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501.それはもう一つの竜と人の物語(前編)


それは精巧でありながらもルシアたちにとって過去一、二を争うような出来得る限りの最高速度で簡易の地図を仕上げ、暮れいく空を木々の隙間に見止めながら、行きよりは軽い足取りで下山をしていた最中であった。

それは手掛かりになり得る坑道を本当に見つけることが出来た為か、それともその後に続いた地図作成で忌憚なき言葉の応酬、最早、感傷になど浸らせてたまるか、と言わんばかりの合理主義に圧されたのか、一周回って落ち着きを取り戻したニカノールのそういえば――、という冒頭から始まった。


昔々の物語。

如何にも子供が好きそうな柔らかい絵で(つづ)られるのは一頭の竜が棲む洞窟に一人の冒険家が辿り着いたとこから始まる。

これもそんな、何処にでもありそうな一冊の冒険(たん)の話であった。



ーーーーー

その男はただただ平凡な男だった。

可もなく不可もなし、少しだけお人好しの気があるそんな男がその竜と出会ったのは全くの偶然で、後にしてみればこれ以上なく運の良かったことだった。

男は旅の途中でその洞窟に辿り着く。

それは急に降り出した大雨を避ける為、雨宿りをしようとしてのことだった。


彼は次の町へと向かう為に森の中を歩いていた。

そこに降って来た大粒は彼の視界をままならぬものにするほどの豪雨。

そのまま進むにも陸であるのに押し流されてしまいそうな勢いに怪我もしてしまった彼がどうしようかと困り果てた末に隠れるようにしてあったその洞穴の存在に気付いた時、そこに逃げ込んだのは当然のことだった。


わぁ......何だ、ここ。


彼はその洞穴に大慌てで飛び込んだ最初、ずぶ濡れの自身をどうにかすることに精一杯で周囲の様子を見る暇などなかった。

だから、一息を吐いた後に洞穴の様子を見て、彼は感嘆の音を溢したのである。


そこはいやに明るい洞穴だった。

いや、奥が見えないほどに続いているらしい空洞の様子は洞窟と言って良いほどのものだった。

彼がよく目を凝らしてみると淡く周囲を照らしているのはどうやら欠片ほどに見え隠れしている壁に埋もれた鉱石が光源であるようだった。

滅多に見ない、とても雰囲気のあるこの洞窟の様子に彼は純粋に驚きと感動を覚えたのであった。


彼は引き寄せられるようにして、壁に近付き、それらを確認し、そして洞窟の奥を見た。

純粋にその奥に何があるのか、冒険家としての彼の(さが)(うず)いたのである。

彼はその場を崩しかねない収集こそしなかったものの、神秘的な場所を巡ることを主とした冒険家であった。

要はこれ以上なくこの洞窟は彼にとって魅力的に映ったのである。


どうせ、外は大雨。

しかも今日はもう止みそうにない。

彼は一気に暗色へと染め上げられた夕暮れにどちらにしろ、この洞窟で一泊せねばならないだろうと見当を付けた。

そうとなれば、安全確保の口実もあって、彼は洞窟の奥を目指したのである。

それが彼の人生で一番と言って良いほどの相手との出会いの切っ掛けであった――。


そうして、洞窟を思うがままに進んだ男はすぐさま後悔した。

それは男の背丈の倍は優にある巨体の竜がそこに鎮座していたからである。

この洞窟は竜の棲みかであったのだ。

それを知らずに男は入り込んだ。

自分を容易に殺すことも出来るその存在に男は恐怖した。


(もっと)も、竜の方はこの時、興味深げに男を見下ろすだけでどうにかするつもりは毛頭なかった。

否、どんどんと自分に近づいてくる気配に一瞬で(ほうむ)り去ってやろうと思っていたものの、男のあまりにも平凡な様子に目を(またた)かせたのである。


この竜、実は過去に何度も討伐だ何だと人から攻撃を受けており、人嫌いを発症し、こんな森の奥の洞窟に隠れ棲んでいる竜だった。

勿論、竜は何か悪さをした訳ではない。

気性も比較的穏やかで元来は人と共存出来るほど大人しい竜だった。


今回も男が洞窟の入口で雨宿りをするくらいなら放って置こうと思っていたくらいだ。

だが、奥へ進んできているようだったので、ついに居場所が割れて、自分を打ち倒しに来たのかと臨戦態勢を取った。

ところが現れたのは筋肉隆々の騎士や冒険者でもない、どちらかと言うとひょろりとした冒険家にしても頼りなさげな風体の男。

到底、竜に危害を加えることが出来そうにない男だった。

だから、竜は即殺するのを一旦、止めて、その男をまじまじと観察したのである。


そうして、出来た数舜の合間。

果たして、最初にその沈黙を破ったのは男の悲鳴でも竜のかぎ爪が(うな)る音でもなく、情けなくもしっかりと発音された男の言葉であった。


あ、あの!勝手に入ってすみません...!ここが貴方の棲みかだとは知らず!


それは紛れもなく、謝罪の言葉。

まさか、恐れて逃げるでもなく、敵と見做して戦おうとするでもなく、謝るとは。

竜があまりにもなことに呆気に取られた瞬間である。

ともあれ、あわや殺戮(さつりく)、周囲が血の海と化すところだった一人と一頭の出会いは何とも言えない形で幕引きしたのであった。


うーん、時間ないのでまた短い上に途中で切ります、ごめんなさい。


それはそうとついに500話も超えましたね(一体、何話まで書くつもりなのか、私にも予測不可)

あと、本日でこの物語、一年と9か月だそうで。

早いもんです。

出来れば、今後ともよろしくお願いいたします。


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