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471.探る、探る、職人の国の謎


「小路の魔法、とそれをかけた人ね......うーん」


「ああ、出来るならで良いの。ほら、私もそちらには詳しくないのだけれど。でも、あれは相当古いものでしょう?だから、言い伝えのようなものが残ってないのかしらと思って。ただの好奇心からの質問だから深く考えないでも良いわ」


ルシアの質問、それは周囲の(わず)かな音の群れにいとも容易(たやす)く紛れ、呑まれてしまうような声音で発せられたものだった。

けれど、それはしっかりと前を行くニカノールの耳へ辿り着いたようできょとりと(またた)く藤色が振り返って、ルシアを映した。

そして、(しば)しの間、質問の意味を呑み込むように(まばた)きを繰り返したニカノールは(あご)の下に手を当てて、首を(かし)げ、ルシアの言葉を復唱した。

そのまま片眉をひょいと上げて、逡巡するように少しだけ真剣そうな顔で斜め上を仰いだニカノールは自身の持つ情報の引き出しを漁っているのだろう。


その様子にルシアはすぐさま顔の前で手を横に振って、そこまで真剣に考えるほどのことではない、と言い添える。

魔法をそのものを、それを作った人物を、その仕組みを知っているのか、ルシアがそう尋ねたのはそれを知りたいからでもあるし、この場の特殊さの理由の一端を多少なりとも気付いてしまったからこその言葉でもあった。


古過ぎるものは、それが大規模であればあるほど、改竄(かいざん)というものが付き(まと)う。

一概に全てが全て、改竄されているとは言わない。

けれども、少なからず、歴史の中で良いように記録されていることの方が多い。

ましてや、ルシアはそれを『守り』の為のものだと考えた。

それならば、魔法をかけた当の本人によって意図的に隠蔽されていても可笑しくない。


では、そういう時に少しでも正当に近いものを見つけるにはどうすれば良いか。

幾つもの文献を見比べて、整合性の取れた仮説を立てるのも良いだろう。

様々な要因から最も可能性の高いものをベースにするのも良いだろう。

まぁ、どちらにせよ、どんな事柄であれ、何事も情報が大事だということだ。

例え、それが些細なものであったとしても。


意外に住民同士の間で伝わってきた寝物語や教訓の為の独特な言い回し、何てことない日常に紛れ、代々、受け継ぐという意志なく、受け継がれてきたものの方がずっと当時の名残を残していたりする。

例え、それがそこらで子供が唄っていた遊び歌だろうが、どう聞いても脚色されまくっているだろう胡散臭い子供向けの物語だろうが、それらが人の手によって作られたのであれば、何らかの意味があるはずで。

何かを元に、何かを踏まえて。


勿論、作り手に意図がなかったとしても、何物も何らかの影響を受けずにはいられない。

何かを形成すにはそれを肯定するにも否定するにも何かしらが前提に来るものである。

そうして、影響を受けるのであれば、それはそれらが作られた時の状況が最たるものであろう。

だから、それそのものに篭めれらた意味合いが重要でも何でもない、全く関係のない拍子抜けするようなものだったとしても、それらには当時が宿っている以上は情報に成り得るということ。

だから、ルシアは眉唾物で良いから何か思いだせることはないのか、とニカノールに聞いたのだった。


「――言い伝え、言い伝えね。ここの、小路の、魔法...魔法?」


「あら、何か思い当たることが?」


やはり、この場で産まれ育ったであろう彼にとっては当たり前に聞いてきたそれをそれとして思い出すのは難しいのか、完全に没入してまで考え込んでいたニカノールがぶつぶつと呟くのを聞いていたルシアは最後に二度繰り返した言葉の末尾に疑問符がついていたのを感じ取って、そう声をかけた。

ニカノールが何かしらの引っ掛かりを覚えたのだろう、と思ったからだ。

そんなルシアにニカノールは少しだけ眉を垂れ下がらせてからあー、大したことじゃないんだけどね、と語り始めたのだった。


「魔法って言葉自体はそこまで馴染みがないというか、実際、それが十八番(おはこ)なのはやっぱりお隣のシーカーだし。まぁ、何かを作るにあたって有効だったりするからかじってる人は居るよ?だけど、まぁ、基本的にはここの人たちも魔法はあんまり馴染みがないってことを前提を踏まえてね、惑わしの小路に関してだけは小さい頃からそういう魔法がかかってるから、って聞いてたの」


「――確かにここなら魔法ではなくて、何かしらの絡繰りがある、と言われる方が自然よね」


「でしょ?でも、それに気付いちゃうと何かあるのかな、って思っただけなんだけど...」


再三に渡って言うが、ここは職人の国であって、魔法の国ではない。

勿論、魔法はシーカーだけに存在している訳でもない。

けれど、やっぱりそれに関するものは数が少なく、大規模なものはほぼない。

何より、ここは職人の国。

誰か、職人の手によって作られたものであるならば、その構造がどれだけ未知であろうとまだ理解は出来る。

大昔にそれだけの頭脳とそれを実現出来るほどの実力者が居たのだろう、と予測出来るから。

まぁ、それはそれで魔法でも何でもないようなのに、これほどの技術を一体、どうやって、とまた別の謎がルシアたちの前に横たわっていただろうが、所詮、今まさに思い悩んでいる内容に比べれば、まだこの土地の色を残している分、違和感はない。


さて、では何故、魔法なのか。

これだけのことを魔法ではなく、技術として作れる者が当時、居なかったから。

現代でもシーカーで名を馳せただろうこれだけ高度な魔法を使うことの出来る者がこの地に居たから。

因みにスカラーの建国時、既にシーカーは存在している。

そうした幾つもの可能性や予測は答えを確かめることが出来ないと分かった上でルシアの脳裏を過っていった。


「...あ、でも、今思えば、あれもそうなのかな?」


「あれ?」


新しい気付きはあったものの、情報としてはいまいち収穫のなかった会話にそれでもその気付きに基づいて、手持ちの情報で出来る限りの予測を立てようとルシアがいつものように他人任せで思考の海に沈み込もうとした時、話しているうちに徐々に(よみがえ)ってきたのだろうニカノールが思い出したように声を上げたのを聞いて、ルシアは思考を切り替えて、ニカノールを見上げた。

そうして、ニカノールの言葉で何を指しているのか分からないその部分を問うように繰り返した。


「うん、ここの子供なら誰でも知ってるちょっとした昔話なんだけどね」


あんまりにもここでは縁のない話だから、皆、作り話だって思ってる話だ、とニカノールは重ねて言い、へらりと笑った。

ニカノールの言では目的地までもう少し。

けれど、昔話の一つや二つ聞くくらいの時間は充分にあるだろう。

そう判断したルシアはニカノールにその昔話を語るよう、促したのであった。


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