただ見て回るだけで何も取得しようとしない男を(けな)す者はおれど、話を聞いてくれる者は居なかった。

けれど、毎晩のように語れば、話も底をつく。

何と言ったって、男の話は実体験であるのだから。

だから、男は竜にもっと世界の素晴らしさを伝える為に、旅に出たのである。

男が初めて、自分自身の見たいという欲以外で旅立った瞬間だった。


そうして、男は旅に出ては洞窟へ戻り、竜へ語り、また旅に出て、戻ってくるという生活を送り、竜は男の居ない間はそれ以前のようにただ、男の帰還を密かに待ち侘びるようになったのであった。

それはこの洞窟が大陸の中央にほど近い場所にあったから実現できたとも言える。

その頃には彼らは全く違う種族でありながら、決して少なくない確かな絆を築いていた。

男にとって、既に竜の居るこの洞窟は帰ってくる場所だった。


仲良くなった一人と一頭。

だが、その平穏は容易(たやす)く崩れ去ることとなる。

ある日、隣国の騎士が洞窟に押しかけてきて、竜を狙ったのだ。

それは不幸にも男が頻繁に何もないはずのこの森に出入りするのを不審に思った村の人間が行商人へと溢し、行商人もまた隣国にてお得意の騎士に取り入る為に語ったことが発端だった。


旅から戻ったところだった男は村で森に騎士の一団が向かったことを聞かされる。

急いで向かうも既に竜は洞窟から引き摺り出されており、周囲を騎士に囲まれていた。

その騎士の中でも一番の実力者であるのだろう者の白刃が竜の胴を捉えた時、男は考えるよりも先にその間に飛び出す。

飛び散る男の血。

突然の乱入者に騎士も竜も目を見張った。


そこからは本当の意味で森は戦場となった。

瀕死になった男に竜は怒り狂い、その場を凌いでいた先程までとは違い、存分にその巨体を使って、次々と騎士を薙ぎ倒した。

そうして、ほとんどの騎士を一掃した後に竜は男を背に抱えて、洞窟の奥へと向かう。

その後を追うことが出来る者はもう残ってなどいなかった。


洞窟の奥、そこは竜の鎮座していた場所。

少し開けたそこで竜は慎重に男を下す。

男は(かろ)うじて生きているような状態であった。


竜は咆哮する。

それは竜という種族が持つ魔力を多大に含んでおり、びりびりと洞窟内を揺らし、響かせ、魔法となって、洞窟に巡る。

それは洞窟に誰も近付けさせない魔法となった。


竜は涙を一粒落とす。

竜は滅多に泣かない。

そして、そんな竜の涙は魔力の(かたまり)、生命そのもの。

一粒の涙が男に掛かる。

それは男の致命傷を癒すものとなる。


一瞬、とうに意識を失っていた男が朧気ながら(まぶた)を開いた。

竜の好きなきらきらとした瞳が覗く。

男はそんな瞳を(さだ)まっていないだろうに(しか)と竜を捉えて微笑んだ。

竜はそれに応える。


竜は自分の力の源である星を男に躊躇(ためら)いなく差し出した。

男がそれが何かと知るよりも早く、押し付けたそれは光り輝く鉱石よりもずっと綺麗で(まぶ)しい光の塊だった。

(しば)しして、男は目を覚ます。

男が最初に目にしたのは眠りについた竜と確かに助からない自分の身体。

男は竜に生かされたのである。


急に全く違う話ですみません。

次回はまたルシアたちに戻りますんで。

それでは次の投稿をお楽しみに!


追伸。

やっぱり、休みなしは辛いので月曜日だけは定休日にさせてください(土下座)


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