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46.数日の郷愁


「お嬢、お久しぶりですね」


「...ええ、たったの六日間だったけど何も出来ない部屋で大人しくしているのはとても長かったわね」


ルシアは迎えに来たイオンと共に自室へと向かっていた。

今日やっと軟禁が解けたのである。

これで情報収集にも自ら動くことが出来る。

まぁ、既にイオンにノーチェにニキティウスにとこちら側の人材はフル稼働しているようだけども。


それにしても私は元々、自分のことをアクティブな方ではないと思っていたが、よくよく考えれば普通の令嬢よりずっとアクティブだった。

軟禁中もニキティウスが報告ついでに本を差し入れてくれなかったら退屈で死ねたに違いない。


「ねぇ、イバンも目覚めたのでしょう?出来るだけ早い見舞いを希望すると伝えてくれる?」


「了解です」


そう話しているうちに自室前へと着く。

見慣れた扉が懐かしく思えることにルシアは驚いた。

部屋に入るとそれはより強く感じられる。


「私の嫌疑(けんぎ)はカリストが晴らしてくれたのよね」


「ああ、そうですよ。あの日、お嬢は道中で王女に絡まれてドレスも装飾品も全て一新したでしょ。その服は急遽(きゅうきょ)、用意したものだったんで毒を隠して持ち込むことは実質不可能てことです。あの日、仕度(したく)が早く済んでお茶会の開始時間より早く出たのも、王女に遭遇したのも、あの場に水差しを持ったメイドが通りがかったのも、全てが予測不可能な出来事だった。次に怪しい第三王子宮へ一緒に向かった従者の俺も第三王子宮自体に入っていないので持ち込むことは無理。それを殿下が訴えてくれたんですよ」


「確かにそうね......」


本当にいい迷惑を散々かけてくれた王女だけど今回ばかりは全くの無意味ではなかった。

とはいえ、もう水を被るのは御免(こうむ)りたいけど。


「本当は初日の時点でそれは分かっていて殿下も論じていたんですが、如何(いかん)せん頭の固い老害って何処にでも居るもんですねぇ」


「ああ、そういうこと。それは随分、カリストに骨を折らせたようね。後で礼をしないと...ところでその当の本人は?暫くは持ち帰って仕事していたと聞いていたのに居ないわね」


ルシアは部屋をキョロキョロと見回すが王子は居ない。

寝室の方にも人の気配なし。


「あー、えーと、殿下はちょっと忙し過ぎてここ六日ほど、この部屋には戻ってないですねー」


「......は?もしかしなくとも執務室で寝起きしていたと言うの?」


六日帰っていないということはルシアが軟禁されてからずっとということだ。

なにやってんだ、あの王子!!

人が折角、ニキティウスに無理はするな、とわざわざ伝えてもらったというのにその行動を無茶以外の何だと言うのだ。

しかもルシアへは仕事を持ち帰って働いているけども、それでも適宜(てきぎ)、休めるように部屋には戻っていると信憑性(しんぴょうせい)の高い噓を伝えてきている辺り、確信犯だ。


私の周りの人間は立派なワーカホリック過ぎて泣けてくるんですが。

ねぇ、ちょっと少なくとも誰か一人は過労死って死因を聞く羽目になりそうなんだけど。

私、そんな死因を聞くのは嫌だよ!?


多分、イオンやニキティウスの話を総合するに王子は今、通常時の二倍近くの仕事量を(さば)いているはずなのにだ。

ただでさえ、普段からかなりの量を(こな)しているというのになんでそれで生きてんだ。


「...殿下(いわ)く、部屋に帰る時間も惜しいらしいです。まぁ、実際そんな暇がないほど皆が動いてる状態です。何せ、敵さんが今までと違って全然読めないもんで」


確かに今回の事件は軽く聞いただけでも謎な部分が多いようだ。

犯人の姿さえ、全く掴めていない。

ねぇ、もしここが小説の中だというのなら、なんでこんな大事が本編になってないんだ!

既に作中で語られてもいない程度の事件ではないでしょうよ。

...しかし、それは兎も角として。


「そう、...けれどそんなの効率が下がる一方だわ。イオン、部屋に送り届けてくれたばかりで悪いけれど、執務室、行くわよ」


「え゛」


さっき入ってきた扉を開いて廊下を再び歩き始める。

後ろからあー、これ後で殿下に何言われるやら...とイオンの悲痛な声が聞こえてくるが知ったことではない。


ルシアは礼をせねばと思っていたことも忘れて執務室に缶詰め状態らしき王子を強制的に休ませるべく猛スピードで王子宮を歩き抜けたのであった。


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