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47.見舞い先にて


ここはバレリアノ公爵邸。

ルシアは容態が落ち着いて以降、自宅で静養することとなったイバンに会いに来ていた。


護衛はイオンにオズバルドにフォティアと完全防備状態である。

敵が分からない現状で十中八九、ターゲットの私が王子宮どころか、王宮までもを出るのはどうぞ狙ってください、と見えても可笑しくないからなぁ。


「どうぞ」


案内をしてくれた公爵家のメイドが一室の前で立ち止まり、ノックをすると中からイバンの声で返事があった。

ルシアはそれを聞いてから扉を開いたメイドに一言、礼を告げて入室する。

中へ入るとイバンはベッドの上で背(もた)れに敷き詰められたクッションの山に背を預けて、こちらに手を振っていた。



「イバン、今回はとんでもない巻き込み方をしたわ。身体は無事?後遺症はない?」


メイドも執事も全て下げての、素の状態で問う。

見たところ、聞いていたようにまだ安静にしているものの、気楽な様子でルシアたちを出迎えることが出来るくらいには回復しているようだった。

こうして直接、それを確認してルシアはほっと安心した息を吐き出した。


「ああ、大丈夫。後遺症もないし、今ここでルシアとワルツを踊っても平気なくらいには無事だ。まぁ、それなりの危険は承知の上だったしな」


イバンはお道化たように腕を動かして見せる。

確かに動きに(しび)れなどによるぎこちなさは(うかが)えない。

彼の言う通り、冗談を口に出来るくらいには大丈夫らしい。


いや、確かに危険はあると想定するなら今回の件も考え得ることだったのだろう。

要はルシアの王妃はそう分かりやすい騒ぎは起こさないだろう、という読みが甘かっただけだ。

しかし、それとこれとは別でして。


「あら、そう。そんなに元気なら私に一発喰らっても平気ってことね?」


「ルシア様!?」


ルシアはイバンの居るベッドに片膝を乗り上げて片手を(こぶし)にする。

危険は承知の上だぁー?

あれは完全に自分の落度だ、とルシアは認識している。

なのに、一言も不満も言わないなんて勝手ながら腹立たしい。

いや、文句を言ってくれないからと相手に怒りを向けるのは八つ当たり以外の何物でもないとは分かっているけれど。


「はいはーい。お嬢、落ち着いてください。自分に盛られた毒を飲ませてしまったのに文句の一つも言ってくれないイバン様に怒るのは良いですが一応、まだ寝台から出ることの出来ない程度には回復されていませんから。その手は下ろしましょうねー」


「...分かっているわ、そんなこと。イバン、ごめんなさいね」


さすが、ルシアの思考も行動も扱いもよく分かっているイオンである。

慌てるオズバルドやフォティアとは違い、さっとルシアの拳に自身の手を上から被せるようにして下ろさせ、肩を引いてベッド前に置かれた椅子に座らせた。

それはもう、見事なほどに流れるような一連の動作だった。

ルシアもイオンの指摘がなくとも八つ当たりなことは分かっていたので、毒の件も含めてイバンに謝罪する。


「いや、良いよ。確かに思いの外、強力なやつで焦りはしたけどこうして生還してるし。何よりルシアだけが狙われたとは限らないだろ」


「え?」


いやいや、あれは私を狙ったものだろう。

あの毒入りのグラスはルシアのだった。


「ルシアの持っていたグラス。俺が叩き落としたから調べようがなかっただろうが、あれにも毒が混入されていた可能性は多いにある」


「...!」


ああ、そうだ。

すっかり、ルシアは自分の代わりに毒を飲ませてしまったと気が動転して、自分が飲みかけた方には何もなかったのだ、と思い込んでいた。

だが、あのもう一つの方にも毒が仕込まれていたのだとしても何ら可笑しくないじゃないか。

ルシアは目を大きく見開いた。


だとすれば、グラスの入れ替わりがなくとも先に口を付けたイバンが昏倒するのは必然だったということになる。

だからといって、自分に非が全くないなんて言わないけれど。


「私とイバンの両方を狙って?...何かに利はあるのかしら」


「そこはまぁ、カリストの弱体化を狙ったんじゃないか?」


イバンの言うことにも一理ある。

...が、けれどもルシアはそれだけでは()に落ち切らなかった。

イバンは将来、バレリアノ公爵位を継ぐ立場で王子とも仲が良いからそれなりにメリットはあるだろう。


なら、私はなんだ?

王子と仲が良いのはルシアも同じだが、ルシアが王妃の手駒であることも、また暗黙の了解とも言える周知の事実。

今はまだ王妃の手駒としての価値は低いだろうが、だからこそこのタイミングでルシアを処分とするのは時期尚早も過ぎる。

それでは王妃自身の企みではないという考えになるが、だからといって王妃派の人間の仕業とも考えられない。


そもそも本当にこれは王妃、()いては王妃派の仕組んだことなのだろうか。

確かに最近、何かしようと呼び付けたり、嫌がらせの毒が混入していたりしたけど。

その多くは摂取したとしても精々体調を崩すくらい。


今はまだ王妃は王子を殺す段階ではないと思っているのではないだろうか。

だから、今回の致死性の高い毒は別物の気がしてならない。


「......情報が少な過ぎるわ。まだ断言出来ない」


何にせよ、犯人像の掴めていない今、何を論じたところで机上の空論にしかならない。

...早く解決出来れば良いけど。

ルシアは(かんば)しくない現状を憂いたのだった。


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