495.竜玉に纏わる話と道中にて(前編)
そもそも、竜玉とは何か?
最初にそれを聞いた時、ルシアは如何にもな名前にイストリア関連、延いては竜人族関連なのだろうと思った。
そして、集めた情報を見て、こうも思った。
いや、内心で叫んだ。
特に関係ないの!?と。
ルシアの聞いた竜玉の説明はこうである。
その希少価値、その素材としての一級品と呼ぶに相応しい最良の質、そして、何よりもそれだけの品でありながらその自由度の高い汎用性が高いその手の職人が喉から手が出るほど欲しがる素材だが、未だに誰も実物を見たことがない伝説上の物。
ニカノールからも聞いたそれは最早、竜玉という存在に対しての枕詞のようなものなのだろう。
ルシアもまた、竜玉に関して調べて最初に聞いたのはこの話であった。
では、それが一体どうして竜玉、と竜の名を冠することとなったのか。
それはその竜玉という素材が透き通った空のような青の色をしているとされることから自由に空を駆ける竜人族に準えているらしい。
その上、竜人族の持つ圧倒的な膂力で踏まれ、押し固められ、灼熱のような業火に溶け、凝固した彼らの鱗や骨であるという一説もあるということもルシアは得られた情報の一つに見た。
だから、一概に彼らが全くの無関係ではないとも取れる。
しかし、その名前から派生した寓話の可能性も無きにしも非ずなので微妙なところだ。
結局のところは集めた情報その全てが何の確実性がなかったということである。
けれど、如何に噂や信憑性の薄いものでも数を集めて、類似点を拾い上げれば、見えてくるものもある。
先に述べたそれらはそういう類いに分類されるものでは確かにあった。
何より、ルシアは深山の洞窟奥深くにある例の光の塊がそうである、と睨んだようにこれらの情報もまた、妙な納得を持って記憶に留めておくことにしたのだった。
尤も、参考資料の一つであって、鵜呑みにするほど純粋に物事を見るにはルシアは良くも悪くも人生経験を積んでいたけれど。
だが、その名づけに他の意味があったとしたら。
もしかしたら、自由に駆ける竜人族に因んで転移のようなものが付与されているかもしれない。
それこそが帰還出来ぬ坑道の正規の攻略法なのかもしれない。
ニカノールの幼馴染はそれに触れなかったという。
けれど、ルシアにはその幼馴染が正攻法で坑道を出たとも思えなかったのである。
多分、きっとその彼はその時に目覚めたのだろう何らかの力でごり押したように思う。
まぁ、それはあくまでルシアの推測であって事実がどうであるのかは分からないのだけども。
「ニカ、本当にこっちで合っているの?」
「んー......多分、大丈夫。少なくとも、さっきの場所までは覚えてる範囲だったからこの周囲にはある、はず?」
ガサ、ガサと背高の草を選り分けながら、ルシアは前も後ろもどころか、全方位が代わり映えしない緑の中を多少、悩んだように見回しながら、それでもそう時間をかけずに突き進んでいく背中へとそう声をかけた。
そして、返ってきたのは頼りになるのか、ならないのか、これまた微妙な返答である。
まぁ、元を正せば子供の頃の記憶。
それも昔よく遊んでいたという先程、通過した入口付近の場所ならば兎も角、ほとんど一回きりしか行ったことのない場所。
手探り状態になるのも必定。
ルシアとて、最初からスムーズに事が運ぶとは思っていない。
逆にそんなご都合展開がくれば罠か、と疑う。
だけども、ルシアたちに同行を頼んだ時の真剣さは彼方に放り飛ばした何処か気の抜けるようなニカノールの返答に対して、ルシアが脱力にため息を吐いてしまったのは仕方がないことだろう。
「まぁ、最終手段としてこの付近を放射線状に探索したら良い話だけれどね」
ただし、その場合は倍の時間がかかるなんて話では済まない。
とはいえ、見つからないといって闇雲に探すだけではそれこそもっと途方もない時間がかかるのである程度のところでそちらに作戦を切り替えるべきではあるだろう。
必要な遠回りだ。
そんなことも計上して告げたルシアにニカノールはうん、そうだね、と返したのだった。
ーーーーー
「ルシア、大丈夫か?」
暫しして、何度か方向修正を加えながら進み、山の中腹近くまで来たところで斜め上から降ってきたその言葉にルシアは転ばないようにいつの間にか、足元を見下ろしていた視線を声の方へと向けた。
そこにあるのは間違いようもなく、王子の顔である。
ルシアと同じように足は止めずにちらりと横目でこちらの様子を伺っていた。
「あら、平気よ。このくらいならタクリードの砂漠の方がずっと疲れたから」
「......それもそうか。でも、疲れたなら言ってくれ。そこまで急がなければならない理由もないからな」
「ええ、そうね。お言葉に甘えて、いつもより早めに言うことにするわ」
ルシアは心外だ、と分かる表情を大袈裟に作って王子へと差し向けた。
確かにルシアの体力では疲労が見え始めた頃であったが、今までの旅や戦場に比べれば全然楽だった。
いくら何でも、過保護が過ぎる、というのがルシアの言い分である。
だが、そもそも切羽詰まったあれらの状況と今では比べる先が違う。
けれど、ルシアは気付かないし、なまじ、その旅を共にしてきた王子たちには何も言えない。
王子もルシアの言葉に少しだけ思案げな顔をしたものの、最終的には諦念の篭る表情と共にもう一度だけ念押しの忠告をしたのであった。
ルシアはそれにころり、と答える。
その全く響いていない様子に王子は嘆息した。
ルシアは怪訝そうに何、と王子に尋ねたが、結局、はぐらかされて終わったのであった。
ちょっと短めの上、週刊なのに前後編です...(ほんと申し訳ない)
説明回なのであれですが、楽しんで読んでくださると嬉しいです。
(さすがにそろそろ、話の流れやキャラとか色々なものが抜けてきたやばい)
後日、大幅に修正するかもしれませんが、ご了承ください。
あとひと月ぐらいはお付き合いくださると大変、幸いです。
それではまた来週の投稿をお楽しみに!




